保湿系トライアルセット

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新と千早の大学生活



 「さっきの……部で先輩と取った試合やけど、おれの試合って千早にはどう見えた?」
 千早の正面に同じように正座して新は切り出した。
「私も自分の試合に集中してたから、詳しくは見れてないんだけど……なんか新の取りがいつもと違ってた気はする。普段の新って、空札に誘い出すってあんまりしなかったと思うから……」
「……やっぱ鋭いな、千早。序盤の何枚かで気ぃついたんや、おれも」
 部室での試合序盤で気付いた三笠の意図。ぽつぽつと新は話し始めた。
「あの人……三笠先輩やったっけ。序盤おれの手をガードしに来てたんやけど、手の出し方がの。札とか試合とかより、おれを潰す方優先してたみたいな動き方やったんや。出した手戻す時とかも、こう……肩とか上げてくる感じでさりげなく顎とかにぶつけて来ようとしてたっちゅうか……まあ、ほんな風な感じや」
 三笠の音への反応は決して悪くなかったのだが、物心ついた頃からかるたを続けてきた新には相手の動きもよく見え、三笠の動きを躱して戦法を変える事も出来た。しかし三笠の対戦相手が初心者だったなら肘や肩を当てられて怪我をしていたかも知れない。

 「まあ、それくらいは別に何も気にせんけど……何やろ。あの人……かるたを嫌いっていうより、憎んでるみたいな感じやったんや。何があったんか知らんけど、巽先輩も言葉濁してたぐらいやし、よっぽどの事やったんやろうの。……部の先輩の誰がどこで聞いてるか分からんで、部屋戻るまで黙ってたんや」
 言いながら新は東京に転校する切っ掛けとなった、父と祖父の口論をふと思い出した。
(父ちゃんも……じいちゃんが倒れるまではかるた嫌いやって言うてたのお。……おれに直接なんも言わんかったのは、その気持ちを向けるのは父ちゃんの父親としてのじいちゃんだけやって、分かってたでなんかも知れん……)
 実際、三笠が新に向けてきた敵意が、個人的なものか「かるた全体」に対してなのかは分からないが、あそこまで憎しみを剥き出しにするだけの出来事があったのかも知れない。
「……ほやで千早も、ここだけの話にしといての。……て、どうしたんや、千早……?」
 いつの間にか千早は正座したまま俯いていた。
「何で……?」
「……何でって、先輩に何あったんか分からんのやし……」
「そうじゃなくって!」
 怒ったように千早が顔を上げる。白い頬が涙で濡れていた。

 「なんで、そんな気持ちで……かるた取るの?! ……可哀想だよ、かるたが……っ! は、原田先生が言ってたよ……『百人友達が出来たと思って仲良くなれ』って。……ふ、札だって憎しみで払われたら、可哀想だよ! ……何で、どうして?! 分かんないよ……酷いよ……っく、ひ、どいよ……」
 純粋にかるたへの扱いに対して憤っている千早の姿は昔と全く変わらない。
「……そうやな」
 千早の憤りは偽らざる本音だと分かっているし、新の中にも同じような気持ちはある。だから逆らわずにそれだけ言うと、泣きじゃくりながら千早が急に飛びついてきた。
「……わっ……」
 勢い余って、しがみついている千早ごと新の身体は畳の上に仰向けで転がる。新の胸に顔を埋めたまま、千早は泣き続けた。新は震え続ける千早の背中にそっと腕を回し、天井を見つめて落ち着くのを待つことにした。
(千早はホントに真っ直ぐなままや……ほやで逆に分からんのやろうな。……おれは……どうやろ。かるたを嫌いになった事はない……ほやけど、かるたが取れんくなって離れた事はある。あの時千早と太一が来んかったら、戻られんかったかも知れん……)
 そこまで考えた時ふと頭に浮かんだ事を新はそのまま口にした。

 「千早、泣く事ない。……おれかって、かるたから離れてたけど、かるたに帰って来れたのは……千早らに背中押してもろたでや。福井まで来た事だけでのうて、かるたが好きやって千早らが頑張ってる姿もほうやった。そういう姿って、人を動かせるもんやって思うんや。……ほやで千早は、信じるまんまに頑張ればいいんや。……の?」
 千早は新の胸にしがみついたまま顔を上げないが、嗚咽が止まっている所を見ると新の言葉は届いているようだった。
「おれも一緒に頑張るし。……先輩らに分かってもらえるように、頑張るで……」
「……絶対?」
「うん、絶対や。約束する」
 千早がようやく顔を上げた。泣きはらした目が赤いが、まっすぐに視線を合わせられて新はこんな時でもドキリとさせられる。
「新、ありがとう……」
 ようやく笑みを浮かべた千早がぎゅっと抱きついてきて、新の鼓動は否も応もなく跳ね上がる。

 「ち、千早……ほんなしがみつかれたら、おれ……どうしていいか分からんくて困ってまうが……」
 がばっと千早が頭を起こして身体の位置をずらしてきた。
「あっ、ゴメン! 重かった?!」
 そういう意味で「困って」いた訳ではないだけに、新は苦笑するしかない。体調不良で倒れた千早を抱えて運んだ事もあるが、格別重いとは感じなかった。
「重いんでなくて……こういう、意味でや」
 千早の額にそっと唇を押し当てた。顔を離すと、ぽっと頬を染めた千早と視線がぶつかる。それでも意を決したように、千早の顔は新にゆっくり近づいてきた。新は片方の肘を支えに少しだけ上体を浮かせ、そのまま千早の唇を自分の唇で受け止めた。
「……ん……っ……」
 泣いた後で息苦しいのもあるだろう。千早がくぐもった声を出す。だが新には覿面だ。
「……千早、────」
 このまま続けていいか。唇が離れる合間に聞かれたそれに、千早は新にだけ分かる程小さく頷いた。



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written by Hiiro Makishima