4.5
|
千早が頷いたのを受けて、新は体を入れ替えた。畳の上に千早の長い髪が扇のようにふわりと広がる。それを手で直してやりながら、新は千早の上に覆い被さって唇を今度は深く合わせた。 「ん……っ……」 鼓膜を打つ微かな声。新の全身がかあっと熱くなっていく。 「ん、お願い、ちょっと……待って、新……」 急に千早が新の身体を両手で押し留めながら言ってきた。 「……何や?」 正直、肩透かしを食らった気分だが、無理強いだけはしたくない。新は落胆が声に出ないよう努めて尋ねた。 「や、その……部活で汗かいたままだし……その、汚れてる、から……し、シャワー……浴びたい、なって……ダメ、かな……」 最後の方は真っ赤になって蚊の鳴くような声で言ってくる。その仕草が妙に可愛らしく見えて、新はいつの間にかふっと笑っていた。 「行ってきね。……ああ、ほやタオル、これ使こて」 新は押し入れの中にある衣装ケースから厚手のバスタオルを一枚取り出して千早に手渡す。受け取った千早はぱたぱたと備え付けのユニットバスに消えていく。 「……はぁ……」 熱を持て余し、新は床の上にごろりと横になった。千早が意地悪でした事ではないが、男としての欲求を躱されると正直どういう顔で千早が出てくるのを待てばいいのか分からなくなる。 (出てきた千早に飛びつくのもなんか……がっついてるみたいで嫌やしなあ……ほうかっちゅうて(だからといって)かるたん時みたいに、『さ、やろっさ』とか、よう言わんし……て言うか、無理や。……って、おれ何あほんてな(馬鹿みたいな)事ばっか考えてるんや、さっきから……) 世間の他の男は一体どうやって彼女を誘っているのだろうか……そんな事を考えてみたり、世間一般の意見が自分と千早にも通用するのかと疑問に思ってみたり、どう頑張っても心があちこちに彷徨ってしまう。 ガチャリと浴室のドアが開く音が聞こえ、新の心拍数が一気に跳ね上がった。どうしていいか結局決められず、新は千早が入ってくる方角に背中を向けて正座する。 「……新、シャワーありがとう」 「あ……うん」 背中を向けたまま答えると、背後で千早が座る気配がする。次の瞬間、二本の白い腕が新を背後から抱き締めていた。 「……っ! ……ち、千早……?」 剥き出しの腕が伸ばされているという事は、千早はバスタオルを巻いただけの姿で出てきたのだろう。新の鼓動はさらに激しくなる。 「新、あの、変とか思わないでね……? わ、私さっき、ストップかけたし……その、新に悪い事しちゃったかなって……思って、それで……その……」 新は自分を抱き留めている千早の腕に自分の手のひらをそっと添わせた。 「無理に言う事ないざ、千早。ちょっとびっくりしたけど、変やとか全然思わんし」 「で、でも……」 「もう言わんでもいいって。……分かるで」 新は首元に巻き付いた千早の腕をそっと撫でると、身体の向きを変えて腿の上に千早の膝が乗るような格好で彼女の細い腰をしっかり抱いた。 「おれのためにって思ったでやろ? ……ありがとうな」 もう一度畳の上に千早を横たわらせて新は自分も上半身だけ裸になると、さっき途中だった深いキスを再開させた。舌で千早の唇を割り、探り当てた彼女の舌を貪るように絡め、吸い、自分の裡にある熱と同じものを千早の中にも起こさせようと濡れた感触を味わう。 「……んっ、……っ、ぁ……、んん、っ……」 少しずつ千早の声に艶が混じり、新の肩に添えられた指先に力が入ってくる。それに力を貰ったように意を決し、新は巻き込んであったバスタオルの端を指で外すと、パイル地を左右に開く。 「千早……綺麗やなあ……」 一糸纏わぬ、均整が取れていながら十分女性的な肢体が目の前に横たわっている。頬をバラ色に染め、両腕を身体の前で小さく折り畳んで胸を隠そうとしている仕草も可愛らしい。新の喉仏が大きく上下した。 「……前も、そんな事……言ってなかった、新?」 「言うたかもの。……別にいいが? 何べん言うたかって。……ほんとの事なんやし」 言葉を返しながら身体を倒す。胸の前にあった千早の手が素直に新の肩に回され、あまり日に焼けていないデコルテとそこから自然に盛り上がる形のいい乳房が新の視野に飛び込んできた。初めて千早と結ばれた時、反応が違っていた耳に小さなキスを落とすと、思った通り白い身体がぴくんと反応する。 「……やぁ……そこ、弱い……」 小さな抗議の声が上がるが、新はそれをわざと無視して耳朶の裏や首筋に唇を這わせた。甘えたような泣いているようなその声をもっと聞かせて欲しくなる。 「……あ、んっ……」 唇を白い喉にぴったりと当てて、吸い付くようなキスをすると、濡れた音が部屋に響いて千早の首筋にうっすら赤い痕が付いた。 (あ、出来た……) 気を良くして同じようなキスを鎖骨の周りにも落としていく。千早の白い肌に残る跡は花びらが舞い散ったように映る。ほんの少し視線を落とすと、自分が付けたキスマークとは色味の違う可憐なピンク色が微かに自己主張を始めているのが見え、新は身体をずらしてそっとそこを自分の唇で覆った。 「んッ……!」 千早は新の肩から手を離し、片手の甲で自分の口を覆う。構わず含んだままの尖端をころん、と舌先で触れてみると、もう一方の手がぱたりと床に落ち、身体の下に広がったバスタオルをぐっと握り込んだ。 「……っ、……ん、……ぅ……」 「……千早?」 訝しんだ新が目線を上げると、千早は懸命に唇を噛み声を堪えている。新は口元を覆っている手をそっと外した。 「ほんな噛んだらあかん。……痛いやろ」 そう言うと潤んだ大きな目が新を見上げてくる。 「だって……声、恥ずかしいし……」 それを言うのも精一杯らしい含羞に満ちた顔に、新はふっと笑いかけた。 「気にする事ないって。……おれな? 千早が嫌やったり痛かったりせんかとか、……き、気持ちよくさせられてるんかとか、自信ないでさ、……ほやで、聞けると嬉しいし、安心もするんや」 「……うん」 新は取ったままだった千早の片手を優しい動作で床に戻し、自分より一回りは華奢な二の腕や肩にまたキスの雨を降らせ始める。今度は千早も素直な反応を見せてくれた。 新の指や唇が触れるたびに千早の身体はぴくりと跳ね、吐く息が少しずつ熱を帯びていく。胸元を吸い上げられると身体のどこか奥深くから、甘いのに泣きたくなるような切ない感覚がじわりじわりと千早の全身に広がっていく。 「……んっ……新、あら、たぁ……」 いつもと違う、艶めかしい千早の声で呼ばれる自分の名前。音にすればたった三文字なのに、新の頭の中が灼けついて、喉がひりひりする。もっともっとその声を聞きたくて、新は自分の身体をさらにずらし、引き締まった腹や可愛らしい臍にもキスを落とす。目線のすぐ下には自分とは違う柔らかい茂みとそこから伸びるすらりとした脚があり、衝動に突き動かされるように新は艶やかな象牙色をした脚の間に片手を差し込み隙間を作ると、自分の身体をその隙間に置いた。 「……や、だ……新、そんなとこ、見たら……恥ずかしい、ってば……んんっ!」 脚を閉じようにも新の肩に阻まれ、精一杯の抗議は花弁を開くように触れてきた新の指で断ち切られる。 (……凄く、綺麗なんやな……) しっとりと湿った薄いピンクの襞を傷つけないようにそっと開くと、ぽっちりと充血した真珠のような蕾が顔を出す。 「や……んっ」 他でもない自分が奪っておきながら、そこを目の当たりにした新の心に花盗人のような僅かな罪悪感が一瞬湧き起こったが、その扇情的な眺めに惹き付けられる思いの方がどうしても強い。新はゆっくり顔を近づけると、千早を驚かせないよう唇を優しくその蕾に触れさせた。 「……っ、あぁ……っ!」 千早の足がぴんと突っ張り、背中が大きく撓る。その反応に力を得て新はその蕾を舌先でそっと転がす。そのたびに千早は身体を大きく仰け反らせたり、長い髪を大きく乱れさせて首を左右に振りながら艶めいた声を上げ続けた。 「あらた、新……っ、あっ、……や、あ……っ、は……じけ、そう……っ!」 千早の声音がどんどん切羽詰まった色に変わっていく。新は口での愛撫を止め、唾液と蜜で光っている蕾を指先で撫で上げ出した。 「んっ、やあ……あ……あっ……、もうダメえっ、新っ、新ぁっ!」 ぴんと両足を突っ張らせ、感覚の奔騰を堪えていた千早の下肢がびくんと大きく跳ね上がり、腰が床に落ちると同時に小刻みな痙攣を繰り返す。白い身体が震えるたびに、千早の口から言葉にならない声が切れ切れに紡がれた。 |