30.5
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「え、ちょ……新? きゅ、急にどうしたの……?」 不意に後ろから抱きすくめられ、千早の声が上擦った。 「おれも良う分からんけど、千早が台所立ってんの見てたら、何か……色っぽいなー……って思った」 「……え? ……っ、やぁ……」 更に問おうとした千早の耳を新が優しく噛んできて、言葉は途中で引っ掛かってしまう。思わず漏らした声に煽り立てられ、新は唇を千早の首筋に滑らせた。 「っ、ダメだってば……っ、こんな、ところ……で……」 「我慢できん」 耳元で短く言い捨てて、新は片腕で千早を抱き締めたまま、もう一方の手を着ているチュニックの下に潜り込ませる。耳にキスを落としながら手探りでブラの中に指先を差し入れ、つん、と感じ取った可愛らしい先端を転がすように優しく触れた。 「……あっ、や、ダメ……っ」 千早の手が縋る物を探すように動き、シンクの縁をきつく掴んでいるのが見える。 「……千早……」 名を呼んで胸元にあった手を一旦服の中から抜き、千早の顎をそっと引きながら背中から覆い被さるように唇を求めた。窮屈な格好の中、千早が上半身を捻るように応じてくれる。それが嬉しくてキスを深くしていくと、合間に零れる千早の吐息がどんどん熱くなっていくのが伝わってきた。 「……このまま、したい……」 一旦キスを解き、ほとんど吐息だけの声で新は告げる。背中に伝わる鼓動が、新が本気だと千早に言って寄越すようだった。 「嘘とか冗談じゃ、ないのは、分かるよ。……けど、本気で……我慢、無理? すごく……恥ずかしくて……」 「……見境ないって、幻滅するやろうって、思うけど……無理や。ごめん……」 新の声が震えている。それに励まされるように、千早は腰を抱いている新の腕にそっと手を添わせて、新よりも小さな声を口にした。 「う……ん」 背中にかかる新の重みから緊張が抜けたような気がする。 「ありがとう。……勝手なおれで、ごめんな……?」 小さくかぶりを振ってくれた。そんな千早がどうにもならない程愛おしいのに、その姿が新を更に煽る。けれど二つの感情はどちらも千早を求めて止まないのは確かだった。口付けを交わしていた間空いていた片手でそっと首筋を撫でていくと、千早の背中が柔らかく反っていく。 徐々に緊張を解いて、素直に感じ始めている千早の耳に、新は再びキスをいくつも落としていった。 「……っ、そこ、弱……、っあ……んっ」 熱を孕んだ悩ましい声は新の箍をあっさり弾き飛ばしてしまう。背後から抱き締めたまま、千早が愛用しているキュロットのジッパーを下げ、ボタンを外すとそれはキッチンの床にすとんと落ち、まだショーツに遮られてはいるものの、ウエストから腰への魅力的な曲線が露わになった。 「千早……っ、欲しい……全部」 「やあぁんっ……!」 耳元で告げられる声、頬にかかる熱い息、もどかしげに慌ただしそうに、千早をまさぐろうとしている手。千早の意識もそれらに押し流され、唇から紡がれる声に甘さが増しているのが自分でも分かった。 「……っ!」 背後で聞こえる、新がジーンズの前を開けた小さな音にさえ、身体が反応してどうにもならない。それを喜ぶように新の片手がショーツを押し下げて、ついに千早に辿り着く。そのまま指先が小さな蕾を軽く撫で上げてきた。 「っあ、あぁ……っ!」 「もの凄く……濡れてる……」 腿のあたりまで伝い下りる蜜に、新は驚嘆したように呟く。けれどそれは一瞬だけで、濡れそぼったそこに自分の欲を宛がって、少しずつ千早を割り広げていった。 「あ、やっ、それ……、あぁっ……! おかしく、なっちゃう……!」 シンクの縁を指先が白くなるほど強く握り、背中を反らして紡がれる言葉。柔らかく、そしてきつく締め付けている千早の内側。新の頭の中が真っ白になる。 「なって、いい。……一緒や、おれも」 片手を千早の手に重ね、もう一方の腕で千早を抱き締めたまま、新は動き出した。 「……や、あ……、あっ、あ……!」 キッチンという場所もそうだが、立ったまま背後から貫かれるこんな体勢自体初めてで、千早の身体に今まで知らなかった感覚が走り抜ける。新の動きが力強さを増すほどに自分の裡にある熱がどんどん強まって、出口を求めたそれが、ついに唇から迸った。 「あら、た……っ、も……っと……!」 千早の口から告げられたその言葉と、しゃくり上げるような腰の動きが、目と耳から新を蕩かしにかかる。 「ここ……?」 少し不慣れな体勢だったが、千早の動きに合わせようと新は少し膝を曲げて千早を下から上に突いてみた。 「さっきの、とこ……、一番、いいの……っ! 新が、欲しい……もっと、いっぱい……!」 (千早が、自分から……言った?) 今までは問うても恥ずかしがってなかなか口にしなかった千早が、焦れったそうな、そのくせ艶っぽい声で初めて新をねだっている。それを本気で言っているというのは、いまや床まで滴り落ちている蜜が言葉以上に物語っていた。 「いくらでも……あげるざ? ……ここ、やろ?」 「あぁ……っ! っあ、んっ!」 膝の高さを戻して突くと、千早の唇からさらに悩ましい声が紡がれる。 新が動くたびに千早が啼く。ただ、締め付けが一段ときつくなり、重ねていた手も抱き締めていた腕も放し、両手で腰を掴んで突き立てなければ、あっさり達してしまいそうだった。 「……あぁんっ! お願い、新、お願い……っ!」 「っ、何が……、お願いなんや……? 千早……っ」 別に意地悪をしたい訳ではないが、堪えたくて新は訊く。 「そこ、いいの……! 凄、っや、あぁ! こ、のまま、い……かせてぇ……ッ!」 悲鳴のような声を上げて懇願してきた千早に、そんな事は乞われるまでもない、と新は腰を大きく、速く突き入れていった。 「あ、あ、あぁ……っ! あらた……っ、私、もう……っ! 新、新ぁ!」 譫言のように名を呼ぶ千早の中が限界まで引き絞られて新を引き込む。もう堪える術などなくなった新は、腰を掴んでいた手に力を込めてスパートをかけた。 「く……っ、千早、おれも……や……。一緒、に……!」 「んっ、っ! 新、お願い、来て……っ! っあぁ……、───ッ!」 一際甲高く声を上げた千早の全身が震え、内側も新がこれまでに味わった事がない程大きく爆ぜている。 「……! ち……はや……っ!」 一気に溢水点を超えた新は腰を大きく震わせて、ひくつくそこに熱と欲を一気に迸らせた。 「ごめんな……千早。我慢利かんとか我が儘言ってもて。……何でこんな堪え性ないんかな、おれ……」 流し台の下にある戸棚に背中を凭れさせている千早はまだ荒い息を吐いている。ようやく頭が冷えた新は目線を合わせるため、床に膝をついて詫びた。キッチンの床にはまだ、拭き取り切れていない残滓が丸い輪を作っていて、自分の欲と忍耐力のなさを直視させていた。 「……謝ること、ないよ……」 少し呼吸が落ちついてきた千早が、少しだけ舌足らずな口調で言葉を投げ掛けてきた。 「心底本気で嫌だって、思ったら……。蹴飛ばしてでも、イヤだって、言えたから」 初めての時に新がそう言ってくれた、と照れながら千早は手を差し伸べて言葉を継ぐ。 「ありがと……千早」 その手を取って、新はもう一方の腕で千早の背中をそっと抱いた。逆らわず新の肩口に顔を乗せた千早が小声で告げてくれる。新が自分を求めた事を我が儘と言うなら、新をねだった自分もそうだ、と。 「……ん、なら、もう言わん。……動けそう? 風呂張るし」 腕の中でこくりと頷かれ、新は一度抱擁を解いて浴室に向かった。 汗を流し終えた二人は今度こそ部屋の中に腰を下ろして寄り添う。他愛のない話をして、クスクスと笑い合うのが心地よかった。 「なんかな、あの人絡みで気分塞いでたけど……。千早が窓から入ってきて、ドアの外に聞かせてまえ、って。……おれもちょっと、面白かった」 「……実は、私も。新、ちゃんと乗ってくれたし……ドア閉まる音聞こえた時さ? やったー、って内心思っちゃったんだ」 これで諦めてくれるといいけど、とお互い顔を見合わせて言っていると、眼鏡越しの瞳にどことなく悪戯っぽい光が宿った。 「さっきの声聞かせてまえば、完璧に撃退できたやろなあ」 「え? さっきのって、まさか……さっきの?! それ絶対殴る! 絶対イヤ!」 ぎょっとした千早の前髪をくしゃりと撫でて、新は「嘘に決まってるやろ」と笑う。 「誰にも聞かせん。ほやけどおれ、我が儘やし。もっと聞きたい。……おれだけ独り占めする」 そんな事を言う新の顔に、千早は拗ねたような目をしばらく向けて呟いた。 「……新の、欲張り」 「うん」 短い応えにようやく千早は表情を戻し、新の肩にこつん、と額を当てた。 |