保湿系トライアルセット

 1

新と千早の大学生活。
オリキャラが何人か出ますので苦手な人注意してくださいませ。



 早春。各地の大学では悲喜交々の表情を浮かべる人だかりが出来ている。それは無論、東京のこの大学でも同じだった。
「……」
 校舎の正門の前で、ガチガチに緊張した千早は敷地内に左右どちらの足から踏み出せばいいのかさえ決めかねているように動けずにいる。今日のために従兄や部員達に沢山勉強を見てもらい、やれる努力はしてきたつもりだが、もしも、が怖い。
「……とにかく、見に行こさ。……の、千早」
 その隣に立つ新は推薦で一足先に入学資格を得ているが、その表情はまだすっきりと晴れてはいない。四月から同じ大学で一緒にかるたが出来るかどうかは、今日の千早の合否次第なのだ。とは言え、千早がこの大学に進みたいと必死に勉強してきた事は新もよく分かっている。だから不安を感じていても口に出す訳にいかない。それが新の表情が晴れない理由だった。
「う……うん」
 何度目かの新の言葉にようやく、千早はごくりと喉を鳴らし、ぎこちない一歩を踏み出した。

 掲示板の前は流石に人が多く、もう少し近づかないと人の頭に隠れて掲示板の下の方がよく分からない。
「……番号的にはこの辺りやろか」
 千早の受験番号の頭数桁から、出ているならこの辺りだろうと見当を付け、人混みではぐれないよう新は千早の片手をしっかり掴み、普段の彼からは想像が付かない強引さで人波をかき分けて進む。
(落ちてたら、どうしよう……!)
 掲示板の前に進み出た千早は目をきつく瞑った。春からは同じ都内に新も住むのだから、高校時代に比べれば会う機会は格段に増えるのは合格していようがいまいが確実なのだが、その中でも一番時間を共有できる「同じ大学」という選択肢が消えて欲しくはない。

 新が繋いでくれている手が、励まされるように一瞬きつく握られ、弾かれるように千早は目を開けた。
「……ええっと……えっと……」
 番号の近い列を上から順にチェックしていく。規則正しく並んだ数字が終わりに近づくごとに、千早の鼓動が大きくなっていった。
「───あ」
 短い声を上げた千早につり込まれるように、新も彼女の視線の先を追う。
「……あっ……た。……やった、あった! 私の番号、あるよ……新ぁ!」
 自分の番号を見つけた千早がぐしゃぐしゃの顔で飛びついてくる。それをしっかり受け止めると、千早を抱えたまま新は他の人の邪魔にならないよう掲示板から離れ、近くのベンチへ連れて行き座らせる。
「合格、おめでとの。千早」
「うん……うんっ……。まだ信じらんないよお……や、やったよ、新ぁ、ひっく……」
 千早は手の甲で不器用に涙を拭うが、後から後からこみ上げる涙はそれぐらいでは拭い切れない。こういう時、どうすればいいのか正直、新にはよく分からない。だがやっと安堵できたせいか、ずっと思っていた事が自然に口からついて出た。
「うん……よう頑張ったな、千早。……四月からは、学校もかるたも、一緒やの」
「───!」
 かるた、の一言で千早ががばっという音が聞こえてきそうな勢いで顔を上げた。今泣いたカラスがもう笑うとはこの事だ、と思うが、新は驚かされた事を咎める気にはなれなかった。

 やっと泣きやんだ千早の元へ、上級生と思しき一団が群がるようにやってきた。
「君達、合格した子? おめでとう! ……でさ、ウチのサークル入らない? テニスなんだけど。歓迎コンパ今度やるから是非!」
「……え?」
 戸惑っている間にも、新入部員募集中と書かれたチラシが次々に二人に手渡され、仮入部でもいいからとせっつく者も居る。
「や、あの……」
 困り切った顔で千早が新を見る。自分も高校でかるた部を立ち上げた時部員獲得に必死だったから彼らの気持ちは理解出来る。千早の視線を受けて新は、試合の時見せるような落ち着いた笑みを返して口を開いた。
「すいません。もう二人とも入るとこ決めてあるんで……」
 新の言葉に勧誘組が一瞬凍り付く。その中の一人が口を開いた。
「……あ、そうなの? ……ちなみに、どこ?」
 入部先によっては掛け持ち出来るからと食い下がる。
「かるた部です」
 千早と新の声が綺麗に揃い、勧誘組は呆気にとられてしまう。
「新、行こ? 原田先生のとこ。受かったって報告しなきゃ!」
「……あ、ほやの。……失礼します」
 立ち上がり揃って一礼すると、二人は真っ直ぐに正門へと歩き去っていく。誰かが「……かるた部?」と呟くのは聞こえたが、新も千早も足を止める事はなかった。

 





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written by Hiiro Makishima