逢ひみての
|
横たえた身体の上に感じる新の重みと熱。差し出した手を強く繋いでくれているから、千早は不安を抱かずに新を受け入れる。 「……ッ、つ……ううっ……!」 それでも熱く張り詰めた塊が押し割ってくると、今日生まれて初めて新の指を許したばかりのそこは悲鳴を上げる。繋いだ手だけでは足りないと、千早のもう一方の手は新の広い背中をきつく抱えた。 「ご、めん……後、ちょっとやから……っ」 「……うん、っ……、……ん、ッ!」 身体の奥深くに何かが突き抜けたように感じ、千早は白い喉をさらして仰け反った。 「……っ、へいき、か? ……千早」 ようやく全てを収めた新は息を詰めながら聞く。 (……熱くて柔らかいのに、きつい……気ぃ逸らさんと、保たん……っ!) ほんの一言口にしただけなのに、頭の中が白く弾けてしまいそうになる。新は奥歯をきつく噛み、千早の脇に腕を差し込むと細い身体をきつく抱いて必死に堪えた。 かるた一辺倒でやって来た新も年頃の男だ。学校や地域の友人と「そういう」話になった事は何度もあったし、簡単に放ってしまわないよう公式や年号を頭の中で反芻するといった会話もよく耳にはしていた。 (……無理や、ほんなもん……) 普段なら絶対間違わない「むすめふさほせ」でさえ、一句目を頭の中で詠もうとしても腕の中の千早が息をするたびに彼女の熱が新を包み、締め付けてきてまともに歌を思い出せない程だった。 「うん……でも、何か……不思議な感じ……」 抱きついたままの姿勢で千早が答えた。平気か、という自分の問いへの答えだと理解するまでに随分時間が掛かったような気がする。 「……不思議?」 「新はそこに居るのに、……その新が、私の中にも……居るから……えっ、きゃっ!」 いきなり新が動き、千早の中を大きく行きつ戻りつしていく。叩き付けられるような激しさに、千早は新にどうしたのかと問う事もできず、川面の木の葉のように翻弄されるしかない。 「……っ、なんでや……なんで、ほんな事言うんや……」 耳元に届く新の声は食いしばった奥歯の隙間から軋るように漏れている。 「ほんな、可愛らしい事言われて……我慢とか、出来る訳……ないやろ……っ」 身体ごとぶつかってくる激しさと、新のおとがいを伝って降りかかる汗の雫、耳元に落ちる火のように熱い吐息。新の想いが迸っているのだと分かった途端、千早の心が痛い程震えた。 「あ……新っ、あらた……ぁっ」 胸の奥からマグマにも似た何かが突き上がってくる。その熱は千早の意識を白く焦がし、彼女の身体までも新しく作り替えていくようだった。 「……っ、な……何、これ……っ?! わ、たし……っ、変、だよ……!」 意識などしていないのに、自分の身体が新に合わせて動いてしまう。腰が跳ね、千早の中に居る新自身を捕まえて離そうとしない。それどころか、もっと深く引き込もうと新に纏わりついて蠢いていた。 新もそれは同じだっだ。送り込む腰は勝手に動きを早め、絡み付く千早を貪っている。頭のどこかでもっと長く千早と一つになっていたいと思っているのに、閉じた目蓋の裏が限界を告げるように眩んでしまう。 「ち、はや……っ、おれ、おれも、もう……っ、千早……!」 「……新、新ぁっ! ……っ、あ……。───ッ!」 千早の感極まった声音に、とうとう新も臨界点を超える。 「くぅ……っ……!」 自分の全てが溶け出し、激流となって千早に向かっていくような錯覚の中、新の腰が断続的に大きく震える。同時に千早の下肢も小刻みに痙攣し、頭の中は完全に真っ白になった。 「……はぁっ、はぁ……」 脱力しきった新の重みが千早にのし掛かった。苦しくはないし、全身汗だくになり荒い息を吐いている新が心配だったが、千早自身まだ身体に力が戻らない。大丈夫かと聞きたいのに、喉がからからでまともに声すら出せそうになかった。 「あ……、重たいやろ……。ごめん」 普段の新からは考えられないほどのろのろと、千早の隣へと上体を動かした。その弾みで放出を終えた分身が千早から名残惜しそうに抜ける。さっきまで新が覆い被さっていた肌に、部屋の涼しい空気が当たり、千早は小さく震えた。 「……寒い?」 やはり鍛えているだけあって、二人とも呼吸や体力は案外早く戻り始める。新に至っては、千早を気遣うだけの余裕も戻ってきたようだった。 「ううん、寒くない。……でも、少し……眠いかも」 「寝ててもいいざ?」 ベッドの頭に置いておいた箱からティッシュを何枚か引き出して後始末をしながら、新は優しく答えた。その目は千早を慈しむような暖かい光を帯びている。 「でも、寝るのも勿体ないって思っちゃうんだ。せっかく一緒に居られるんだし……」 「……欲張りやなあ。おれ、どこも行ったりせんよ」 新は笑みを浮かべて言う。 「少しだけ、眠っとこ。……おれもちょっと、眠たいし」 自分が眠い事にすれば、千早も休むだろう。それで納得したのか千早は身体を新の方に向けて、少し丸くなる格好で目を閉じる。 「……おやすみ」 まだ火照っている千早の頬にそっとキスを落とし、髪を撫でてやる。ほどなくして規則的な寝息が聞こえてきた。千早の安心しきった寝顔を眺めながら、新は取り留めのない物思いに耽る。 (なんか、変な流れになってもたけど……) 最初は千早とかるたを取るだけのつもりだったものが、気がつけば千早と結ばれ、隣では今、その千早がすやすやと眠っている。 (後悔はしてえん。……もう、太一やろうが名人やろうが、遠慮なんかせん。千早はおれのもんやって、堂々と言うし絶対渡さん) 「……う、ん……」 千早の小さな声が耳を打った。千早ほどではないが新の耳も決して悪くはない。 『ずっと一緒にいようね』 聞き取れた呟きに応えるように、新は千早の手を優しく包み込んだ。 「……あれ……?」 目を閉じる前にはすぐ近くにあった新の姿が見えない。がばっと身体を起こした千早の耳に、ベッドよりもっと下、畳敷きの床の方で何か動いた音が聞こえてきた。 「あ、目ぇ覚めたんか。……喉、乾いてえん? 今さっき、ちょっとだけ下降りて飲み物取ってきたとこや」 「……あ、うん。ありが……っ?!」 手を伸ばしかけてようやく、自分が一糸纏わぬ姿のままだという事に気がついて、千早はわたわたと新の布団を引き上げて裸を隠す。飲み物を取りに階下へ降りたと言う新がすでにちゃんと服を着ていて、余計に恥ずかしかった。 「服、着るんやったら、そこに畳んであるざ」 「え、た、畳んだって……あ、新……見たの? 私が脱いだ物とか……」 「うん、まあ。……散らかしたままにもしておけんし……ぶッ!」 新の言葉を遮ったのは、照れ隠しに膨れっ面をした千早が投げてきた枕だった。 「……いいって言うまで、こっち見ないでよ?」 千早が唇を尖らせて告げてきた。吹き出しそうになるのを堪え、新は素直に壁の方に身体ごと向き直る。がさごそと色々な音が続いていたが、しばらくしてそれも静かになった。 「もう、そっち向いてもいいか?」 「う……いいけど……」 千早の方に再び向き直ると、まだ赤い顔をして上目遣いに睨んでいる千早の大きな目と視線が合った。新は小さく笑うと千早の手に、枕が飛んできて渡しそびれたペットボトルを握らせる。 「千早、おれ……さっきな、決めた事があるんや」 「決めた事?」 新の声の調子に真剣さを感じた千早は素早く頭を切り換え、今度は正面から新と視線を合わせてきた。 「吉野会大会の前まで、おれ……千早はずっと太一のもんやって思ってた。ガキの頃から側に居たしの。ほやけど、もう遠慮なんかせん。誰に何言われても、千早はおれのもんや、って言う。そう決めたんや。……それを嫌やって言っていいのは、千早だけや」 かるたの時と同じ、真剣な目が千早を射貫くように見つめている。その視線を受け止めた千早は、はっきりと首を縦に振ってみせた。 |