逢ひみての
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新の手でほとんどの服を脱がされた千早は、頭の芯がまだはっきりせず、空いた片手で胸を隠すという事さえ思いつけないまま横たわっていた。今までどんな運動をしてもここまで自分の心臓の音がうるさく感じた事などなかったのに、今は新が触れてくるたびに胸の奥が切なく疼き、鼓動が高まる度に身体の奥から熱がこみ上がっていく。 (……これって、私だけなのかな……) 新も同じように感じているのか知りたいという強い思いが突然千早の裡にわき起こった。 「……あ、新……」 声が変に掠れている。千早は軽く咳払いをして、もう一度新に呼びかけた。 「……なに?」 名を呼ばれて顔を上げた新の頬も朱を刷いている。元来の照れ屋な性格のためか、それとも別の理由なのかは千早にはよく分からない事だった。 「私、さっきから何か変だよ……恥ずかしいのに、新が触れると……止めないで欲しいって思ったり……。あ、新も……そうなの?」 耳まで赤くして言われた一言に、新の顔もみるみる上気する。普段の自分なら照れて答えられない気がするが、恥ずかしさを堪えてまで聞いてきた千早には、同じだけの素直さで返したい。一つ息を吸いこんで、辛うじてそれと分かる笑みを浮かべてみせた。 「おれも、おんなじや。……千早がここに居るってだけで頭どうかなりそうやのに、千早を見てたいし、……もっと……し、したくなる……。ほやけど、そんな風に思うのは、千早やからや。それだけは間違いない。……わッ?」 言い終わる前に千早の両腕が新の背中にきつく回された。 「新、あらた……っ、……嬉しい。……同じ気持ちって聞けて、嬉しい」 「……うん、おれも……」 新の手は宥めるように千早の髪を撫で、肩の丸みをなぞり、腰骨が形作る女性らしい曲線を辿ると、最後にたった一枚残された小さな布の中に指先を滑らせた。 (ここって……こんな、熱いんや……) 柔らかな叢が指の腹をくすぐり、その奥から沸いて出る蜜の熱を知った途端、新の頭の中で何かが弾け飛んだ。夢中で最後の一枚を引き下ろし、ぴたりとくっ付いたままの千早の脚の間に自分の片脚を割り込ませると、再び指先はまだ誰の目にも触れた事がない小さな粒を探り当てた。 「……はぁっ……あ、っ……、やぁ……ん」 指がそこをそっと撫でるたび、千早の上擦った声が鼓膜を打ち、両手が命綱に縋るかのように新の背中にしがみついている。組み敷いた身体が時折、打ち上げられた魚のように大きく跳ねると、密着している新の腰に走る痺れるような快感を、どうにも出来なかった。 「千早……っ、もう、いいか……」 そう問うた時、一瞬千早の全身が強ばったのが伝わる。腰のところで自分の熱がわだかまり、痛いほど張り詰めているが、千早の心の準備が出来ていないなら無理はしたくない。 (ちょっと焦りすぎたやろか……けど、自分勝手でこんな事しとないし……) 自分の持て余した熱は後で何とかするしかないかと思ったその時、 「……え、と……うん」 蚊の鳴くような声が耳に届いた。たったそれだけの事なのに、ほっとして汗が噴き出してしまう。 千早を部屋に通す前、大慌てで隠し物をしたあたりを探ってみると、ギザギザとした包みの縁が指先を突く。新はそれを手繰り寄せ、手のひらで千早から見えないように布団の下から取り出した。 「ちょっとだけ、あっち向いててもろていいか?」 綺麗な千早ならともかく、男の自分の裸など見ても何の得もない。それに避妊具の装着など生まれて初めてだ。きっと手間取りみっともない事になるだろう。無様な姿を千早に見せる事にはやはり抵抗があった。 「……どうして?」 「どうしてって……」 口ごもった新の腕を、千早がぎゅっと掴んできた。驚いて目をやると、千早は拗ねたような顔で新を見上げている。 「新、ずるい。……私だって、もの凄く恥ずかしかったのに」 返事に窮していると、まだ履いたままのジャージパンツを千早がぐっと引っ張ってきた。 「え、ちょ……千早?!」 「ずるいから、私もお返し」 そう言うものの千早の顔は茹だったような赤さで、新の服を引っ張る手もそれ以上動かせないでいる。 (ほんな事まで競わんでもいいのに……まぁ、千早らしいんかも知れんけど……) 「わ、分かったって。……ほんでも、あんまじっと見んといてや?」 一つ大きく息を吸い、半ば自棄のような勢いで新は下着ごとジャージを脱ぎ捨てた。解放を待ちわびている分身が反動で下腹部を叩く。祖父の死に負い目を感じていた一年半以外、物心ついてからずっとかるたに打ち込んできた新も年頃の男で、時にはどうにもならない衝動を自分で処理する事もあった。だが今、視線の先のそこは、これまで見たことがない程昂ぶっていて驚きを覚える。 (いや……考えたら当たり前やな) 大好きな千早と初めて結ばれる瞬間に、興奮を覚えない方がどうかしている。そう胸落ちした途端ゴムを被せる手の動きがスムーズになった。 千早は、と視線を動かすと、新のベッドに横たわったまま目線をあちらこちらへと彷徨わせている。見られてずるいと言いはしたものの、直視するのはやはり恥ずかしかったらしい。 「……布団、被ろか?」 本当なら部屋の明かりを落とすなり何なりするものだろうと思うが、まだ日が落ちてもいない。千早の恥ずかしさを軽減出来るとしたらそれぐらいしかなさそうだと新が尋ねる。 「え、と……ん、ううん。た、多分だけど、平気……でも」 千早が片手を伸ばしてきた。 「……手、繋いでても、いい?」 「うん」 千早の手をしっかりと握って新は彼女の上に身体を倒す。空いている方の手がさっき確かめた千早の入口を探し当てた。 「……んっ……」 均整の取れた身体がぴくん、と震えた。そっと指先で押し開くと、とろりと蜜が溢れてくる。新は身体の位置をずらし、待ちきれないと脈を打っている自分をそこにあてがい、ぎこちなく腰を前へ送った。 「……っ、ふ、う……っ……」 繋いだ手に力が入り、千早の眉がきゅっと顰められる。 「い、痛いか……? やめた方がいいか?」 何しろお互い初めての事だ。そのまま押し切っていいのかどうか、新も全く見当が付かない。 「痛いけど……、だけど……新だから、だいじょう、ぶ……」 浅い呼吸の合間に呟かれた健気な一言が、新の視野を滲ませた。 (おれやから、大丈夫……。おれも、千早やから欲しいんや) 最後の躊躇を振り払うと、今度は思い切って自身の塊で千早を押し開いていった。 |