逢ひみての
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そっと重なった唇が小さく震えている。ただそれが自分の唇なのか千早のものなのか、新自身にもはっきりしない。 (柔らかいなぁ……) 日常の中で触れる自分の唇とは全く違う。いつも表情豊かな千早の唇は、想像していたよりずっと柔らかく温かい。そしてそれは唇だけではないと初めて知った。 全国大会で体調を崩し棄権した千早。何としても試合に戻ろうとした彼女を引き留めた時は、新も千早を休ませなければと懸命だったせいで、背中から抱きすくめていた事も、号泣した千早が泣き疲れて眠るまで新の膝に縋り付いていた事もほとんど意識に上らなかった。 だが今は違う。手で触れた頬の滑らかさ、長い髪の感触、抱き寄せた肩の丸み。どれを取っても新にとって初めて知るもので、新の頭の中が白く灼き付くような気がする。 「……っ」 ずっと潜めていた千早の吐息が頬をくすぐった。その微かな動きが新の胸に切ないような疼きをもたらした。 「……千早……。もっぺんだけ、言わせてな」 唇を離した新は、赤面した顔を見られたくなくて膝立ちになり自分の頬と千早の頬をそっと合わせた。 「何、を……?」 「さっきも言(ゆ)ったけど、嫌やったら嫌って言われんと、おれ……分からんざ。……情けないけど、ホントの事や。……ごめんな」 言い終わった途端、千早の両手が新のTシャツの胸をきつく掴んできた。引っ張られた勢いで、新と千早の視線がぶつかる。 「……す、こしだけ怖い、気がする……けど、嫌じゃ……ない。……新とだから」 千早の大きな瞳にうっすらと涙が浮かんでいるのが見えた。今度は新もごく自然に手を伸ばし、親指の腹で涙を拭う。 「おれも……千早やから、こうしたいって思うんや。……ほやで、もう聞かん」 涙を拭っていた手で千早の後頭部を支え、自分の方へ引き寄せながら新は再び唇を合わせた。 千早を驚かせたくないと、新は舌先をそっと千早の唇の間に滑らせた。新の唇とも違う濡れた感触に、Tシャツを掴んだままだった千早の手が一瞬跳ねた。そんな小さな反応一つ一つさえ新鮮で、新を惹き付けて離さない。 ゆっくりと唇をこじ開けた新の舌は、千早を求めて口内を探り始める。 「……ん、っ……」 千早の両腕が新の首に巻き付き、くぐもった声が鼓膜を打った。密着を阻むのは互いのTシャツだけという状態で、二人はお互いの熱を感じ取っていく。 もっとしっかり服越しの熱を知りたいと新は、もう千早の頭を支えなくて良くなった片手を今度は千早の腰にしっかり回す。口付けを解かないまま膝立ちで背中を反らす格好になった千早の重みは新の腕にかかる。片腕で千早を支えたまま、新はそっと彼女を床に横にさせた。 新のキスが唇から頬に、そして形のいい耳に落とされる。 「……っ、あ……」 耳朶に新の唇が触れた時、千早のしなやかな身体がびくり、と跳ねた。 「……千早、んと……耳、あ……いや、えっと……触られるの、あかんか?」 もう聞かないと言ったものの、やはり反射的に問うてしまう。と、首に抱きついていた千早の腕にくっと力が込められた。 「……イジワル」 消え入りそうに新の耳元で囁く。───新にそうされると、気持ちいい。その一言が新の緊張を和らげる。ふっと笑うと一度身体を離し、千早を横抱きにして立ち上がった。 「床、かるた片付けてえんし。……こっち」 数歩進むと、愛用のベッドの上に静かに千早を下ろして、宥めるように額に軽くキスを落とした。 そっと下ろされた新のベッド。身体が沈み込んだ拍子に枕や布団から、ふっと新の匂いが千早の鼻をくすぐった。 「新の、匂いがする……」 「ほうなんか? けど、千早かって……なんやろ、甘い、いい匂いしてるざ?」 お相子や、と言いながら新は千早に覆い被さり、ほっそりした首筋に鼻先を沿わせた。 「……く、んッ、……っふ」 新の鼻筋がつうっと首筋を下から上に移動していった。唇がその跡をなぞるように這っていくたび、千早の口から小さく声が零れる。いつもの千早が出さない吐息交じりの声はたちまち新を熱くさせてしまう。 「あっつい……」 Tシャツを乱暴に頭から引き抜く。上半身だけとは言え男の裸をこんな至近距離で見たのは初めてなのだろう、千早が真っ赤になっている。意を決して新は手を千早のTシャツの中に滑り込ませ、同じように頭から引き抜いた。健康的に日に焼けた肌が眩しい。 「千早……きれいやなあ」 活発な千早らしい、すっきりとした腹部と細くくびれた腰。対照的に丸く柔らかそうな胸。普段から鍛えていても、男の自分とは違う曲線が新を虜にする。壊れ物を扱うようにそっと脇腹に手のひらを滑らせると、千早は少し身をよじり、両腕で新の首に抱きついてきた。 「……くすぐったかったか?」 しがみついたまま、無言でかぶりを振る千早のその応えが新の気持ちを楽にしてくれる。脇腹から背中にかけての滑らかな肌の感触を確かめるように手のひらを彷徨わせていくと、指先が千早の付けているブラに行き当たった。 (えーと……コレどうなってるんやったっけ……) バイト先の書店で水着や下着の写真集を扱っているから、留め具は背中にある事は知っているのだが、いざ実物を目の当たりにするとなかなか上手く外れてくれない。かと言って力任せに引っ張って壊してしまう訳にもいかない。 「……ご、ごめん千早。……これ、どうやったら外せるんや?」 (カッコ悪いなぁ、おれ。こんなの当の千早に聞くとか……) 新の腕の中で、千早がもぞりと動く。どうしたのかと千早の顔を覗き込もうとした時、 「ちょっとだけこっち見ないで」 短い一言が返ってきた。慌てて顔を大きく背けると、新の首から千早の腕がするりと解け、もぞもぞと窮屈そうにしばらく動いた後、その腕は再び新の首を抱える。 「……!」 さっきまでとは全く違う、マシュマロのような柔らかみが裸の胸に押し当てられ、新の鼓動が跳ね上がる。全身がひどく熱い。喉が渇いたような感じがするが、水を飲んで治まらないだろうという事だけは分かっていた。千早に首を抱かせたまま、新は千早の身体を仰向けに戻して今度は奪うように深く口づけた。 「……っ、んっ、……んぅ……」 ようやく慣れてきた千早がキスの合間に漏らす艶めかしい声に駆り立てられて、新は手のひらで千早の胸を包む。最初は躊躇いがちにそっと。だが一度触れてしまったら、もっとその柔らかさを知りたくて堪らなくなった。 勿体なかったが一度手を離し、千早の片腕を首から優しく引きはがして指と指を絡ませるように繋ぎ直すと、耳元から首へ、鎖骨の窪みへといくつもキスを落とし、ついに丸く盛り上がったその胸に新の唇が辿り着く。その頂点を舌先で探し当てた途端、繋いだ手を千早が強く握りしめてきた。 「……あ、らた……っ、何か、ヘンだよ私っ……。や……ぁ……」 千早の上擦った声に答える余裕はすでに新にはない。徐々に芯を持っていくピンク色の可愛らしい先端を、目と舌で求め続ける。 「あっ……ん、あら、た……あらた、ぁ……っ」 形のいい紅唇から紡がれる自分の名前。それをもっと聞きたくて、新は繋いだ手を一度解くと千早のジャージパンツのウエストに指をかけ、ぐっと引き下ろし、自分の爪先で布地を手繰るようにして片脚を剥き出しにした。 |