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Countercharge 3

元級友の名前はジェネレーターで生成



 「ところで質問いい? ……他の子とかが、真面目にかるたの質問してきたら、どうするの?」
 千早が小さく片手を挙げて口を開いた。
「真面目に聞いてきてるなら、真面目に説明するか、白波会に入れって言う。そうじゃなけりゃ流す。それでどうだ?」
 白波会の会員増という色気はあるが、太一の答えは明快だった。
「……おれは賛成や。かるたに本当に興味持ってくれるんなら嬉しい事やし。……翠北会の北野先生が臍曲げそうやけど」
「あはははっ! そうかも知れないねえ」
 千早は可笑しそうに声を上げて笑う。
「まあ極端すぎる例やけどさ、周防さんかって大学入ってからかるた始めて名人になった人やし。……そこまで行かんくても、かるたの裾野が広がるのは、やってるもんとして嬉しい話やから」
 かるたに興味を持って貰う、人を集める努力については三人とも色々と経験した事だから、新の言葉は素直に納得できた。
「……さっき言った、内容で賛成か反対か決めるって話。……試合の感想って程度なら、私も賛成。もしかしたら向いてる人いるかもだし」
 仕返しというより、興味を持ってくれる人が増える事を期待しての賛成は、いかにも千早らしかった。

 「ま、後はちょっと演出は要るんじゃねえかな。試合でだってそうだろ。須藤さんが『やりにくい相手』って思わせるように見せたり、原田先生が迫力でぐいぐい押してくるとかも、始まる前から自分有利に組み立てる立派な作戦だからな」
 太一がニッと笑って言う。
「原田先生がよくさ、『よーいせ』って両手広げて、何かばくんって食べるみたいなあれもそう?」
「……あれはどっちかって言うたら自分に気合い入れてるんやろ。目の前の相手も、試合場の空気もみんな纏めて飲み込んでやるんや、って事やと思うざ。……ほんで、太一が言う『演出』ってどんな事やの?」
 挑戦者決定戦の場で、原田がそれをしたのを直接見た新はそんな風に千早に答えてから、太一に向けて問いを発した。
「そんな大した事じゃねえよ。当日な、まあ『それなり』の格好して行くと効果的なんじゃねえかなって。千早は姉ちゃんにコーディネートしてもらえるだろうし、新にはおれの服貸してやるからさ」

 「お洒落しろ、って事なんか? 太一。……まあ確かにおれ、ほんなに服とか持ってえんけど、そこまでせなあかんか?」
 新の疑問に千早も頷く。太一はそれに一つ頷いてから、口を開いた。
「例えばさ、出かけた先なんかですげえ売れてる芸能人とか大御所とかが居たとする。……気軽に写真とかサインとか頼める雰囲気じゃないな、って感じたりさ。……それと同じだよ」
 そして太一は千早を例にとって話を続けた。
「千早のルックスは折り紙付きだろ?……まあ喋ったり動いたりしなけりゃの話だけど、まあ今は置いといてだ。……そんな奴が、雑誌でモデルが着てる服で同窓会参加してみろよ。やっぱ最初、気圧されると思うぞ」
「……まあ、確かにの。ほやけどそれ、千早と太一ぐらいやろ、出来るのって。……おれめっちゃ平凡やがの」
 芸能人のような近寄りがたさを醸し出すなど、自分には無理だと新はなおも言う。
「お前、自分の事だから分かりにくいんだろうけどさ。お前だって結構ルックス整ってる部類だぞ?」
 大会中、うっとりとした目で見ている女子選手が結構居た事を太一は話す。
「あ、確かに新って、肌とかすごく綺麗だよね。すっごいスベスベしてるんだよ」
 千早も太一の意見に反対していない。ただ新は千早のそれを誉め言葉と受け取るのが難しいのか、複雑な表情を浮かべた。
「おれ個人の感想はともかく……太一は、おれに出来るって思ってるって、そう解釈していいんか?」
「そうだよ?」
 新の問いに太一はあっさり頷いた。

 「……まあ仕返しの言い出しっぺはおれやもんな。分かった。ほやけど着るモン選ぶの、太一に任せてもいい? ……おれマジでそういうのって全然分からんし」
 新は降参したように両手を小さく挙げて言った。拘りがあるのは精々眼鏡ぐらいで、後は「飽きが来なく長く使える物」が購入の基本にある程度だ。メンズファッション誌も散髪の時に店員に出されれば眺めはするが、あまり興味を惹かれない。大体どれも高すぎて買う気になれない物ばかりだった。
「ん、オッケ。似合いそうなの何着か持ってくるから、そっから選べよ。幸い、おれとお前って服のサイズは同じくらいだし」
「あ、その服着た時、写真撮っていいかな。……お姉ちゃんにそれ見てもらって、私も合わせるからさ」
 千早がどこか楽しそうに言ってきた。
「いいんじゃね? 確かにその方が相乗効果も高いし。んじゃ、同窓会の日時と場所、早めにメールくれな」
 大体話がまとまったから、と太一は立ち上がる。
「分かった。ありがとの、妙な話に付き合うてくれて」
 礼を述べる新に、たまにはいいさ、と太一は笑って新のアパートを後にした。

 「……ねえ、新……?」
 後に残った千早が伺うように口を開いた。
「賛成した後で言うのもおかしな話だけど、そこまでしなくても、って気持ちは私、やっぱりあるんだ。……揃って欠席だけでも良かったんじゃないかなあって」
「まあ単に中継見て懐かしかった、ってだけやったらの。……相談したのも、電話での話しぶりから何かもっと、他のものもある感じがしたで、なんや」
 新はざっと関本茉奈の口調から受けた印象を話す。最初は個人的に新に会えないかという誘いだった事や、同窓会に顔を出せば「みんな」喜ぶと言っていたが、新には彼女自身が周囲に自慢出来るからという風に聞こえた事。
「こっからは推測……まあ邪推かも知れんけど、同窓会切っ掛けに『他人に自慢出来る彼氏』……とかっての」
 新は溜め息混じりの話を終えた。

 「……そう思った理由、聞いてもいい?」
「簡単や。中継でようけ放送されたの、クイーン戦の方やが? 千早の名前とか経歴かって紹介されてたし」
 千早の住所は小学校卒業当時のままだ。関本茉奈が単に同窓会の事を知らせるなら、同性である千早の家に電話を掛けるのが一番確実な話だ。家人への言伝もしやすいだろうし、新の電話番号も千早から聞くか、用件を新や太一に伝えてくれるよう頼む事も出来る。
 その一番連絡を取りやすい相手を飛ばして、わざわざ福井の実家まで電話を掛けて番号を尋ねたのは何故かと考えれば、答えは自ずと絞られてくる。

 「あー……確かにそうだよね。私や太一は引っ越ししてないんだし」
 千早は目を大きく見開いて何度も頷き返してきた。
「……ほやから向こうに全部まとめて分からせるんなら、出た方が手っ取り早いかなって思ったんや」
「全部って、さっき言ってたノートの事とか?」
 太一と千早の二人が福井弁に慣れているとさっき言ったのは、もちろん「語録」の一件が主な理由だ。最近は新も地元でしか通じない「ベタな」福井弁は使わないようにしているが、うっかり口走った時に千早や太一が意味を問うのは「知るため」であり、「笑うため」ではない。
「それもやし、中学ん時に千早が『かるたなんか無理』って言葉にどんだけ傷付いたか、とか、今のおれらの事とか。……太一も個人的にあの二人に腹立った事あるのは、前に聞いてるし」
「……そうだったんだ。新にしては随分根に持ってるなあって不思議だったんだけど……。でも、私の事は別にいいよ?」
 千早は両手をひらひらさせて新に答えるが、新はきょとんと目を見開いている。
「何言うてるんや? ……おれと千早は付き合ってて、割り込むとか無理やって、一番はっきり言うときたい事やが?」
「えっ、……あっ、そっち?! ……えっと、それは、まあ……うん」
 てっきり中学時代の話だと思っていた、と千早は照れ臭そうに肩を竦めて言う。千早らしいな、と新は小さく笑った。

 「まあ、どこまで通じるか分からん仕返しやけどさ、あかんかったらあかんかったで、おれらの事だけでもはっきり言うつもりやし。……仮に千早と付き合うてえんくても、かるた『なんか』なんて言うようなもんとは、付き合うどころか友達になる気にもなれんしの」
 新はきっぱりと言い切る。
「……難しくて分かんない、って言われるんだったら、どこを難しく感じてるのかとか聞いて、一緒に考えていけるんだけどねえ」
 そんな新の言葉に、千早も落ち着いて言葉を返したが、不意に遠くを見つめるような顔になった。
「そう言えば昔、私も一度だけ『かるたなんか』って言葉、使った事あったなあ。……ほら、『チームちはやふる』で大会出る少し前。……もうすぐ一人になるんなら、かるたなんか楽しくない、って。原田先生が新たちだって事情があったり、寂しがってるだろうって諭してくれたから、団体戦行けたし、試合出たから私は一人じゃない、って分かったけど」
「あったの、そんな事も。千早が汗だくで会場着いた時、めっちゃホッとした」
 新は穏やかな表情のまま言葉を継いだ。
「引っ越しの前の日にかるた取ったやろ。あん時千早がおれに会ってかるた大好きになった、って言うてくれたの、他のどんな言葉より嬉しかったの今でも覚えてるわ」
「また『チームちはやふる』で試合したくない? 新」
 千早が朗らかに言ってきたそれに、新は自分に浮かべられる中で最上の笑顔で応えた。



オマケ





written by Hiiro Makishima