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Countercharge the day



 授業が終わり、大学のかるた部に向かう前に、新は唇に人差し指を当てて、ベンチで隣に座っている千早に喋らないよう示してから、携帯電話を取り出して着信履歴から番号を呼び出す。さして待たないうちに、関本茉奈が電話に出た。
「もしもし、綿谷ですが。関本さんですか」
『あっ、綿谷くーん! 嬉しいな、電話くれて』
 関本茉奈は途端に声をはしゃがせ、新は携帯電話を耳から離す。その向こうの物音に耳を澄ませてみると、あちらも彼女一人ではないらしく、違う女性の声が微かに聞こえてきた。
「おれ今から練習なんで、用件だけ話すけど。この前言うてた同窓会、太一と千早も出るって」
『ホント?! 綿谷くん何時頃に来られる? もし良かったら先に、』
「……全員大会前の集中練習中だから、場所と日時だけ留守電に残しといてもらえると助かるんやけど」
 関本茉奈の言葉を遮って、新はこちらの言い分を最後まで言い切る。
『あ、じゃあ今』
「いや、留守電の方が確認できるし。……それにもう、部に出んとあかん時間なんで。……じゃあ、お願いします」
 返事を待たず、新は通話を終えた。

 「……お疲れさま、新」
 新が携帯電話を鞄に仕舞うのを見届けて、千早がねぎらいの言葉をかけてくれた。
「ありがと。……こんで、後は日時と場所の連絡来たら、太一にもメールして準備終わりやっけ?」
 二日ほど前に太一は自分のクローゼットから新に似合いそうな服を紙袋一杯に持ってきてくれ、千早も交えてその中から新が当日着ていく服を決めてくれた。ジーンズや靴は新が普段から愛用している物を着ていくので、それに合わせたトップスと、着慣れた感じを出すための着崩し方のアドバイスを色々受けたところだった。
「その筈だよ。お姉ちゃんからのアドバイスはこの前、新にメールしたよね?」
「……うん。保存してある」
 新が着ていく服に合わせてコーディネートしてくるつもりの千早は、携帯で撮った新の写真を芸能人の姉に見せ、自分の着る服のアドバイスとあわせて、新の服の着方についても細かな部分をもう何点か姉から教わった。
「千早、お姉ちゃんには何て話したんや?」
「同窓会出るから、私達三人で服コーディネートして出たいんだ、って言ったよ? ……嘘じゃないしね」
 悪戯っぽく返してきたそれに、新は小さく吹き出す。言っていない事はあるが、確かに千早の言葉の中に嘘は混じっていない。

 「じゃあそろそろマジで部活行こうよ、新。名人戦からこっち、入部希望者殺到してて先輩たち大忙しなんだって」
 千早はぴょん、と勢いよくベンチから下りて言う。
「あ、言うてたな。道場の広さ足りんくなるかもやで、最悪練習日二つに分けんとあかんかも……っておれも聞いたわ」
 場所が確保出来ないのは困った事だが、ある意味嬉しい悩みとも言える。部の先輩達からも、そのあたりの相談をしたい、と言われていた。
「……おれなら練習日より時間をずらすって思うかの。基本の練習も大事やけど、人の試合見るのも大事なことやし、時間が少し重なる感じになってれば、見てて気が付いた事とか話しやすいしの」
「あ、つまり早い時間に初心者の基礎練習やって、終わる頃にA級B級の練習始まるみたいな風?」
 新は歩きながら頷く。
「もちろん、早い時間から部室行っててもいいけどの。……まあ大会前は流石に自分の練習に集中したいけど、それも白波会で取ったかっていい事やし」
「……けどさ。白波会で練習すると相手原田先生だし、毎回名人戦やってるようなものだよね。私は見てて楽しいけど」
 話が一段落つく頃、ちょうど練習場の扉に手がかかった。頭を切り換えた二人は引き締まった表情で扉を潜った。

 「お疲れ様でしたー」
 部での練習を終えてメインストリートを正門に向けて歩き出す。と、新の携帯が短く振動した。
「……ん」
 表示された番号を見た新は、留守番電話に任せよう、と呟いて電話を鞄に戻した。
「日時の連絡?」
 千早の短い問いに「だと思う」とだけ答える。と言うよりその用件だけにしてもらいたい気持ちだった。その時今度は千早の携帯が着信を告げてきた。
「あれっ、太一からだ。……もしもし?」
『よう。……さっき、おれんとこに関本から電話あったぞ。同窓会の日時。……すぐ新の携帯に掛けたんだけど話し中だし、お前の方に掛けたんだ。……新は?』
「あ、今ちょうど留守電応答させてるとこ。代わろっか? ……はい、新」
 千早の手から携帯を受け取って、新は電話口に出た。

 「もしもし、太一?」
『うん、おれ。……関本から同窓会の日時言ってきたって知らせとこうと思ってさ』
「……今ちょうど、おれの携帯にも掛かってきてて留守電に残してもろたとこや」
 新は空いている方の手で鞄を探り、自分の携帯を取り出して録音されたメッセージをスピーカー再生させた。
『もしもし、関本です。同窓会の日時は───、もし場所分かりにくかったら言ってね。案内するから』
 新は留守電に残っていた同窓会の日時と場所を復唱する。
『待て、新。……場所は確かにそこだけど、おれが聞いた日付はその前の週だぞ』
「……え? ……太一、今どこに居るんや? 大学か?」
『ああ。来るんなら正門の守衛に伝えて、近くで待っとくぜ』
 学外からの訪問者は細かくチェックされるため、予め正門の守衛に太一が話を通しておいてくれるらしい。
「助かる。今から千早と行くわ、そっち」
 通話を終えた携帯を千早に返して、今の話が聞こえていたか千早に尋ねた。
「うん、ちゃんと聞こえてた。急ごう、新」
 千早も短く頷いて、歩きやすいように自分のバッグを肩に掛け直した。

 「太一!」
 大学の正門のすぐ脇の壁に背中を預けて立っている太一に向かって千早がよく通る声で呼び掛けた。すぐに気付いた太一は片手を挙げて二人と合流した。
「ごめんな、忙しいのに。……どこで話す?」
 新が詫びるのを太一は手振りで制する。
「あー、んじゃカフェテリア行くか。守衛に言ってはあるけど、学生証だけ提示してくれな」
 新と千早は自分達の学生証を鞄から出しておき、太一の後に続いた。

 「……千早、おっ前さあ? 大学生になってもまだダディベアかよ。……あ、おれコーヒー」
 大学構内のカフェテリアの席に着いた太一は、注文が揃うまで本題に入らない、とわざと千早をからかってきた。
「アーモンドラテ下さい。……ダディベア可愛いからいいの! ねえ新、そう思うよね?」
「……おれに振らんでもいいやろに。……あ、おれもコーヒーお願いします」
 新たちも太一の意図をすぐに飲み込み、飲み物が出てくるまでの間は幼馴染み同士の他愛ない会話をぽつぽつと交わす。やがて注文の品がテーブルに並ぶと、三人の表情は自然と引き締まっていった。
「……んで、言ってきた日時の違いだけど。新、留守電メッセージもう一回聞かせてくれ」
「うん。……ほら」
 新から携帯電話を受け取った太一は、受話部分を耳にあてて留守電に残されたメッセージを黙って聞く。太一が内容を聞いている間、新と千早は無言で頼んだ飲み物に口を付けて待っていた。

 「……単純に日付を伝え間違えたって可能性は、まずゼロだろうな。……それ以外に有り得る理由、おれには二つ考えつけた。……新はどうだ?」
 メッセージを聞き終えた太一は腕組みをして口を開いた。
「……二つ? ……おれは太一の話聞いた時、おれにだけ違う日指定して、個人的に会いたいって、最初の電話で言うてた事を実行したいんかなって思ったけど……」
 単純な連絡ミスでない事は新も同意見だが、太一が言う「二つ目の可能性」については分からない、とかぶりを振る。
「まあお前が言った理由の方が断然マシだけどな。……今から話すけど、新も千早も怒るなよ? デカい声もなしだ。いいな?」
「太一、勿体付けてないで早く言ってよ」
 焦れた千早が身を乗り出す。新がそれを制しながら、目線で太一に話してくれと示す。太一は手元のカップに少し口を付けてから話し始めた。
「……新だけ、同窓会を空振りさせる……って事だよ」
「空振りって太一、それ……」
 何故そう考えたのか千早が問うてくる。
「おれに電話で言ってきた日付の方が先だろ? だから可能性としちゃ捨てきれねえって思ったんだ。……もっと言やあ、待ちぼうけ食らったお前に『じゃあお詫びに』とかってデートに誘ったり、最悪……そうやってぽつんと待ってる新をどっかで見て笑う」
 無論これはあくまでも可能性の話で、本当の狙いは本人に会わなければ何とも言えない、と太一は話を終えたが、新も千早も言葉を発せなかった。






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written by Hiiro Makishima