Countercharge 2
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小学校の同級生からの電話があって数日後、新の部屋では太一と千早が新と車座になっていた。 「そんで新、メールで言ってた相談って? おれら三人だけでとか、なんか深刻っぽい感じだけど」 太一が口火を切った。 「……かるたの事、じゃないよね。……もし相談がかるたの事なら、新こんな風に言わないし、部活の後でも白波会ででも話してくれる筈だもん」 千早の勘も鋭かった。新はそれに黙って頷き返す。 「まあ、かるたもちょっとだけ絡んでるけどの。……二人さ、小学校の同級生やった、関本茉奈と正木明花って覚えてる?」 太一も千早も、何となく覚えていると答えたので、新は「おれの福井弁ノートに取ってた二人」とだけ告げて、本題に入った。 「この前、急に電話掛かってきての……」 新は先日掛かってきた電話の内容を正確に再現して二人に伝えた。 「何だそりゃ。……お前が名人戦出てなきゃ思い出さなかった、って事だろ、逆に言えば」 話を聞き終えた太一は自分の中学時代の事を思い出したのか、顔を歪めながら言った。 「……前に、新には話したよな。……ほら、昔二人が元カノ紹介してきた時の事」 「うん。あの二人が連れて来たんやって話は聞いた」 高校時代に一度、太一と新の間で諍いがあった。それ自体は綺麗に解決している事で、今は二人とも気にしていない。その仲直りの過程で太一が新の実家を訪れた時に、雑談の一つとしてその二人がが太一の元彼女、小倉香澄を紹介してきた、と話した事があった。 「あの時はそこまで言わなかったけどさ、元カノ本人が真剣な顔してただけに、あの二人の訳知り顔ってーかさ。なんかこう、イラっときた事あったんだよな、おれ。……ほら、たまにあるじゃん。小さい喧嘩とかの時に友達とかが出張ってきたり。あんな雰囲気って言えば分かるか?」 「……綿谷くん酷すぎでないんかー、とかって感じかの。……おれも経験あるで少し分かるわ」 男二人は苦笑を交わす。 「私、それはちょっと分かんないんだけどさ、今の電話の話聞いて、……宝くじで一等当たった途端に久しぶりー、とかって連絡してくる幼稚園時代の友達、みたいにちょっと思っちゃった」 「ははっ! 千早それ、すげえ! 言い得て妙だな」 太一は声を上げて笑い、新は無言で肩を震わせている。旧友を積極的に悪く言いたい訳ではないが、新と交際を始めてから、周囲の人間の底意に千早もある程度気付くようにはなっていた。 「んで、どーすんだ? 新。……同窓会。単に不愉快で欠席する気なら、そもそもおれらに相談なんて言い出さないだろ、お前」 ひとしきり笑った後、太一が本題に切り込んできた。 「流石、太一やの。……はは、おれ性格悪いんかな。ちょっと、仕返ししたいとか思っつんて。……あのノートとかな、おれかって根に持ってえんって言うたら嘘んなるし」 あの時はさらりと止めてくれた千早が居たから、後ろめたさを感じた二人はあれ以降方言をノートに書く事はなかったが、新にとってそれまで当たり前に使っていた言葉を笑われる事はやはり苦痛だった。 「ただ太一ら二人が、普通に懐かしくて出るんやったら、仕返しは諦めるつもりや。……ほん時は今の話、おれの単なる愚痴やと思って」 だからこそ二人に相談しておきたかった、と新は言って口を閉じた。 「おれはまあ……あいつらの事言えた義理じゃねえんだけど、新がそうしたいって気持ちも分かるよ」 当時もっと酷い言動をしたから、と太一は少し俯いて答える。 「太一はおれに、言い訳なんか一つもせんと謝ってくれたが? あの子らとは違うがの」 「……サンキュな」 太一は少し照れたのか、俯いたまま小さく言った。 「私も新の気持ちは分かるけど、あんまり酷い事はして欲しくないなあ。あの二人が可哀想っていうより、新や太一にはやっぱり堂々としていて欲しいから。だから、内容次第で賛成か反対か、私は決める」 千早はまっすぐに新の目を見て言葉を返してきた。 「……なるほどな。新、何か具体的な事ってもう考えてたのか?」 「正直言うと、まだ何も考えてはえんのや。……ただ、おれらとあの子らを繋ぐ線って言うたら、やっぱあのノートと、電話で言うてた『かるたなんか絶対無理』って言葉やろとは思う。……千早かって、中学ん時の事とか話してくれた事あったしの」 かるた部のなかった中学校で仲間を募った時、その言葉に何度か内心傷付いた事があると、交際を始めてから教えてくれた事がある。中学生の頃受け取った千早からの手紙には、そうした話はただの一度も書かれていなかった事だった。 「でも、あれは私の誘い方が悪かったのもあるし……新がそうだったみたいに、私も全力で取ってみせたんだけど、それで却って引かれちゃったって言うか」 千早は慌てて言葉を継いできた。あまりにも性急に相手をかるたに引き込もうとしてしまった自分のやり方が拙かったのだ、と今でも考えている面はある。一時期一緒にかるたをしてくれた先輩達と知り合ってからは特に。 「まあ当時の新との実力差なんか関係なしに悔しがれたのって、お前ぐらいのもんだしな。……ほら、初めて白波会行った時の源平戦とかさ」 太一がふっと笑って言う。もっとも、そうやって悔しがる千早の存在があったから、太一もあの源平戦を頑張れたとも思っている。もし試合前にヒョロの口から当時の新の戦績を聞いていたら、絶対無理だと決めてかかって、諦めていたかも知れない。 (……けど、あの時大山札取って、初めて新から『太一、ナイス』って言われて……おれも、嬉しかったんだ) 「……あいつらとの共通項は確かに新の言う通りだ。……おれが仕掛けるとしても、やっぱそこだろうな。電話してきた理由だって名人戦中継見たって言うんだし」 高校時代、太一目当ての新入部員がごっそりと退部した時、「好きになってもらえなくてかるたが可哀想だ」と千早が泣いたを目の前で見ているから、新が関本茉奈の「かるたなんか」という言葉に憤る気持ちは太一にもよく分かる。 「……名人戦の感想でも聞くの?」 千早が首を傾げて問うてきた。 「んなの、『早え』『すげえ』以外言わねえだろ」 「それもそっか……」 太一に即座に返され、千早は肩を竦める。 「いや、いいかも知れん、それ。……千早と太一からやったら、もっと違う話も聞ける筈やろ?」 千早の問いと太一の返しを聞いた新の頭に、ふと閃いた事があった。 「アレか? ……あいつらの平々凡々な感想の後で、おれら三人でかるたのディープな話で盛り上がる、みたいな?」 やはり太一は鋭い。新が閃いた事を、まさに掌を指すように言い当ててきた。 「でも私、当日、新の試合って二試合しか見てないよ?」 詩暢と一勝一敗になり丸々休憩になった第三試合と、クイーン戦が終わって残っていた新の第五試合しか近江神宮で目にしていない、と千早は唇を尖らせる。 「ほんな事言うたら、おれ一試合も見れてえんがの、当日なんて」 もちろん二人とも後日ビデオで全ての試合は見ているが、名人戦当日の張り詰めた空気の中で見る試合とはまた印象が違ってくる。 「んな事まで一々張り合ってんじゃねー! ……ったく。話戻すぞ? 名人戦クイーン戦の感想だけでいいのか?」 「いいと思うざ。……ほれに二人は、おれの福井弁にも慣れてるが? ……たまに通じんかって、意味聞いてくる時は真面目に聞いてるの分かるで、おれも抵抗なく答えれるんや」 小学生時代のあの二人が、実際どういうつもりで「綿谷語録」を作っていたのかは分からない。だが太一や千早と話していて、意味が分からなかった福井弁について尋ねてくる時の表情と、あの二人がメモを書いていた時の表情は本質的に違うと新は感じている。 「あの二人がもし、本気で意味分からんくてメモってたんなら、こそこそ隠れて書く必要なんかなかったやろし」 その事について東京で生まれ育った千早や太一には、以前は答えるのが難しいものだった。だが大会などで日本各地の選手と話すようになって、当時の新の気持ちが多少理解出来るようになった、と思えている。 「……だろうな。おれさ、大会で『東京もんの気取った喋り』とか言われてさ。おれ自身は普通に話してただけだったのに、って思った時、新もそうだったのかな、って考えた事あるんだ……そりゃ全部分かるなんて事は言えねえけど」 「ありがとう、太一」 太一の言葉に新は穏やかな笑みで返した。 |