Something Four 2
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「福井の生活に慣れたら一緒にやっていこう」という話の照れくささを落ち着かせたいと、千早は自分の携帯を取り出して意味もなく操作する。 「……何やってるんやし、千早」 「えっ? あ、ううん。同じ講義取ってる子がさ、携帯の予測変換占い、みたいなのがあるって教えてくれて。……ちょっと、やってみようかなあ……とか」 「予測変換? へー……」 そんなのあるんや、という新の言葉に曖昧に頷いて携帯のブラウザを開いたが、友人から聞いたアドレスをすっかり忘れてしまっていた。 「あー、ダメだ。検索かけてみよ」 「まあ予測変換の『か』は、おれと千早は同じ単語出てくるやろうけど」 「だよねえ。……んーと、携帯、スペース、予測変換、で出るかな? ……って、うわ。押し間違えた」 「携帯」と入力するつもりが、うっかりボタンを押し間違えた。検索サイトがその言葉で予測するセンテンスの一覧がウインドウの下に並ぶ。 「あれ? これ、何だろ……? 聞いた事ないなあ」 検索予測一覧に、「結婚 サムシング・フォー」という言葉を見つけた千早は首を傾げる。 「……新、知ってる? これ」 千早が携帯画面を見せてきた。 「あー……何となくは聞いた事あったかも知れん。……ほら、おれ前に親戚の結婚式出たでさ」 「新がダディベアデビューした時のでしょ? 似合ってたよねえ」 ずぶ濡れになった新に千早が貸してくれたのが、よりによって前身頃にでかでかと、新の目には微妙にしか見えない熊の顔がプリントされたスウェットだった。袖を通すまでに随分と自分に言い聞かせていた事を思い出し、新は何とも言えない顔付きになる。 「いや、その話はもういいやろ。って言うか人に質問しといて自分が脱線って何やの」 ダディベアの話を強引に打ち切って、「サムシング・フォー」の話に戻った。 「結婚式ん時に、花嫁さんがその四つを身に着けると幸せになれる……やったかな」 「記憶力いいよねえ、新」 以前聞いた、高校時代バイトをしていた書店の在庫を、棚に収めた並びも含めて全て覚えていたという話を千早は挙げた。 「……脱線さすんなら、教えんざ?」 「わ、わー! ごめん。真面目に聞く。真面目に。うん」 小さく笑ってから、新は出席した式で聞いた内容を話し始めた。 「四つのうちの一つは、『Something Old』って言うんやと。家に代々伝わってるとか、お母さんやお祖母ちゃんが身に着けてた結婚衣装とか指輪とか。『伝統』って事らしい」 そういう高価な物でなくても、ベールやリボンなどを親から譲ってもらって身に着けてもいいそうだ、と話す。 「つまり、私も子供に受け渡していくんだよね? ……二つ目は?」 「えっと……あ、そや。『Something New』。……要するに新調したもんやの。ドレスに合わせて着ける、長い手袋とかあるやろ? ああいうやつ。別に何でもいいみたいやけど」 新生活の象徴だから新しい物を、という話を聞いて、千早は続きをねだる。かるたに全く関係ない話だけに新も少々曖昧だったが、記憶をひっくり返して何とか思い出した。 「三つ目が『Something Borrow』や。自分の周りにいる、幸せな結婚した人からハンカチとか、アクセサリーとか借りて、それにあやかろうって。……まあ言うたら幸せの『お裾分け』って感じなんかな」 「ああ! 何か分かるなあ、それ」 千早はぽん、と手を打って何度も頷く。それに新も「ほやの」と短く返した。 「それで最後のは?」 「あー……っと、何やったっけ? ……思い出した。『Something Blue』か。まあ分かるやろけど、青い物。服の下とか、隠れるとこに着けるのがいいらしいの。んと……大抵は、あれ何て言うんやっけ? 女の人が脚のここんとこに着けるアレ。こんな感じの」 新は自分の腿に両手の指を回して千早に尋ねる。 「レッグガーター? 私、買い物先とかでもあれの青って見た事ないなあ」 「あ、それや。……いや、白地に青いフリルとかでいいらしいけど。……こんで四つ全部言ったかの」 千早は目を瞠らせてしきりに感心していたが、ふと何かを思い出したのか、新の顔をじっと見上げてきた。 「……どしたんやし?」 「四つ目の象徴って、何?」 その質問に新は一瞬固まってしまう。何しろ「サムシング・ブルー」が意味するものは「純潔」だが、千早のそれを奪ったのは他でもない自分だ。どうにも後ろめたくて、今も説明からわざと省いて答えた。 「新、教えてよー」 千早が肩を揺すり、答えを迫ってきた。逃げ場のない気分で、ようやく新は言葉を返す。 「んと……象徴は、純潔、なんやけどさ……。それ象徴に出来んくしたの、おれやが……?」 新はもごもごと口ごもりながら、何とか言い切ったが、顔から火が出そうだった。 「でもさ?」 しばらく同じくらい顔を紅くしていた千早が不意に口を開いた。 「でも?」 「……新としか、してないし、ある意味、そうなんじゃ……ないかなあ、って……思って」 それを言うなら「貞操」だと思うが、千早がそう思ってくれるなら、と新は突っ込まないでおいた。 「まあ、ほんでもいいけど。……って千早?」 千早が上目遣いで新の顔をじっと見ている。どうした、と問い掛けるより一瞬早く、千早の唇から言葉が飛び出した。 「新、浮気しちゃヤだからね?」 何を言い出すのかと新は目を丸くする。そんな念押しをされるまでもなく、自分の答えは一つしかない。 「せんよ。千早は?」 「する訳ないじゃん」 そう言って千早もはにかむように笑んだ。 照れくさくて「お茶淹れる」と千早が床から立とうとした拍子に、手にしたままの携帯がカーテンを巻き込んだ。 「あっと、ごめん。引っ掛かっちゃった」 「いや、いいよ」 床から立った新がカーテン生地を持ち上げるように携帯電話を外すと、弾みでレースのカーテンが千早の髪にふわりと落ちてくる。それを見て胸が高鳴ってしまい、レースを外そうとした手を思わず掴んで止めた。 「……え? 何かまだ、引っ掛かってる?」 「いや……さっき、ほんな話したでやろか……」 何の飾りもない、ただの地味な白いレースが髪を覆っている千早が、一瞬ウエディングドレスのベールを被っているように見えた。 「あ、えっと……その。……あの、さ」 「なに?」 カーテン越しの千早の目がこちらを見ている。その顔にさっき思い浮かんだ事を話すと、照れたのか千早はカーテン生地を引っ張って目元を隠す。 「千早。……そのうち、着けての? ……本物」 レースを頭から被ったまま、細い首がこくんと縦に振られた。 |