Sober Up 3
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「……新ぁ……」 畳の上に仰向けに倒された新の腰に跨り、千早が顔を見下ろしてきた。 「……まだ酔っ払ってるんか、千早……?」 今の突拍子もない行動は、酒気が抜けていないせいだとしか新には思えない。 「かも知れないし、違うかも」 「……え?」 まだ酔っているのは自分の方なのだろうか、と思ってしまうほど、千早の言った意味が掴めなかった。 「新ってさ、いつも優しい。……こういう時だって、自分より私優先するみたいなさ」 千早は指先を新の胸に滑らせながら、ゆっくりと口を開く。 「……優先とは違う、と思うざ……?」 感じていく千早を見たいという、むしろ己の欲求の表れだろうと新自身は考えている。そう告げても千早が納得した様子は見られなかった。 「……おれやと、物足りん? 千早」 元々鈍感な面もあり、千早との行為にしても初めての時からずっと手探りのようなものだ。飽きられる事もあるかも知れないと新は恐る恐る問い掛ける。 「そうじゃなくって! ……新は優しいけど、かるたの時の新は違う。その札が欲しいと思ったら全力で取りに行く。そうだよね?」 いきなり千早の口調がきつくなったが、言っている事は合っている。 「……うん、それは千早の言う通りやけど」 「じゃあ私にも、そうして。……今日は私、酔っ払ってるから遠慮しない。だから、言う」 新の上に跨っていた千早が新の両手首を掴み、上体をぐっと倒して顔を近付けてきた。 「……優しくしなくて、いい。手加減も遠慮も嫌。……かるたと、おんなじ」 言い切った千早が口を噤む。その時初めて、手首を掴んでいる千早の手が微かに震えている事に新は気が付いた。素面に戻っているのかどうかは分からないが、少なくとも普段口にするには抵抗があった事を酔った勢いという事にして話しているのだろう。 「……はぁ……」 一度だけ天井を仰いで新は深く息を吐き出し、自分の心の中にもあった、千早と同じ欲を直視して躊躇をかなぐり捨てる。千早を跨らせたまま腹筋だけで身体を起こすと、千早に掴まれた手首を振り解き、体を入れ替えて逆にその手首を押さえ込んだ。 「───分かった」 短く答えると手首を捕まえたまま、上に覆い被さって奪うように口付けた。 (……かるたと同じ、ってさっき言うてたか。……千早を札に見立てるんやったら……) 何の札かなど考えるまでもない事だった、と新は一度唇を離し、千早の手首を押さえたまま、競技線の中に「ふ」と「ちは」を持ち合っている時の、必ず自分が取ると決めた場面を脳裏に描いてじっとその顔を見下ろした。 「……っ」 眼鏡越しの新の瞳が見る間に鋭さを増し、千早はぞくり、と身を震わせた。 (……一呑みにされそうな、私が札ならその裏まで見通せるみたいな、目……。私、やっぱり……新のこの目が、好きなんだ……) 「あ……っ?」 新が手首から手を離したかと思った次の瞬間、その大きな手は千早の両手首を片手で纏めて掴み、頭の上で押さえ込む。自由になった片手がいきなり洋服の上から千早の胸に触れてきた。 「……んっ……!」 小さく身をよじるが、思った以上に新の手は力強く、千早の手首は動かせない。上体を倒してきた新はふいと唇を避け、感じやすい耳を攻めてきた。 「あっ、やぁ……ダメ……」 「……ダメは聞く気ない。……試合ではモメんけど、手加減要らんって言うたの千早やでの、退かんざ」 実際、普段千早を抱いていて、その反応が良すぎて逆に心配になるのがこの耳だ。息がかかるたびに千早がびくんと身体を竦める。 「おれに、教えてや。……千早は、耳だけで……どこまで感じるんか、っての」 「……んっ、ふ、ぁ……っ!」 その言葉にさえ千早は鋭敏な反応を見せている。そっと舌を伸ばして柔らかな耳朶の裏側をなぞっていくと、手首を極められたまま千早の背が撓る。 「っ、ああっ!」 「……気持ちいい?」 千早がぶるっと震え、壊れたように頷くが、新は容赦しなかった。 「……はっきり、言いね」 耳朶をそっと噛んで告げる。 「んっ、……い、い……。ん、あっ、やっ!」 千早の唇から紡がれる声がどんどん艶を帯び、組み敷いている身体も熱くなってきている。 「新ぁ……お願い……」 「……何」 「キス、して……?」 「……後での。さっき言うたがし。耳だけでどこまで感じるんか、知りたいって」 却下の言葉も千早には愛撫と同じらしい。ちらりと横目で様子を伺うと、身を捩らせながらも、潤んだ目が切なそうに新を見ていた。 (……ほんな目されたら、優しくしたくなるの、やっぱ……) 手加減なしにしたいのも欲なら、優しくしたいのもやはり欲ではある。新は手首を押さえていた手を離し、身体の位置を少しずらすと手の平で千早の頬をそっと包んでから唇を重ねた。 「……ん……あ、ん……っ、……は、……っ」 舌を差し入れると千早の舌がそれを喜ぶように受け止めてくる。キスを続けたまま、新は片手で千早の着ているチュニックをたくし上げ、その下にあるしっとり汗ばんだ肌の感触を確かめるように手の平を彷徨わせていった。 「あっ、……ん……。新……」 千早が背中を反らして出来た隙間に手を差し込んで、新はブラのホックを指先で何とか外す。ぷつん、という感覚のあと千早の身体の前に中途半端に外れたブラが肩紐だけで残っている。 「……脱がすざ?」 一度キスを解いてチュニックとブラを一緒に頭から引き抜いた。露わになった胸を隠そうとする千早の腕の下に、新はそれこそ札を払うような素早さで自分の手を潜り込ませた。 「手加減なし、なんやろ? ……隠すの、なしや」 さっき耳への愛撫を念入りにしたせいか、千早の胸の先端はすでに芯を持って上を向いている。何度目にしてもやはり綺麗だ、と新の喉がごくりと音を立てた。 「……よ、っと」 不意に新は身体を起こし、千早の手を引いて畳に座らせた。 「……新?」 千早が不安げに尋ねると、宥めるように新はその背後に腰を下ろし、左腕で千早をしっかり抱いた。 「気にせんでもいいって……こうしたかったで起こしただけやしの」 耳元で答えるとまた千早の肩がびくんと震える。 「今までって、こっち向きでって、した事なかったが?」 背後から告げて長い髪を持ち上げると、うなじから徐々に新はキスの位置を下げていく。 「……っ、んんっ……、っく……ふ、あ……んっ!」 背中の中程、ちょうどブラのホックがあった辺りを新の舌がなぞっていった時、千早の背中がしなやかに反った。 「……背中も感じるんや? ほんと、身体中敏感なんやな……」 「知ら、ない……ってば……っ、……ん、ぁ……っ……!」 息を乱した千早の腰がもじもじと動いている。新は空いている右手を千早の履いているミニキュロットの裾に滑らせた。滑らかな腿を撫で上げていくと、新の指先がキュロットの股にぶつかった。 「……あれ、これスカートでないんや。……なんかちょっと、肩透かし食ろうたな」 もっともキュロットの上にミニスカートのような生地が重なっている物がある事を知らなかったのは新の方だ。苦笑しながら片手を抜き、千早のウエストをほぼ一周するようにファスナーを指先で探す。やっと探り当てたファスナートップを下げると、千早のウエストから腰にかけての悩ましい曲線が新の目に飛び込んできた。 「……ちょっとだけ、待ってての?」 千早の肩口にもう一度キスを落として、床から立ち上がった新は押し入れから布団を出してきて手早く敷き、着ていたパーカーを頭から引き抜いて部屋の隅にぽんと放った。 「千早、……来ね(おいで)」 布団の上に膝を付いて千早に呼び掛ける。それを受けて床から立った千早の脚から、さっき中途半端に脱がせたキュロットがすとん、と落ちた。それを畳の上に置き去りにして、千早は新の前にそっと座った。 「……一応、先に言うとくけど。……遠慮なしって、後悔するかも、知らんざ」 遠慮しないという事は、新の裡から抑制という箍を外す事だ。千早の身体にかかる負担や恥ずかしさはもちろんの事、新の中にあった剥き出しの欲望を知る事で、千早の中にあった「新という人間像」が崩れる事も有り得る。だから今一度、完全に引き返せなくなる前に問うておきたかった。 「新だって……ガッカリするかも知れないよ。だけど……いいの。それでも。さっき、『分かった』って言って新、試合の時みたいな目で私を見たでしょ? ……一呑みにされそうって思うのに、私が札なら裏まで透かし見られそうだって思ったのに、……それが、すごく……ドキドキして。……か、感じてた……から……」 首まで真っ赤に染まりながら、千早は答えた。 「ん、なら……もう聞かんし、止めん」 言うなり新は布団の上に座っている千早の膝裏に腕を差し込み、その身体を仰向けに倒すと、自分の身体を千早の脚の間に割り込ませて両手を彼女の両脇に置く。かるたの試合で構えに入る時とよく似た格好で千早を上からまたじっと見た。 「……、新……」 口にした通り、千早は自分の視線にさえ確かに反応しているのが分かる。新はわざとゆっくりと上体を倒していった。 |