降れる白雪
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新に抱きすくめられた途端、千早の心臓が早鐘のように鳴り出した。 (服も、お布団も新の匂いがして……新もそこに居て……何か身体全部が新に包まれてるみたい……) 新の胸から伝わる鼓動や呼吸も普段より速いように思える。 (新も、ドキドキしてるんだ……) そう思うと少し落ち着ける。千早は窮屈な体勢から腕を伸ばし、新の頬を手の平でそっと触れてみた。 「……千早?」 カーテンの隙間からぼんやり差し込む街灯の明かりで、新が目を眇めて千早を見ようとしているのが何となく分かる。 「新、この距離でもやっぱり見えない?」 「ん……そこに居るのは分かるんやけど、表情とかは全然や」 この辺りに目があって、口があってという程度は裸眼でも見当は付くが、それは単に「人間の顔はこういう物」というだけで、個々の顔を見分けているのではない。表情豊かな千早の顔がはっきり見えない事についてだけは、新は自分の近眼を恨めしく思う。 「そうなんだ……」 言いながら千早は首を伸ばし、新の唇に小さくキスをした。 「……ち、はや……?」 新の声には戸惑いの色があった。 「えっと、さ。新……今は眼鏡外してるし、き、今日は……私から、しても……いい?」 口にするだけでもかなり恥ずかしい。今は新に表情まで見えていない事が有り難かった。 「……え? ……や、その、したい、けどさ。……眼鏡、掛けるで、無理せんでも……」 言い終わる前に千早が新の身体の上に覆い被さり、深く口付けてきた。 「……っ、……」 千早を抱いていた新の腕に力が入り、背中を大きな手の平が彷徨う。 「ん……っ……」 合わさった唇から時折漏れる甘やかな千早の声は新の頭をじりじりと焦がす。 (やっぱ、千早の顔……見てたい) 矢も楯もたまらずに片手を千早の背中から離して枕元の、いつも眼鏡を置くあたりを指先で探る。ひんやりしたフレームを指先が捉え、新は唇が離れた瞬間に手にした眼鏡を素早く顔に掛けた。 (……掛けても暗いで、よう分からんな) それでも間近に居る千早の表情が分かるだけ数倍マシなのだが。ふっと身体の上の重みが消えて、千早が布団から抜け出たと分かる。 「……千早?」 ようやく部屋の薄暗さに目が慣れてきた。千早は布団から出て窓の近くに横座りになっている。新に向けていた背中が一度ぐっと丸まって、再びすっきりと背筋が伸びた時、新の目が釘付けになった。 「……」 窓から細く差し込む仄かな明かりの下、夜目にも白い肌が幻想的にさえ思えるシルエットを見せている。驚いた新も布団から身を起こす。 「なん、で……?」 新の声に千早がゆっくりと振り返った。胸の前で肘を曲げて目隠しにはしているが、千早はその身に何も纏っていなかった。 「……してあげたい、って思ったから。……変かな」 「驚いたけど、変やとは思わんよ」 言葉を裏付けるように、新も着ていたスウェットを頭から引き抜いた。 「……冷えるやろ。……こっち、おいでや」 新が手を差し伸べると、少しひんやりした千早の手が触れる。構わずに手を引くと、ほっそりした身体がまた、新の胸元に飛び込んできた。 「新……。いい? ……その、しても……」 千早が見上げてくる。新は一つ頷いて、千早を抱いたまま身体を倒した。 「……まあ、たまにはの」 (どっちから始めたかって、結局おれ、千早を欲しなってまうで一緒かも知れんけどなあ……) そんな事を考えていた新の頬に千早の長い髪が触れ、ゆっくりと顔が近づいてくる。新は片手を千早の頬に添えて、下からそのキスを受け入れた。 「っ、ん……ぁ、ふ……っ」 千早の舌が唇を割ってくる。新はそれを許さずに逆に自分の舌を千早の唇に差し入れた。覆い被さっている細い身体は新が舌を動かす度にぴくりと震える。 「んん……っ、ダメだってば……。して、あげられなく……なっちゃう、から……」 可愛らしい抗議の声を無視して、新は頬に添えていた手を千早の耳元にずらして指先でそっと耳朶の輪郭をなぞった。 「……やっ、新……意地悪……」 「別に意地悪でしてえんけど」 言いながら新はもう片方の肘で自分の体重を支え、自分の頭を持ち上げると再び深く口付ける。新の舌が千早のそれを捉えて絡め、濡れた口腔を行き来すると二人の身体がどんどん熱を帯びていく。 二人分の体重を支える肘が少し震える。唇を離して千早を抱えたまま新は上半身を起こすと、剥き出しの腿の上に千早を跨らせて安定を取った。まっすぐ前を向くと新の顔の真ん前に柔らかな胸が千早の呼吸に合わせて上下している。吸い寄せられるように手を伸ばして片方を手の平でそっと包むと、新の肩口に触れていた千早の指先にくっと力が入った。 「あ……っ、はぁ、んっ……新ぁ……」 甘えたように紡がれる自分の名に頭の芯が焦げ付きそうになり、残った片方の胸元に唇を寄せて尖り始めた薄い桃色のそこを舌先で探ると千早の唇から零れる吐息はますます熱っぽく新を駆り立てていく。 「あ、あ……、うン……ッ、あら、た……」 「……っ、」 新が舌を動かすたびに千早の腰が円を描くように揺れ、二人の身体で挟まれている新自身も一緒に擦り上げている。 (う、わ……凄っ、って言うか、何や、これ……ヤバすぎや……っ!) 千早が吐き出す熱い吐息が耳元をくすぐり、指先は肩や背中を彷徨う。密着している腿や自身の幹には千早の蜜と自分の零した露が動くにつれて塗り広がったのか、まだ指で触れてもいないのに濡れた感触を伝えてよこす。目と耳と触感が与える快感は新のなけなしの理性を吹き飛ばしにかかった。 「千早……っ、もう、入れても、いいか……」 部屋が暗い事がこんなに有り難いと新も初めて知った気がする。 「うん……来て、新……」 千早の声音も普段より切羽詰まっているようだった。 密着している身体を離すのは勿体なかったが、一度千早を身体の上から下ろした新は腕を伸ばし、指先で救急箱の中を探ると一番底に隠してあったゴムを取り出した。その手を千早にそっと取られて新は息を飲む。 「私に、させてくれる……? してあげたいって言ったのに、何にも……出来てないし」 「……別に、気にしてえんのに。……まあ、いいけど。……付け方、分かるか?」 包装の端を少しだけ破ってから、新は千早の手に薄い包みを握らせた。中身を取り出した千早が先端を指で摘んで空気を抜き、そっと新に被せていく。 「……うわ、何か、ヤバい……」 「何か、って……?」 「……いや、ほんなもん付けるだけやのに、気持ち、いいでさ……」 ゆっくりと千早の指が根元までゴムを被せていく。正直、息を詰めていないとそのまま放ってしまいそうな気さえした。 「……新、もう……いい?」 少し恥ずかしそうに告げた千早が新の上体を仰向けに倒した。 「え、ちょ……。だ、大丈夫なんか、それって……」 千早の意図は分かるが、お互い経験のない格好でちゃんと繋がる事が出来るのか、新にも分からない。だがそう言っている間にも新の腰にわだかまった熱は待ちきれないと脈を打ち、新の言葉を裏切ってしまう。 「ん……っ、平気……」 新の腰に跨った千早が、ゆっくりと身体を沈めていく。一つ息を吐くごとに、新の熱が千早の奥を目がけて少しずつ入り込み、千早は新の手をきつく掴んだ。 「……っ、やぁ……ぁっ、新、なんか……凄い……っ」 熱い息が裸の胸にかかり、新も千早が掴んできた手を強く握り返した。時折長い髪が身体を撫で上げて自分の水位を上げようとしていくのを新は眉を寄せて堪える。 「それ……こっちの台詞や……」 新を飲み込んでいる千早の中は熱く柔らかく、それでいて新をもっと飲み込もうと貪欲に蠢いていて、目が眩む心地がする。 「あ、あ……っ、やだ、ど……しよう……っ、う、嘘……っ!」 不意に千早の声から一切の余裕が消え失せる。新が訝しむより先に、千早のそこが新を奥の奥まで誘おうと引き絞られてその答えを示す。 (え、これって、もしかして……ほやけど、おれ全然動かしてえんのに……?) 一瞬驚くが、千早のその様子は間違いなく、これまで肌を合わせた時に彼女が頂点に向かおうとする時のものだ。 「……千早、いいんや。……いきたいように、いけば……」 だから言うべき言葉に迷う事もない。 「ふ……ぁ、あぁっ、あんっ、もうダメぇ……っ!」 千早の背中が大きく仰け反り、新は慌てて細い腰を支える。それが留めとなったのか、小刻みに震えながら千早は達してしまった。 「っ、はぁ……はぁっ、ん、……はぁ……」 新の胸の上に力が抜けた千早の頭がとすん、と落ちてきた。新は手の位置を変えて千早の頭をそっと抱く。 「……ん、……あ、ごめん……なんか、私ばっかり……」 薄く目を開けた千早が謝ってくる。 「別に謝る事でないやろ。……けど、もうちょっとだけ、付き合うての」 言うなり新は下から軽く腰を突き上げた。 「あぁんっ! やぁ、ダメ、んっ、ま……また、どうか、なっちゃう……っ!」 反応の良さに気を良くし、新は小刻みに腰を送る。だがやはり、この格好は不慣れな事もあって思った通りに腰が動かせない。 「……よいしょ、っと」 繋がったままの千早の腰をしっかり支えて上体を起こすと千早の身体はそのまま仰向けになった。新はどうにか自分の足を膝を曲げられる位置まで移動させ、千早の上に覆い被さった。 「新、あらた……っ」 のし掛かる重みを喜ぶように千早の両手が新の背中にしがみついてくる。自由になった腰を深く送ると、白い喉を反らせて千早は素直な反応を返してきた。 「……千早、おれも……そろそろ、あかん……っ」 切羽詰まった声音に応えるように千早の中がまたきつく締め付けてくる。 「あ、あんっ、新っ、……っ、んっ、来、てぇ……っ!」 新の動きが限界まで速まる。腰のあたりから甘いような切ないような感覚が沸き上がり、電流のように全身を駆けめぐっている。 「……ちはや……っ」 意識が真っ白に飛んでいく中、千早をしっかり抱き締めたまま、新も身を震わせて全てを吐き出した。 |