ずっと笑っていて 2
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「新、ここだ!」 空港の出口で太一が呼び掛ける。そこへ急ぎ足で合流した新は道中一つだけ聞いていなかった事を口にした。 「……細かいこと、家の人は」 「もう、知ってる」 太一の父が院長を務める病院に向かうタクシーの中、新は南雲会で受けた電話を思い出す。 『今すぐ表に出ろ。それで、おれが何言っても絶対大声は出すな』 ひどく切羽詰まった太一に戸惑わされながら、言われた通りに外へ出た新を襲った、千早が暴行されたという衝撃。暴行などという生易しいものではなく、輪姦。千早の身体に残っていた痣などから複数人だと判明したらしい。 「傷……は、様子は、どうなんや……っ」 叫ばないでいる事さえ難しい。今は鎮静剤で眠らせてあると太一は伝えてきて、誰かに空港まで乗せていってもらえ、と告げた。 『七時の便、おれが手配しておく。とにかく来い!』 そうして新は東京行きの飛行機に飛び乗った。 「あんまり見たくないだろうけど」 そう断って太一が作成中のメールを装った文章を見せてきた。男の自分達が迂闊な事を言ってはいけないからと、事前に大筋を知らせろと新が言っておいたものだ。 (……千早の、発見時……) 陵辱され、開かされた脚を閉じる事さえ忘れたように倒れたままだった千早を偶然見つけた通行人が、救急車を呼び、そこから警察にも一報が入った。表面的には張られた頬以外目立った外傷は見当たらず、警察官への問いに千早は虚ろな目をして、まるで自分以外の誰かに起きた事のように一本調子で答えていたらしい。それが一変したのは家人が駆けつけた時で、その途端パニックを起こして暴れ、自分を傷つけかねないからと薬で眠らせていた。 (それを、太一が頼み込んで……お父さんとこの病院にある最上階の特別室に移してくれた……) 「……分かった。……移送、ありがとの……」 タクシーの後部座席で太一の隣に座っている新は背中を丸め、拳を額に押し当てて必死に感情を御そうとしている。通常の面会時間はとうに過ぎているが、太一は院長の息子という立場をフルに利用して新を中へ押し込む。 「太一、いくつか頼まれて欲しいんや」 「前置きなんか要らねえよ」 時間がもったいない。太一は新を急かす。 「おれが千早と話すで、家の人少し休ませたげて。あとおれんちに電話しといて。理由何でもいい。それとノーパソ。最後におれの付き添い許可」 「任せろ」 会話が終わった時、ちょうどエレベーターが停止してドアが開く。新は一旦、控室に入り千早の両親に軽く頭を下げた。 「……こんばんは」 こんな状況下に全く相応しくない挨拶だが、他に言葉が出てこない。 「あの……今、寝てますか……」 「……ええ……」 何故かどちらも千早の名を口に出来ずにいる。新はぐっと拳を握り込んで言葉を発した。 「おれ、千早の側に付いてます」 許可を求める言葉ではなく、そうするという明確な意思表示として告げた。 「……でも……」 あんな目に遭った娘の側に、男である新がいるのは抵抗がある、と千早の母は俯いたまま答える。 「──千早は」 新は可能な限り落ち着いた声で返した。 「千早はおれの一番大切な人です。千早もそう答えてくれました。苦しい思いしてる時やから、なおさら側にいたいんです」 さっきの頼み事うまいことやって、太一にそう告げて新は病室のドアを開けた。 |