Reunion 2
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話が一段落した所に、注文した料理が運ばれてくる。 「うわあ、美味しそう!」 取り分けられたボンゴレを前に、千早が目を輝かせ、さっそくフォークを手に料理を頬張り始めた。 「……千早はほんと、美味そうに食うの」 「だってホントに美味しいし」 短く答えてまたぱくり、と食べる。唇の端にトマトが少し残っている事に気が付いた新は、片手を伸ばしてそれを取ると自分の口に入れる。 「お弁当付いてたざ?」 「あはは……また、やっちゃった?」 照れ臭そうに笑う千早に、新は柔らかく笑い返した。 「あ、ねえ綿谷くん。ここの場所とか、すぐ分かった?」 関本茉奈が再び話しかけてくる。 「太一がよう知ってた場所やったし。問題なかったざ」 「そうなんだ?」 「うん。まあ念のため太一に確認は取ったけど。……時間と場所。『覚え間違い』でせっかくの同窓会出られんとか、嫌やが?」 新の一言に関本茉奈がふっと視線を逸らした。 「お前に限って記憶違いはないだろ、新。試合中だって覚えた配置一旦忘れて、また覚えるとか出来る奴がさ」 太一がわざと会話に割って入ってきた。 「太一も暗記凄いよね。読み札見ないで百首ランダムに暗唱出来るし」 千早がパスタをフォークの先でつつきながら言葉を継いだ。 「……太一、ちゃんといい所で暗記『止めて』るんか?」 「あ、それは大丈夫。サンキュな」 話がかるたに戻ると、関本茉奈の表情にまた不満の色が浮かぶのが分かる。だが太一も新もそれに気付いた事を一切彼女に気取らせはしなかった。 「その、暗記を止めるって……どういう意味?」 さっき「感じ」について尋ねてきた級友がまた問いを発する。 「かるたは相手の札取ると、自分のとこから一枚送れるやろ? ……あー、この話やと攻めがるたやし千早が一番向いてるか。……頼むわ」 さっきと逆に、今度は新が千早の肩をぽん、と叩く。 「うん。私は特にそうなんだけどね、相手の札を取るんだから、相手の陣のどこに取りたい札があるかって事を一番強く頭に入れるの。他の札の暗記しなおしても、またその札の暗記を最後に入れ直すんだよ」 例えばね、と千早はテーブルナプキンの上に札に見立てた四角をいくつか書き込んで話を続ける。 「私が狙いたい札がここにあるとするでしょ? そしたらこう、全部一巡した後最後にもう一度、この札はここだ! って。もう見なくても手が出るぐらいに頭に焼き付けちゃうの。……暗記はかるたのスタイル問わず大事だけど、新と取る時はホント大事」 「……それは、なんで?」 級友は真剣に問いを重ねてきた。 「私は敵陣の札を取る攻めがるた一本なんだけど、新はね、すごく柔軟なかるた取るから。さっき試合運びの話出たけど、新は試合中の駆け引きとか、流れを自分に向ける送り札の選び方や札を移動するタイミングがホント絶妙にイヤなんだよねえ、向かいに座るとさ。……あ、今のイヤは誉め言葉だよ? ……白波会に来たら、実際の札使って説明するね。新の渡り手見たら驚くよ」 千早もちゃっかり勧誘の言葉で話を終えた。 「あ、それ何か中継で聞いた!」 ようやく知った単語が出た、と関本茉奈はすかさず食らいついてきた。 「右も左も取っちゃうんでしょ?」 「……別に二カ所に限らんけど。おれ三カ所渡る時あるし」 顔色一つ変えず新は答える。会話が続かず関本茉奈が必死に言葉を探している所に、太一がそう言えば、と会話に入ってきた。 「高校選手権の後、西田がそれで盛大に悔しがってた事あったぜ。……お前『た』三カ所渡って攻めたんだってな」 「ほやかって西田くん強いでさ。渡り手効く配置やったら決まり字待たんと渡ってまう方が、おれには合うてるんや」 渡り手や加速で緩急を付けながら、試合の流れを自分に引き込む、と新は涼しい顔で続けた。 「まあお前が渡り手の名手だってのは、選手の間じゃもう常識みてえなもんだよな」 話に乗ってきた太一の言葉には、聞きかじりの単語だけで会話は続けられない、と小さな皮肉が込められている。 「……茉奈ちゃん、あんまり話の邪魔しない方がいいんじゃない?」 小学校時代、彼女と一緒に「語録」を書いていた正木明花が小声で関本茉奈に話しかけている。ただかるたで鍛えている三人の耳はそれもちゃんと拾っていたが。関本茉奈は何でよ、と正木明花に食って掛かる。 「だって、傍から聞いてたってレベル違いすぎるよ。彼は真面目にかるたの事知りたいって質問してるから、綿谷くん達も真面目に答えてくれてるけど……茉奈ちゃんはほら、理由が違うじゃん」 正木明花は級友を引き合いに出して、もう一度彼女を止めに入った。 「真島、さっきかるた会の話してくれたけどさ。……行ったら俺も、試合出来るって事? 三人と」 級友がまたかるたの話題を振ってくれた。 「もちろん。……ただし誰も手加減なんかしねえけど。お前に対してだけじゃなくて、誰に対しても」 「や、手加減はともかくさ。逆に申し訳ないかもなあ。……おれ、やっとこさ百首覚えてるかどうかってレベルの初心者だし」 級友が頭を掻く。新はそんな彼にふっと笑いかける。 「みんな最初は初心者なんやし気にせんよ? ……持つ枚数でハンデ付ける程度やったら、手加減のうちに入らんしの」 「そうだよ、私達だって最初は原田先生に多く持ってもらって練習したんだ。でね、その試合の後に先生から『じゃあ今度からハンデは五枚ね』って言われると、すっごく嬉しかった!」 千早は満面の笑みでその時の事を話す。 「あ、じゃ、じゃあ私も!」 友人からも止められた事で意地になったのか、関本茉奈が名乗りを上げた。 「ま、茉奈ちゃんってば!」 正木明花が彼女の袖を引く。 「……いいんじゃね? 別に。……どう思うよ、新」 太一はさらっと答えてきた。もちろん少し前にその事も三人で話し合いは済ませてある。 「おれは百首覚えてる人やったら、別に誰と取っても構わんけど」 新が答えると、関本茉奈は表情を引きつらせる。電話で言った通り、小学校で覚えさせられたっきりなのだろう。 「でもほら、私だって初めて白波会行った頃は、五十首覚えてるかどうかってとこだったし。やる気があるならいいと思うんだけど」 千早が新と太一に向かって言う。 「……ちーちゃん、そんな情けかけるみたいな言い方とか止めてよ。何なのよ」 同性の千早に庇われた事が逆に悔しいのか、関本茉奈はぼそりと呟いた。 「……関本さん、ちょっといいかの」 これは埒が明きそうにない、と新はストレートに話す事を決意して、表情を引き締めると少し強めの口調で呼び掛けた。 「な、何……?」 「……おれ結構気ぃ短い方やでさ、自分の彼女に酷いこと言われんのとか、嫌やし言わんといて」 新が口にした「彼女」という単語。今の話の流れが指す相手は千早以外にあり得ないと全員が気付き、テーブル全体がざわめいた。 「おれに何やかんや言うのは構わんけど、おれかって言いたい事はあるざ。……語録とか」 他のクラスメイトは何の事か分からずぽかんとしている中、関本茉奈の顔からさっと血の気が引く。隣で彼女を諫めていた正木明花は俯いてしまった。 「え、じゃあ今年の名人戦って、文字通りアベック出場って事?」 かるたの質問をしていた級友が目を丸くして問うてきた。 「うん……まあ。……何かそう言われると照れ臭いけど、ずっと前から一緒に名人戦クイーン戦出たかったで、嬉しかった」 「私も。新に教えてもらったんだもんね。『かるたでは、日本で一番は世界で一番』って」 懐かしい言葉を紡ぐ千早に、新はにっこり笑う。 関本茉奈を除くテーブル全体の興味は、小学校卒業と同時に福井に帰った筈の新と千早が交際に至った経緯に移ったようだった。 「……や、手紙とか年賀状のやり取りは続いてたしの。太一とも。高校入ってからは大会で顔合わせとったし。おれがこっちの大学受けるって決めたのも、千早や太一とまたかるたしたい、って言うのが一番の動機やったしさ」 福井に帰って以降の細かい話については新は何も話さなかった。二人が心配してやって来てくれた事は、三人だけが知っていればいい事なのだから。 「じゃあ、告白とかは?」 クラスメイトが問うてきたそれに、新はあっさり自分から言ったと答える。 「高校二年の時、おれ西日本代表として、名人戦の挑戦者決定戦に出たんや。まあ負けつんたんやけど、試合の後に少し千早と話してて、ほん時に自分の気持ちはっきり分かったで、好きやって言うた」 新の言葉を聞いてテーブルはまたざわめき、千早は真っ赤になって俯いてしまった。 「……おれと千早が付き合いだしたって聞いても、太一は今まで通りおれらの友達でいてくれてる。……ほんとに、感謝してるんや」 「よせよ、照れくせー……」 太一もまた、頬を紅くして答えてきた。 「綾瀬って、かるた始めたの綿谷が転校してきてからだったよな? ……あれ? けど中学に部なんかあったっけ」 別の級友がふと思い出したように口を開いた。 「ううん、残念ながら。ポスター貼ったおかげで一時期、陸上部の先輩が一緒に取ってくれたけど」 「……他の奴は?」 その問いに千早は寂しそうな笑みだけを返した。 「ほやけど、ほんな状況でもかるた頑張り続けて、今は立派なA級トップクラスやもんの。凄い事やわ。千早だけでのうて、太一も。中学では同好会作ったって年賀状に書いたったし、高校では成績落ちたら部辞めなあかんって言われてたのに、ずっと学年トップ維持してきたんやもんな」 「太一、彼女とも別れてかるたに集中してたもんねえ……中学の時知り合ったんだっけ?」 千早は既に知っている筈の話を太一に振った。 「ん? ああ。……そういや、関本と正木に紹介されたんだったよな。……ま、お互い打ち込める物見付けたからって事で別れたけどさ」 千早が話を振った意図を即座に察した太一はごく簡潔に交際の切っ掛けと別れた理由を話す。関本茉奈や正木明花の耳が少し赤くなっているのが見え、これ以上は追い込みすぎになるだろうと判断した太一は話題を変える事にした。 「まあ、そんな訳で今は三人とも『かるたバカ』やってるって事になるのかな」 「……かるたバカ、で止まるならいいじゃん。大学の部で私と新、『かるたバカップル』って呼ばれたりしてるんだよ?」 千早が唇を尖らせて太一に言い返す。テーブルのあちこちから忍び笑いが聞こえてくる。 「これ以上ない的確な表現じゃん、なあ?」 「まあの。おれらも別に気にしてえんよ、実際」 新は穏やかな口調で太一に返した。 |