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Reunion



 同窓会当日の午後、一足先に待ち合わせ場所に着いた新は小学校の建物を懐かしく眺めていた。
「変わらんなあ。……一階の端っこのあの教室、大会あった部屋や。今もやってるんかの、校内かるた大会……」
 たった四ヶ月だけの、ここでの日々は今も心の中に色濃く残っている事を新は改めて実感する。通りの方からの声に振り向くと、ここで出来た大事な友達が、何年分か成長した顔で手を振っていた。
「おっ待たせー!」
 千早と太一が足早に新の側へとやってきた。
「お、いい感じで着崩せてんじゃん、新。貸したようには見えねえぜ」
 今日の服を貸してくれた太一が親指を立てて、新の着こなしを保証してくれた。
「二人は、流石やなあ……。本物の芸能人みたいやわ」
 特に姉の千歳に、新と太一の今日の服装に合わせてコーディネートしてもらった千早の装いは、そういう物に疎い新から見てもよく似合っていた。普段より少し大人びて見えるが、今日この服装を選んだ目的を考えればより効果的だと思える。
「そりゃあ、『本物の芸能人』が着てた服だもん」
 新の一言をそのまま使って、千早は姉のファッションセンスを自慢げに話す。

 「……そう言やあ、お前の私服って大抵姉ちゃんのお下がりなんだっけ?」
「うん。あとお姉ちゃんとの約束もあるしね」
 太一の問いに千早はあっけらかんと答えてきた。
「約束?」
 新と太一の声が重なる。
「お姉ちゃんのお下がりの服以外で外出するべからず。……だからダディベアはかるたの練習と、家の中だけなんだよね」
 残念そうに付け加えられた最後の一言には、新も太一も苦笑い以外返せなかった。
「お互い誉め合って自信付いたところで、ぼちぼち出発するか?」
 太一が腕時計で時間を確かめる。千早と新が頷き返し、三人はゆっくりした足取りで同窓会の場所として知らされたリストランテへ向かう。

 「リストランテって何語やっけ?」
「イタリア語」
 新の問いに太一はクイズ番組並みの速さで答え、千早が目を丸くする。
「太一、すごーい。大学で取ってるの、ドイツ語でしょ?」
「ん、まあ……学部的にドイツ語は必須だしな」
 面映ゆいのか、太一は指先でかるく頬を掻きながら答えた。
「何カ国語も話せるお医者さんって格好いいが? その国からこっち来てる患者さんかって、きっとホッとするやろうなあ。ああこの先生、自分の言葉分かるんや、って」
「言葉が分かる、か……新らしい視点だな」
 外国語と方言という差はあるが、話し言葉で悩んだ経験がある新の言葉には説得力があった。

 「肩持つ訳でないんやけど、あの子らかって最初は多分、転校したてのおれを気遣って喋りかけてきたんやろうとは思うんや。その気持ちには感謝するけど……だんだん逸れてった、っちゅうんかなあ……」
 元々能弁ではない新だが、標準語とは違う言い回しを「ヘンなの」「面白い」と言われていくうちに、口の中で舌が貼り付いたように言葉自体がなかなか出せなくなっていった、と呟く。
「……あいつらが二人、ってのも要因としちゃ大きかったのかもな。どっちかが止めようって思ったとしても、相手気にして言い出しにくいとかで。結果として千早の一言が効いたんだろうけど」
 太一の分析に新もなるほど、と頷く。とは言うものの、違う日付を新にだけ伝えたり、中学時代も含め「かるたなんか」とズケズケ言ってきた事を帳消しに出来る程ではないとも思ったが。

 「私、思ったまま口にしちゃっただけだし……どっちかって言えば欠点って気がする」
 自分の迂闊な一言のせいで、新がクラスでのけ者にされるのを目の当たりにした千早は少し俯いて言葉を紡ぐ。その頭を二つの大きな手がわしわしと撫でてきた。驚いて顔を上げると、新と太一が穏やかに笑いかけているのが見える。
「千早の率直さは長所やし、あの後すぐゴメンって言うてくれたやろ? ほやで、全然気にしてえん。何べんもそう言うたと思うんやけど」
 自分の言葉を信じてくれないのか、と新は大袈裟に溜め息を吐いてみせた。
「や、え、えっと! 信じてないとか、そんなんじゃなくて! ……その、何だっけ……、そ、そう自戒!」
「自戒は行動で示してるじゃんか。んな俯くなって」
 ようやく千早の表情が戻る。太一と新は小さく笑い合って撫でていた手を下ろした。

 「あ、店見えてきたぞ。……ほら、あそこの通りんとこ」
 太一が指差す先には、広い舗道に並ぶテーブルが見えた。
「へえ、オープンカフェもあるんだ。今日みたいなお天気だったら、外でお茶するのも悪くないかも」
 千早の言葉に新は笑って同意を示す。
「……さて、試合開始と行くか? イラっと来ても、余裕の笑みで流しちまえ。後はおれらのかるたトークで押し切れるだろうしな」
 太一が二人の顔に視線をやって言う。
「うん。かるたの話やったら一晩中でもいけるざ、おれ」
「あ、私も私もー! 今度本当にやろうよ、夜通しかるたの話!」
 新と千早が太一にまっすぐ視線を向けて言葉を返す。太一も「それも面白そうだ」と笑って言い返した。

 リストランテの扉を太一がゆっくり押し開く。ドアベルの音が耳に心地よかった。
「いらっしゃいませ」
 三人の元にやってきた店員に、同窓会の予約が入っている事を告げると、店員は一番奥のテーブルへと三人を案内してくれた。
「真島じゃんか! 久しぶりー!」
 そのテーブルに座っていた一人が、目立つ容貌の太一に気付いて呼び掛けてきた。
「よう、久しぶり。千早と新も一緒だぜ」
 太一は如才なく答えて空いていた三つの席の一番奥に腰を下ろす。千早を真ん中に挟む格好で新も席に着いた。
「あらた、って綿谷新? ……卒業ん時福井帰ったんだっけ?」
「うん。大学がこっちやで、また越してきたけど。……千早と同じ大学や」
 新も太一からのアドバイス通り、穏やかな表情を崩さず答えた。
「部も一緒だから、毎日一緒にかるた取ってるんだあ。……ねっ?」
 千早の言葉に新も頷く。
「なんか随分垢抜けたってーか……そうやって三人並んでると、芸能人みたいだよな」
 どうやら太一の狙いは見事に的中したらしい。

 「そういや俺、ネットで偶然中継見て驚いたよ。綾瀬出てたし。……クイーン戦って頂上決戦なんだろ?」
 クラスメイトの一人が問うてくる。
「うん。ずっと目標だったから、すっごく嬉しかった。新も同じ日に名人戦出たんだよ?」
 千早が補足すると、彼は「名人戦は見てなかった」と申し訳なさそうに言ってきた。
「や、クイーン戦の方が華があるで、中継かってそっち多く映してるもんの。謝らんくていいよ」
 新は穏やかな笑みのまま彼に答える。
「見なかったんだ? 綿谷くん、格好良かったのに」
 チャンスとばかりに関本茉奈が話に入ってきた。

 「そう言や、関本は中継見たんだっけ。……感想聞いていいか?」
 太一が即座に問いを発した。
「最初凄いびっくりしたよ。けど画面見ると確かに綿谷くんだし。すごーい、って」
 関本茉奈がうっとりした目を新に向けている。
「着物姿も格好良かったし」
「……ふうん。試合の方はどうやった?」
 新はその視線を黙殺するように尋ねてみた。
「し、試合は……早くって、何がどうなってるのか見えないし……かるたの用語なんか、分かんないから……」
 見事に太一の予想通りの答えが返ってくる。
「あ、俺質問あるんだけど、いい?」
 さっきクイーン戦を見たと言っていたクラスメイトが片手を挙げて話に入ってきた。

 「もちろん! どんな事?」
 千早が頷く。関本茉奈が少し顔を歪めたのが視野の端にちらりと映るが、三人とも気付かない素振りを続けた。
「綾瀬の試合の時にさ、『感じ』って言葉が何回か出て来てたけど、聴力とはまた違うもんなのか?」
「そうだね、聴力も含むって方が当たってるかな? そういう説明は新とか太一の方が上手いし、バトンタッチ」
 千早が新の手をぽん、と叩いて説明を交代してと言ってくる。
「ええと、千早が言うた通り耳の良さの事でもあるんやけど、かるたで言う『感じ』は、音の聞き分けって意味合いの方が強いかもの。……例えば『つきみれば』と『つくばねの』、どっちも『つ』で始まる歌やけど、千早はその『感じ』が抜群に良いで、最初の『つ』でどっちの札なんか判別出来てまうんや」
「それって、練習でどうにかなる物?」
 新の説明が終わると、彼は真面目に問いを重ねてきた。今度は太一がそれに答える。
「ある程度はな。それに試合に勝つには『感じ』の良さだけじゃダメって面もあるぜ、かるたは。確かに新は『感じ』じゃ千早に負けるだろうけど、試合運びの巧みさとか、武器の多さとか、そういう面は新の方が何枚も上手だ。そこはやっぱり、キャリア……っていうか、練習に懸けてきた時間の差、なんだろうな」
 もし興味があるなら、自分達が練習している白波会に見学に来るといい、と太一は話を締めくくった。






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written by Hiiro Makishima