Remorse 7
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「……何やろ、表騒がしいの」 野暮用で家を出ようとした由宇の耳に、何人かの子供が騒いでいる声が届く。どうせ出るついでだからと、その様子を伺う事にした。 「ほえー、すげー」 「モデルさんみたいやー」 新の家のブロック塀から玄関先を覗き、小学生達が騒いでいたらしい。由宇も彼らの視線を目で追うと、綿谷家の玄関先でどちらもすらりと背の高い、地元の店ではまず見かけない、お洒落な服を着た少年と少女が何事か言い合っている。 (お客さんやろか。……確か今、新んち留守やったっけ……) 用件だけ聞いておいて、新がバイトから戻ったら伝えた方がいいだろうかと、由宇は二人に声を掛ける事にした。 「……どうかしましたか? 私、隣の家の者ですけど……」 由宇の呼び掛けに二人が同時に振り返る。 (うわー……美男美女ってこういう人らの事言うんやろなぁ……) 少年の容姿も雑誌記事で良く見るアイドルのように整っているが、隣に立つ髪の長い少女は美しさもさることながら、手足がすらりと長く、一体何頭身なんだろうと思わずにいられない。 「あのっ、私達……新に会いに来たんですけど」 少女の方が大きな目を瞠らせて口を開いた。彼女の口から出た名前に、由宇の目も同じように丸くなる。 「新? ……新のお友達?!」 「そう! 新が東京にいた時の……」 少年の方は、由宇との話をその少女に任せたのか、無言で小さく会釈だけを返してくるが、少女は勢いのある声で自分達は新が東京に転校していた小学校時代の友人だと告げてきた。 (……新が言ってた『東京の友達』って、この人らやったんか……) 新なら日曜は駅前の本屋でバイトだと由宇が答えると、二人は歩いて今来た道を引き返そうと相談を始める。 「私、千早。ありがとうね、教えてくれて」 ちはや、と名乗った少女は深々と頭を下げて綿谷家を後にした。その後ろ姿を眺めながら、由宇は以前、新が目をキラキラさせながら言っていた、彼らについての話を思い出す。 「ちはやさん、やったか。あの子が東京で最初に仲良くなった子で、男の子の方はさっき『たいち』って呼ばれてたで、転校してすぐの頃は新の事いじめてた子か。……先に話聞いてたでかの、せっかくのルックスも勿体ないって思ってまうのぉ」 しかしその後仲良くなった二人と一緒にかるたが出来たと新は言っていた。 「……かるた……? 会うたはいいけど、かるたの話んなったりして新大丈夫やろか……? ここしばらく、また様子おかしかったし……」 由宇は腕時計で時間を確かめる。じきに新のバイトは終わって帰ってくる筈の時間になっていた。 「ほや、そう言えば新、あの人らには『誉めて欲しい訳じゃねえで』とかって、綿谷先生の事とか知らせてえんかった筈や。……あんな大変やった新の事、全然知らん筈や。……知らんまんま、新にかるたしよう、とか言うたら……また新、塞ぎ込んでまうかも知れん……」 祖父の介護があった頃の新も疲れが顔に滲み出ていて見るのが辛かったが、その祖父を亡くした後の抜け殻のような新の姿は、長い付き合いのある由宇でさえ、かける言葉が見あたらなかった程だった。 お節介と言われても自分が間に入る事で、新がこれ以上傷つかずに済むならその方がマシだと思える。野暮用はまた今度にしよう、と決めて由宇は自分の家で新が帰宅するのを待つことにした。 芦野家の呼び鈴が押され、じりじりした気分で新を待っていた由宇が急いで玄関に出ると、何があったのかあちこちに泥をこびりつかせた新が立っていた。 「ちょ、どしたんやし、その格好」 「土手でコケただけや。……悪いんやけど由宇、何か着替え貸してやってもらえんか。……おれ今のうちに風呂貸しとくで」 新の肩越しに外を伺うと、さっき綿谷家の玄関先で会ったちはやという少女が新以上に泥だらけの格好で立っているのが見えた。 「分かった、あんたんち持っていけばいいんやの?」 「頼むわ。勝手口開けとくで」 新は頷き、二人を連れて自分の家に入る。 「……私の服でサイズ合うんやろか。まあ何か見繕って早いとこ持ってったげんと」 出来れば二人が新に余計な事を言いそうなら、何とか止めたいと考えながら由宇は部屋の箪笥から、自分には少し大きかったハイネックセーターとデニムスカートを取り出して隣家へ向かった。 「……コタツでも入ってて。……風呂場、こっちや」 太一には居間で待っていてもらい、千早を風呂場に案内すると、台所でヤカンを火にかける新の口から重い溜め息が零れた。 (……会いたかった、か……) 桜並木の土手でひっくり返ったまま、そう繰り返して涙ぐんでいた千早の顔がふと浮かぶ。もう一度腹の底から息を吐ききってから新は居間に戻る。泥だらけになった千早の上着を手にした太一が弱り切った顔をしていたが、新は敢えて何も言わずにおいた。 (とにかく、あの泥だけ何とかして……後はなるべく早く帰ってもらお……) 由宇の家で着替えを頼んだ時も、二人を家に案内した時も、新は終始二人の名前を呼ばずに短い言葉だけで済ませていた。「千早」「太一」と呼んでしまったら、どうしても昔の事を思い出してしまうだろうし、かるたを止めた自分はもう二人の友人ではないのだという気持ちのせいでもあった。 「……新。着られそうな服、脱衣所に置いといたから」 台所に続くガラス戸を細く開いて、由宇が声を掛けてきた。物問いたげな表情を浮かべているが、新にしても二人がこんな所までいきなりやって来ると全く思っておらず、説明のしようがない。太一が土産に持ってきたらしいお菓子を由宇に手渡しているが、新は受け取れとも受け取るなとも言う気になれなかった。 「悪いな、由宇」 ちょうど台所でヤカンが甲高い音を立てているのが聞こえ、新はそのまま火を止めに向かう。来客用の湯飲みを戸棚から出して用意している間にも、桜並木での出来事が何度も頭をよぎった。 |