POSSLQ 14
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ペンション風の独立した建物だが、ガレージから外に出ず直行できるあたりはやはりラブホテルだからだろう。 「まあ、いいがし。……行こっさ」 後に従い、靴を脱いで中に入る。 「新さっき言ってたけど、同居してる夫婦が……って。……利用する必要ってあるの? 結婚してるのに」 少し疑問に思っていたと問うてくる千早に視線をやって、新はそれに答えた。 「邪魔入らんと二人っきりで居られるやろ?」 「……それはそうだけど」 まだ何となく納得しきれていない顔に、意地悪に言葉を継ぐ。 「見られてるかも、聞かれてるかも……って思いながらやる方が好きなんか? 千早」 いつもあんなに色っぽい声を上げるのに、とも付け足した。 「み……っ?! そんな訳、ないじゃん……えと、だからって事?」 ようやく夫婦でも利用すると言った理由が飲み込めた千早が真っ赤になっている。 「見られてる聞かれてる……を別にするんなら、おれかって一度はそこでしてみたい場所あるけど」 ようやく並んでソファに腰掛けたところで新は言う。 「どこ?」 答える前に千早の身体を抱き寄せて、頬を合わせた。 「……千早の部屋。単なる願望や」 千早がずっと生活してきた部屋は、言ってみれば千早の「過去の時間」でもある。 「こういう事抜きにしても、その部屋の空気に触れてみたいっていうのは、あるな」 「……婚約したんだし、いつでも入ればいいんだよ? ……しないなら」 「それはそれで複雑や……」 くすくす笑う千早の息が頬を撫でて、つい先を急ぎたくなる。その気持ちをぐっと堪えて浴室に湯を張りに向かった。 広々とした浴室を見ていると、ついお決まりの台詞が新の口を吐いて出る。 「……こうやって見ると、今の風呂場の狭さ実感してまうな」 入居したては気にならなかったが、大学祭で千早と取ったデモ試合の頃からそんな風に思う事が増えた。 「けど、もうすぐ卒業だし……色々思ったりしない?」 新の後を付いてきた千早が問い掛けてきた。この四年の間に千早と紡いだ様々な出来事がアパートの部屋にはある。 「それは思うし、大学での時間はあの部屋にしかない。ただ、何て言うんかな……」 それより前に四ヶ月だけ住んだ古いアパートに強い思い入れがあり、今でもそれが自分にとって「強さの源泉」だ。試合前に「帰る」のは、初めて千早とかるたを取ったあの部屋のままかも知れない、と正直に話した。 「私ね? 初めて新からそれ聞いた時、そうだったの? ってもちろん驚いたけど……、それと同時に、あの頃の私が不思議に思ってた事、そうなんだ、そうだったんだ……って胸落ちもした」 静かな声が返ってくる。 「だから新が試合の時に帰るのは、あの部屋でいいと思うんだ。それが新を新にしてるから。……何か変な表現だけど」 言葉を返してきた千早が背中にそっと抱きついてきた。 「……おれを、おれにしてる……。いい、言葉やな」 ありがとう、と新は抱いてくれている手を撫でた。 「お風呂、入ろ?」 どことなく照れ隠しの響きを持った声が背中から掛けられる。 「ほやな」 千早の細い腕をそっと外して向き直り、新は笑んで頷いた。 バスタブの中で取り留めのない話をする。 「今度の部屋。おれが引っ越し終わっても、まだ二週間ほどあるやろ? 四月まで」 千早の出勤時間の方が先だから、それに合わせて生活リズムを作っておこうと提案した。 「うん。……そう言えば、まだ新に三食全部は作った事ないよね」 ネタ切れになったらどうしよう、と千早が言う。その声に冗談めいた響きがあるのは、ネタ切れにする気がないからだろう。 「目玉焼き作って、昼飯が卵焼きで、晩がゆで卵……とかな」 茶化す新の顔に風呂の湯が飛んできた。 「……ごめんって」 わざとらしく膨らませている頬にお詫びのキスを落とすと、許してあげる、と偉そうな声が返ってきた。二人してくつくつと笑い、じゃれ合うようなキスを繰り返す。 「ほやけど本当にネタ切れなっても構わんざ?」 数日程度といった短時日の、しかも期限を切られるような話ではない。 「……なるべく、切れないように頑張る」 今度は深く唇を合わせた。 バスタブの中のキスに千早が甘い声を出すが、やはり湯の中ではお互い頭がぼうっとしてしまう。 「ベッド行こ?」 そう言って浴室を出た二人は大きなベッドに並んで横たわる。お互いその身には何も纏っていない。 「……初めてやな。朝、起きる時間も気にせんと一緒に居られるのって」 雪で電車が止まった時は午前中休講だったが運行再開し次第千早を帰すため、名人戦の準備で泊めた時は慌ただしく、また体調管理も大事だからとむしろ早めに起きた。 「そうだね。……四月になったらまた、起きる時間気にするから……結構貴重な時間?」 「ほんな貴重な時間やったら、無駄に出来んな」 そう言って千早に覆い被さり、さっき途中でやめたキスの続きを始める。 ◇ ◇ ◇ 起きる時間を気にしなくていいと話していたが、習慣になっているせいかそれなり早い時間に新は目を開けた。 (二度寝しよっか……?) そう考えるものの目は覚めきってしまった。まあいいかと枕元に置いた眼鏡を手探りで見つけて掛け、隣でまだ寝息を立てている千早に視線をやる。 「……裸で寝てもたって、初めてか」 独りごちていると千早がもぞもぞと動いて起きる気配を見せた。 「んー……ふぁ、新……?」 「……おれやけど?」 何を不思議がっているのかと思っていると、半分寝ぼけているのか千早が掛け布団を引っ張って独占する。 「まだ眠いんかな」 そのまま寝かせておこうと思って横になる。暖房は入っているが、いきなり布団を剥がされるとやはり肌寒くて新は小さく身震いした。 「……半分、使わせての」 そっと布団を引っ張ると、千早は新に背を向ける格好で掛け布団を抱え込む。その肩が震えているのを見、今度はわざとそうしたと新も気が付いた。 「起きてるんなら遠慮せん。半分、て言うか全部取る」 そう言って比較的隙のある腰の辺りから布団を引っ張り、千早がしていたのと同じに背を向ける。 「あー!」 勢いよく跳ね起きた千早がまた布団を取り返した。 「返しね」 「いーやーだーよー」 子犬がじゃれ合うように掛け布団を取り合っているうちに、顔が向き合う。 「おはよ、新」 「……おはよ」 交わされる朝の挨拶とは裏腹に、引っ張り合いになっていた掛け布団はまた二人の身体を覆い、艶めかしい吐息につれてベッドの下へ滑り落ちた。 |