POSSLQ
|
静かなキスを一度解いて、新は自分の頬を千早の頬にぴったり寄せる。 「……親にちょっとずつ話しておいて、いいか? 結婚前提にしてるとか、千早自身の事とか」 「うん。……名人戦の前までに、どのくらい話せるかなあ、新の事」 「出来る範囲でいいって。最後はおれ自身の努力やから」 合わせていた頬をぎゅっと押しつけて言葉を交わした。 「好きやって言われるのと、愛してると、どっち好き? 千早は」 「……一度ぐらいは言われてみたいとは思うけど……」 二択なのに正解がない、とくすくす笑う。 新は頬を離し、千早の大きな瞳に真正面から視線を合わせる。 「千早。……愛してる」 言い切ると顔を真っ赤にした千早がまた頬をくっつけてきた。 「わ、私も……あ、あい……して、ます……」 千早が上気しているのを密着している頬が感じ取る。 「無理に言わんかっていいって。でも、ありがとう」 その言葉に、密着を解いた千早が新の顔を見つめる。新はそっと手を伸ばして唇を優しく塞いだ。 今度は口付けを少しずつ深くして、長いキスをする。千早が指先で新の服を掴んできた。 「……抱いて、いいか?」 唇をまた離して新は小声で問う。 「うん……」 ほとんど吐息だけで千早も応えた。 「今日だけかも知れんけど、ほんとに優しく抱きたい」 そう告げて押し入れから布団を出し、千早に手を差し伸べる。 「……ありがとう、新」 自分の手を重ねた千早が隣に座ってくれた。 軽く手を引いて新は千早を近付け、唇に小さくキスを落とす。まるで儀式のように千早が着ているものを一枚ずつ丁寧に脱がせていくと、千早が新の服を同じように脱がせてくれた。 「揺れたらごめんな?」 そう告げて背中と膝裏を抱えて一糸纏わぬ千早を抱き上げ、布団の上に羽毛のように下ろす。抱いていた腕を抜いて新は千早の上に覆い被さる。左肘で体重を支え、右の手の平で白い頬を柔らかく包んで千早、と愛おしい名を呼んだ。 「大好きやよ」 静かな声に想いを乗せ、顔を寄せて口付ける。千早の手はそれに応えて新の背中にふわりと回された。少しずつキスを深くして、柔らかく舌を絡め、二人の身体を穏やかに熱くさせていく。 「……ん……、っ……」 合間にこぼれ落ちる二人分の小さな吐息が重なり、新は頬を包んでいた手を静かに外して千早の肩から腕を撫で、手の平を探り当てると優しく指を絡めた。 そう言えば、と新は頭の隅で考えた。 (なかなか休み合わんくて。勝負感覚って言えば聞こえはいいけど……こんな風に優しく抱く事、減ってた気、する……) 肌を合わせた途端、千早を何度も絶頂に押し上げたい気持ちの方に意識が向きすぎていたかも知れない。 (……今、こうやってる千早……すごく、可愛いのに。それかって、おれにしか見せん千早やのに。……がっついてんのは、おれやな……) 繋いだ手に力を込めると、それを喜ぶように千早も新の手を握り返してきて、溢れた愛おしさがそのまま言葉に乗った。 「身体中全部……キスしてあげたい」 千早の肩がぴくりと動く。 「……うん、して」 新の耳に囁き声が届いた。 一度身体を起こして千早の右手を取った。その中指に、貴婦人への挨拶のようなキスを落とす。それから人差し指にうっすら残る手術の後にも。 「なんで、そこから?」 「千早が札はねる指やから」 また身体を倒し、今度は手の甲へ、腕へ、肩へとキスの雨を降らせて移動していく。顔の前まで戻ってきた新の唇は、まるい額や目蓋、高い鼻、そこから頬にと触れる位置を変えてきた。 「ここは、最後の取って置き」 千早の唇を指先で軽く触れて告げ、形のいい耳に唇を優しく寄せる。 「……ああ……」 波間をたゆたうように千早が身を委ねているのが分かる、やわらかい吐息が新の鼓膜に届く。その心地良さでもっと包んであげたいと白い喉を啄み、デコルテに吸い付くと千早の指が新の肩をきゅっと掴んだ。 「新のキス、気持ちいい……」 「うん」 短く答えて形良く盛り上がる胸元を唇で触れる。 「ん……いい……」 はあっ、と喜んでいるのがはっきり分かる息を継いだ千早が肩に添わせていた手で新の髪を撫で、持ち上がった腕が脇に隙間を作る。新は身体をずらしてそこから脇腹へキスをした。 「っ……ふっ! そこ、くすぐったいよ……」 ひく、と脇を締めて千早が笑みながら小さく抗議してきて、新はごめんと呟きながら這わせた唇を細い腰へと下げていく。 「あんっ……、あ……。新、いい……」 今度は間違えようのない艶を帯びた声が紡ぎ出される。千早が手で探り当ててきた左手はそのまま預けて身体の位置をまた少し下げた。 滑らかな腿に口付けると千早の背中がしなやかに反って、膝が頭の方へ持ち上がる。 「……っあ、んっ!」 敏感さが上げさせる、いつもと同じ声につい先を急ぎたくなるが、今日はそうしない、と新は軽く目を閉じて膝へ、ふくらはぎへと唇で降りた。 「どう、しよう……新……」 囁くような声が頭上から降ってくる。 「……どうか、した?」 顔を上げて問うと、その視線の先で千早が顔を赤らめて、それでも新の目を見て言葉を発した。 「キス、されるの……気持ちいいのに……」 普段は千早が何か言い淀んだ時、新は愛撫で箍を外してその続きを答えさせたりもするが、今はただ待つ。 「……いつも通りに、してほしい……とも、思うの……」 けれどそれは優しく抱きたいという新の気持ちを否定しているようで、千早自身どちらを求めていいのか分からない、と迷いが入り混じった声が返ってきた。 千早の足元から身体を起こした新は、寄り添うように再び横になる。 「否定やとか思わんでいいよ。今日は千早の望み通りに、や」 ここ最近、千早の抑制を外して乱れさせる事に夢中だったと、キスの途中に思った事を率直に話した。 「……さっき言ったが? 今日だけかも知れんけど、って。おれが素直なうちに言っとくのがお得やと思うざ?」 少しだけ冗談交じりに言葉を継ぐ。 「スーパーのタイムセールみたいに言うし……。でも、うん。じゃあ……」 千早の指先が唇を示した。 「取って置き。……ちょうだい?」 返事の代わりに身を乗り出して唇を塞ぐ。首を抱いた千早がキスを深くして新の唇に舌で触れてくる。 「んっ……、ふ、ぁ……」 応じると濡れた舌先は新を求めて絡みつく。肌が熱くなっていくのを感じた新もその舌を吸い、自分の方から貪欲に千早を探り出した。 深く唇を合わせたまま、さっきは敢えて刺激しないようにした耳を指先で撫でた。 「……っ!」 首に回されていた千早の腕に力が入り、するりと滑った片手が新の背中を抱く。もう一度指で触れると千早の身体が跳ねてキスが解ける。 「っあ……っ!」 一気に跳ね上がったトーンを鼓膜が拾い、新は少し身体をずらして、声に駆り立てられて乱れ始めた自分の息ごとその耳を唇で噛んだ。 「……千早……」 「それ、ダメ……!」 普段通りに抱くと千早の口からも普段通り、受け取る快感と正反対な言葉が返ってくる。 「いっぱい、感じて? ……千早」 「やぁぁんっ! 耳……、言うの……、あん……っ!」 千早の身体はますます熱を帯び、声に色が混じりだした。 |