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On the other hand 2

菫ちゃん目線の高校選手権



 その日の全試合が終わり、瑞沢のメンバーは毎年利用しているホテルに入る。簡単なミーティングを行うため、荷物をそれぞれの部屋に置いた後男子部員が使う部屋へ集合した。
「まずは団体戦、みんなお疲れさま。明日の個人戦に備えてゆっくり休んでくれ。……筑波達も、偵察サンキューな」
「……あ、真島先輩。その事なんですけど……」
 菫は団体戦の偵察中感じた印象を駒野に話すと言っておいた事を太一にも告げる。
「うん、藤岡東高のチームとしての雰囲気がどうだったか、聞かせてくれるって」
 駒野がうまく口添えしてくれた。

 「メモ自体は駒野先輩にもう渡してあるんですけど、予選敗退で泣いてる所見て、何ていうか……『なんかちょっと違う』って感じたんですよね、私。一年生に一人、結構強い子居たんですけど、その子は負けた事を一度だけ、綿谷さんに謝ってからはすごく悔しそうにしてたのに、他の三人は負けた事もこう……綿谷さんに優しくしてもらえる口実っぽいって言うか」
 勿論菫にも、あれだけの実力を持つ先輩の顔に泥を塗ったと泣く気持ちは分かる。それでも「恋愛体質」と自分で言い切る観察眼が、その泣き方に違和感のようなものを覚えたのだと率直に話した。

 「変な言い方かも知れませんけど、印象として『綿谷新ファンクラブ』みたいだなって」
「……それってさ、おれらが二年に上がった時入部届出してきた一団と似てんじゃねえか? あいつらも基本、真島目当てだったじゃんか」
 菫もその中の一人だったが、かるたや千早への「太一の本気」を知ってなお諦めずに瑞沢かるた部員として自分の役割を果たしている彼女は、当時の入部希望者達とは別と考えていい、と西田が返してきた。
「だとすると、新も大変だな。うちは西田や千早が基礎を教えてたけど、藤岡東は全部あいつ一人でやらなきゃだしな」
 太一は嘆息しながら答える。
「実はおれらも、他校の先生が『あそこは新のワンマンチームだ』って言ってたのは聞いてたんだけど……ファンクラブ、か。……なるほどな」

 「菫ちゃん、ファンクラブみたいって感じた理由って、他にもあった?」
 口を開いた千早に、菫は頷き返した。
「はい。団体戦の試合中ってよくお互いに声掛けするじゃないですか。綿谷さんも『落ち着いて』とか言ってたんですけど、その内容に耳を傾けるって言うよりは、綿谷さんから声を掛けてもらえる事に意識がいってる風って言うか。実際、さっき話した強い子が一勝した時、その子にも綿谷さん声掛けてましたけど、他の子たち自分の試合残ってるのにそっち見てましたし」
 菫の観察眼に千早だけでなく、瑞沢の三年生達は舌を巻く。

 「まあ、藤岡東に関しては今年のデータが来年そのまま使える訳じゃないけどね。綿谷が卒業で抜けるから、チームの雰囲気も変わるだろうし。……一人だけ強かった一年生は明日の個人戦でも要注意なのは間違いないけど。多分、B級だろうから僕とかなちゃんでその子のデータ、もう少し読み込んでおくよ」
 駒野がざっと話を纏める。
「まあ確かに来年はガラっと変わるだろうな。……そろそろ風呂行かねえ? 明日も早えんだしさ」
 西田の一言でミーティングは終了し、男子部員達は連れ立って大浴場に向かった。

 翌日の個人戦C級会場で、何人か見覚えのある顔がある事に菫は気が付いた。去年D級の試合で当たった、千葉情報国際のアンソニー・ソーブもその一人だが、彼は去年団体戦の時にも「普通にかるたを好きになった」とはっきり言っていたため、C級の会場どころかB級に居ても不思議はない、と菫は他に視線を移す。
(あ、個人戦、出る事は出るんだ……)
 昨日偵察で顔を覚えた、藤岡東高の選手二人が居る事に気付き、菫は目立たないようその側に移動した。
「……個人戦やと先輩A級の会場やし、なんか張り合いないわー……」
「また、ほんな事言うて……先輩が格好いいのは確かやけどさ」
 そんな会話が菫の耳に届く。
(……強い先輩が会場別なのって、どこの学校だって同じじゃん。負けたら慰めてもらおうって思って試合出てるって、そんなのすぐバレるって何で分かんないかなあ……)
 菫は内心やや苛立つ。自分も太一が好きでかるたに取り組んできた。もし負けた自分を太一が慰めてくれたら、確かにそれは嬉しいだろうとも思う。
(けど、そういう慰めを求める子を、真島先輩は絶対好きにならない。それも分かってるから私は先輩に泣きつかない)
 試合の席に着き、札を混ぜ始めるまで菫の思索は続いた。

 「……流石に、C級の試合は厳しい……。速さも正確さも、戦略も段違いだ……」
 つい最近規模の小さい大会で入賞してC級に上がったばかりの菫は、残念ながら一回戦で負けてしまった。溜め息を一つ吐くと、次はもっと勝つ、と決めた。先輩達の試合を見に行こうか、と考えていたところに、女子生徒が試合場の扉から勢いよく飛び出してきたのが見えた。
(……さっきの、藤岡東の子じゃん)
 人目も憚らず涙を流し、階段を駆け上がって行く。何となく成り行きが気になって、菫はA級の先輩の試合を見るついでに様子を見る事にした。
「先輩、ごめんなさい……うっく……うぅ……」
 やはりと言うか、階段を上った先には藤岡東の一年生二人と、綿谷新の姿がある。
「……負けたんか。負け自体はしゃあないけど、何で負けたんかは自分で考えんとあかん」
 しゃくり上げる後輩に、新が声を掛けているのが聞こえる。
(綿谷さん、甘いなあ……)
 一年生の真意を知っているからだろうか、千早の事を好きならもっとビシっと断ればいいのに、と菫はつい思ってしまう。
「団体も個人も、先輩の役に立てんくて……」
「やめれや」
 一年生の言葉をぴしゃりと遮る新の声が聞こえ、菫は顔を上げる。昨日、団体戦会場で見た時は泣いている彼女達にどう声を掛けたものか迷っているような所もあった新が、そこまではっきり言い切るとは、という驚きだった。

 「……おれが卒業したらもういい、とか言うんやったら今退部しても一向に構わんし、引き留める気もないでの」
 普段穏和そうな新がここまではっきり言ってくると思っていなかったのだろう、一年生二人はびくりと身を竦めている。
「次の試合あるでもう行くでの。あとは自分らで考えてや」
 言い切った新が太一や千早の方へ歩き去るのが見えた。耳のいい千早が聞こえていない筈はないのに、戻ってきた新には組み合わせが出た事しか告げていない。太一もまた自分の経験から新の気持ちが分かると言い、後はこの次の試合に意識を向けている。
(……綿谷さんも、やっぱり分かってたんだ。そりゃそうだよね……それに真島先輩や綾瀬先輩も……)
 言われた一年生二人の行動は対照的だった。一人はぐっと唇を噛み、拳で不器用に涙を拭うと、先輩の試合を見ようとA級の会場に向かって歩き出し、「個人戦会場が別だから張り合いがない」と言っていたもう一人は膨れっ面を浮かべて一階に下りていく。
(あー、あの子は退部しちゃうかもねえ……)
 そんな事を思いながら菫も浦安の間へと向かった。






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written by Hiiro Makishima