On the other hand 3
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帰りの新幹線の車内では、今年もまた今回の選手権についての話が先輩後輩の区別なく交わされている。 「まあ一番の収穫は綾瀬だろ。何せ今年はどこも故障しなかったんだしな」 「肉まんくん、ひどーい!」 準決勝に残ったのは、瑞沢からは千早のみ、残り三人は大方の予想通り、詩暢と理音、そして新。誰がどう組み合わさっても激戦は必至となるセミファイナルで、千早は今年もまた詩暢との対戦だった。 「そう言えば千早ちゃん、高校選手権の個人戦って毎年若宮さんと当たってるんでしたね」 「……そう言やそうか。クジ運いいんだか悪いんだか。なあ、千早?」 「い、いいもん。クイーン戦で勝つもん!」 話が一段落ついた所で、菫は千早を手招きで呼ぶ。幸い新幹線が空いているので二人は別の座席に腰を下ろした。 「なに、菫ちゃん?」 「あの……夕べ宿で話したファンクラブとかの話。先輩か真島先輩、綿谷さんに話したりしたんですか?」 「うん、言ったよ。太一も他の学校の先生が話してるの聞いてたらしいから、その話と総合して、って感じでだけど」 やはり今日の個人戦で綿谷新が一年生にきっぱりと言い切った裏には二人の存在があったらしい。 「実は私、階段のとこに居たもんで、聞こえちゃったんですよ。個人戦負けた一年生に、綿谷さんがビシっと言ってたとこ」 「そうなんだ? 分かってもらえてそうだった?」 千早の問いに菫は少し考えてから口を開いた。 「一人の子はA級の試合見に行ってましたから、多分綿谷さんの言葉、届いたんじゃないかと思いますけど……もう一人の子は、退部しちゃうんじゃないかなって私には思えました。持ち物なんかも、その子が一番……まあ言ってみれば『綿谷新グッズ』みたいな感じでしたし」 「……グッズ?」 鸚鵡返しに問い返す千早に、菫は頷く。 「綿谷さんの持ち物と同じとか似てるとか、そういう物ばっかり持ってるのが目に付いたんですよ。本人に全然似合ってない男物の時計とか同じ機種の携帯とか。ほら、芸能人のファンなんかがよく、本人と同じ物持ったりするじゃないですか? その人が近くにいるみたいだー、とかって。そういうファン心理なんじゃないかなって思ったんですけど」 「へえ。……かるたはどうだった?」 「昨日もちょっと言いましたけど、かるたに本腰入れてる感じはしなかったって言うか。ぶっちゃけて言うなら、勝ち負けも綿谷さんに近付く手段みたいに見えましたよ」 菫の分析は鋭かった。 「菫ちゃんは、試合に負けても太一とかにそうやって泣きつかないのは凄いって、私思うんだ」 「……そんなの、当たり前です。そんな事して近付いたって、真島先輩が振り向く訳ないですし、仮にお付き合い出来ても『重い女』になるだけじゃないですか? ……私が目指すのは、真島先輩とラブラブになる事ですから」 菫は迷う事なく言い切り、その言い切る強さに千早の顔が紅潮する。 「菫ちゃん、チョー格好いいー!」 そう言って菫にぎゅっと抱きつくと、小柄な菫は千早の腕を外そうと必死に藻掻く。 「やめて下さいってば。私『そんな趣味』ないですってば、もう……」 「あはは、ゴメンね。でもホント、今の菫ちゃんは凄く格好いいよ。……今聞いたファンクラブ関係の話さ、新にもメールで伝えていい?」 「はい、それは全然構いません。……ところで先輩は、返事……したんですか?」 菫はぐっと声を落として聞いた。 「まだ、なんだけど……昨日、団体戦の事とか話した後にね、ちゃんと考えて新が大学入るまでに答え出すから待ってて欲しいとは言ったよ。……新も、それでいいって言ってくれた」 千早は少し赤くなり、俯いて菫に答える。 「そうなんですか。初日にロビーで出くわした時はお二人ともカチコチで、どうなる事かって思いましたけど……先輩達には先輩達のペースがありますもんね。しっかり悩んで、考えてあげて下さいよ」 「……うん」 千早がはっきり頷いたので、菫はその話をそれ以上引っ張る事は止めた。 「……これで、先輩達が五人で試合出来るのはもう、終わっちゃいましたね。……綾瀬先輩はきっと、卒業ギリギリまで部にも顔を出すと思いますけど……他の先輩達は、どうなんでしょうね」 他の、と言ってはいるが菫が気にしているのは太一の事だろう。 「部長の引き継ぎ、するんだよね? 菫ちゃん。……筑波くんへの引き継ぎ、私やかなちゃんがしようか?」 「……そうですね、その時が来たら……」 菫は少しだけ遠い目になって答える。引き継ぎ自体も大事な事だが、それは当然、太一はそれを境にもう部に顔を出さないだろうという事になる。だから直接の引き継ぎがあって欲しい反面、今のままで居たい気持ちもあった。 「まあ、その事はその時に。……先輩達待ってますし、席に戻りましょうよ」 「……そうだね、そうしよっか」 二人が元の席に戻ると、何やってんだよと悪態を吐きながら仲間が二人の分のお弁当を差し出してくれる。菫は礼を言って受け取りながら、窓の外の景色を見るふりをして、多分もう見納めになるだろう、部員としての太一の横顔を眺めていた。 |