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No Regret in Tokyo 4

R18版



 「……邪魔やなあ、このフィルム……」
 外箱に巻かれたフィルムを剥がすと、それが指先にまとわりついてくる。普段の新はそうした包装も丁寧に開けてこまめにゴミ箱に捨てるタイプだが、気が急いている今は、手にへばりついたフィルムさえ邪魔で仕方がない。
「あ……私、捨てるから……」
 新の指先から透明なフィルムを剥がし、千早は腕を伸ばしてそれをゴミ箱に入れた。
「……ごめん、ありがとう」
「ううん。……私もだけど、新も、その……初めて、なんでしょ? ……だから、お互い様って言うか……」
 言っているうちに自分が何を言いたかったのか分からなくなったのか、千早の語尾は小さくなって消える。けれどその言葉は新の気持ちを幾分楽にしてくれた。
「うん。おれ……人に好きやって言(ゆ)ったの自体、初めてやったのに。格好付けようとしたかって、あかんな」
 ようやく苦笑を頬に押し上げて、新は言う。

 「え? ……決定戦の後で言ってくれた、あれが最初?」
 あの時の新はすごく自然に「好き」と口にしていたのはよく覚えている。そう言うと、箱の中の個包装の封を開けようとしていた手を止めて、新は頷いた。
「ほやざ? ……前にメールに書いたかも知れんけど、あん時は自分の中の気持ち、ただ伝えたいって、そんだけやったでやろ。……変かも知らんけど、返事期待するようになってからの方が、何か言うのに緊張する感じや」
 そう答えると新は再び個包装に視線を落として、中身を取り出すと少し身体を千早の視線から隠すように座り直し、すっかり立ち上がった分身に覚束無い手つきでゴムを被せていく。
(当たり前やけど、自分でする時より元気っちゅうか……正直すぎやなあ……)
「……千早、我慢出来んぐらい痛かったら、おれの事殴っても蹴ってでもいいで、ちゃんとそう言うてや? ……おれも初めてやで、加減とか全然分からんし……」
 新にそう言われ、千早は一瞬だけ迷ったような目を見せたが、すぐに正面から視線を合わせてきた。
「うん。もし、我慢出来そうになかったら」
 ほっとしたように新が腕を伸ばして千早を抱き締めてきた。その温もりに包まれて、千早は自分が新を殴る事はないと確信めいた思いを抱く。

 新の腕が身体を支え、千早をそっとベッドに仰向けに寝かせていく。頭が枕の上に落ち、背中から腕を抜いた新が千早の上に覆い被さり、伸ばした脚の間に、引き締まった身体が割って入ってきた。
「新……。もう一度、キス……して?」
 震える唇でそう告げると、眼鏡越しの新の目がふっと笑み、ゆっくり顔が近づく。
「……んっ……」
 新の唇を受け止めながら、千早の両腕は優しく新の首筋に回される。それを喜ぶように口付けが一層深くなり、千早の身体の奥に再び熱が生まれた。
「ん、ぁ……はぁ、っ、……あん……っ」
 キスの合間に漏れる千早の声に色が混ざるのが分かり、新はこれ以上もう待てないとはっきり自覚する。
「千早……いい、か? ……い、入れても……」
 新のこんな余裕のない声を初めて耳にして千早の鼓動も高まる。少し声が震えるが、千早は応じて軽く瞳を閉じた。

 千早が受け入れる姿勢を見せてくれ、新は泣き出したいような気持ちを噛み締めながら、そっと指先で千早のそこを開いて、さっきから解放を待ちわびて逸っている分身をあてがう。反対側の腕を千早の脇に差し込んで彼女がずり上がらないよう固定すると、ゆっくりと腰を進めていった。
「っう、……んっ、……あ、……ぅあ……っ」
 熱い蜜を掻き分けて新の塊が押し入ってくると、千早の喉から細い悲鳴のような声が漏れる。それでも千早は「痛い」とは決して口にせず、眉根を寄せてその痛みごと新を受け入れた。
「……っふ、うぅ……っ、……っ!」
 千早の内側で、何かが突き抜けた感じがしたと同時に、痛みのためだけではない涙が千早の眦から零れてシーツに吸い込まれていった。
「千早……。好きや、千早。……ほんとに、好きや……」
 新の目からも涙が一筋流れ、おとがいを伝って千早の頬にぽつりと落ちる。
「私も、好き……新」
 額に玉のような汗をかきながら、千早は新を見上げて言葉を返してきた。

 ゆっくりと新が動き始めた。初めは抜けてしまわないかと気になってぎこちない動作だったが、徐々にバネを利かせたリズムが整い出す。
「んっ、……あ、んっ、あ、らた……っ」
 少しずつ千早が漏らす声にも、痛み以外のものが混じり出し、新の動きに合わせて細い腰が揺れ始めた。
「ち、はや……っ、中、凄い……気持ち、いい……」
 奥歯を食いしばり、腰を送る合間に新は自分が感じている事を切れ切れに伝える。
「……やぁ……。恥ずかし、から……言わな……っ、んっ、あぁんっ!」
 千早が口にしかけた文句は、新の動きにかき消される。自分の内側で、今まで知らなかった何かがむくりと起き出したような感じがする。その「何か」は千早の中を行き来する新をしっかりと抱え込んで、さらに奥へと引き込もうと千早の内側をぎゅっと引き絞りにかかった。
「や、やだ……っ、何か、わ……たし、ヘンだよ……っ! 新、ぁ……っ!」
 千早の背中が柔らかく撓り、中が一際きつく新を締め付けてきた。
「……おれも、もう……っ」
 新の動きが限界まで早まると、千早の喉からは咽び泣くような悩ましい声が上がる。
「あ、あ……あ、……ダメぇっ!」
「……っく、……っ」
 お互いの身体をきつく抱き締め合って、新と千早は同時に頂点に達した。

 がっくりと脱力した新の身体が千早の上に覆い被さった。少しだけ息苦しさはあるが、のしかかる新の重みさえ嬉しく感じて千早は新の背中にそっと腕を回す。
「あ……ゴメンな。重いやろ……」
「ん、平気……。もうちょっと、こうしてて……いい?」
 新の重みや、短い髪を伝って落ちる汗、合わさった胸に響くお互いの鼓動。確かに新と一つになったという実感を、もうしばらくこのまま感じていたくて千早は聞いた。
「いいけど、おれが上やと、いくら何でも千早が苦しいやろ……入れ替わろっさ」
 新が狭いベッドの上で器用に仰向けになり、千早の頭を胸に乗せた。
「……新。……あらた……」
 身体全体で新に寄り添いながら、千早はその名を何度も囁く。
「ん? ……何や、千早?」
「んーん。呼んでみたかっただけ。……変かな」
 言葉が返ってくるより早く、新の腕が千早の肩をしっかり抱く。
「……少し、こそばゆい感じはするけど、変やとは思わんよ。……って言うか、やっぱ……嬉しい」
「ふふっ。……あーらーた」
「……うん。気ぃ済むまで、呼べばいいざ」
 出鱈目な節を付けて呼ばれる名前に、新は律儀に返事をする。汗が引いて少し肌寒さを感じるまで、そのくすぐったいやり取りは続いた。





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written by Hiiro Makishima