保湿系トライアルセット

No Regret --Nothing to hide --4

R18版



 「あ……えっと、こ、交代しよ?」
 俯き加減に呼び掛ける千早の前に、新は立った。
「その前に、謝らなあかん事あって。……見た方が、早いかの」
 そう言って新はベッドに向かい、調光パネルで部屋の照明を落とす。消していない浴室の明かりが四角い窓から見えた。
「……さっき、明かり落とした時気が付いて。……ほんなつもりでなかったけど……ちょっとだけ、見えつんたで……。謝っとこうって、思ったんや。……ごめん」
 千早の前に戻ってきた新は深く頭を下げた。
「あの……えっと、新。あ、謝ること、ない……よ。わざとじゃないって分かってる。だから、顔……上げて」
「……ありがとう」
 ようやく新は顔を上げ、ほっとした表情に戻る。交代、と千早からもう一度告げられ、新はさっきの千早と同じように、緊張した足取りでバスルームに向かった。

 「……シャワー使ってる時、変わったとこに窓があるなって思ってたけど、マジックミラーだったんだ。……あ」
 新に浴室の中が見えたという事は、部屋の照明を落としたままだと自分にも新の姿が見えてしまうと気付き、千早はベッドの上に膝で這い上がって、大慌てでパネルのつまみを回して部屋を元通り明るくした。ちょうど同じタイミングで扉が開く音が鼓膜に届き、新がバスルームに入ったと分かる。
「焦ったあ……」
 上半身だけなら、男の裸は試合場で目にした事はある。その時は単に控室に入りきれないんだろうとしか思っていなかったし、千早自身が次の試合の事で頭が一杯で、気にした事などなかった。
「……けど、そっか。……そう、なるよね」
 自分が着ているガウンの首を持ち上げて、千早はその中を覗く。着替える時に見える、いつもの自分の身体がそこにあるが、新が浴室から出てきた後、それは彼に全て見られる事になる。そして多分、これから千早も目にするだろう。
「緊張、する。……でも、決めたんだ。新には何も隠さないって。新も私に隠さない、そう言ってくれた。だから……」
 新が浴びているシャワーの水音が聞こえる中、千早はぐっと手を握って心を定めた。
「……新になら……」
 そう呟いた時、バスルームの扉が開く。千早の耳は脱衣所で新がバスタオルを使っているらしい音まで拾ってしまい、鼓動が早まる。しばらくして同じガウンを身に着けた新が部屋に戻ってきた。

 「あ……明かり、戻してたんか。ありがとう」
 照れくさそうに新は礼を述べる。その前に千早はまっすぐ立って視線を合わせた。
「新」
「……なに?」
 さっき言ってくれた事だけど、と千早は目を見たまま言葉を紡ぐ。
「何も、隠さない。……だから、あ、新に、なら……」
 つっかえながら言った時、千早に視線を合わせたままで新がガウンを脱ぎ捨てた。
「千早の前では、ありのままの……おれでいる」
 言葉を引き取った新に力をもらい、千早も震える指で自分が着ていた薄手のガウンの紐を解き、肩からするりと落とす。
「……千早」
 新の腕が伸びて、千早を柔らかく抱き締めた。それに応じるように新の腰にそっと腕を回すと、彼の顔がゆっくり寄せられる。千早は瞳を閉じてその唇を受け止めた。

 腕の中の千早を驚かせないように、新は少しずつ、少しずつ口付けを深くしていった。腰に回された千早の手が新の背中をそっとさすらっているのさえ心地よい。そっと差し伸べた舌に彼女の舌が触れ、背中に回した新の腕につい力が入る。
「……ん、っ……」
 キスの合間にふと漏れる、くぐもった千早の声。頭の中が真っ白になりそうだったが、ネットカフェでした約束を何度も頭の中で繰り返し、新は必死に自分を抑えた。
「きゃっ!」
 不意に千早が体勢を崩し、小さな悲鳴を上げる。
「だ、大丈夫か?」
 片腕で身体を支えながら聞くと、急に膝の力が抜けた、と千早が答えてきた。
「怪我するとあかんし……よいしょ、っと」
 千早を支えていた腕を背中に回し、もう片腕は膝を裏から支えて、横抱きにした千早をベッドの上にそっと降ろす。
「お、大袈裟だよ……新」
「……約束したがし。優しくするって」
 照れたような千早を遮って新は言葉を返し、寄り添うように自分も横になった。

 「……さっきちょっと考えてたんやけどさ」
 並んで横になったまま、新は口を開く。千早の目が瞬いて、話の続きを促した。
「優しく、っていうのは本音や。……ただ、おれも初めてやで、基準が分からんくて。優しくしてるつもりでも、千早にとっては違うって事もあるかも知れん。ほやから、痛かったり、辛かったら……教えてな」
 心底真面目に告げているのは目を見れば分かる。だから千早は迷わず頷く。それを見て新は千早の上に覆い被さった。
「ありがと、千早。……大好きや」
「私も、だよ……新」
 三度目のキスを受けた千早の手が持ち上がり、新の首を優しく抱く。一瞬だけ新の身体がぴくり、と動いたが次の瞬間、唇が耳元に寄せられた。耳を撫でる新の吐息に今度は千早の身体が跳ねる。
「あっ、……んっ!」
 千早の唇から紡がれる、今まで聞いた事のない艶めかしいその声に駆り立てられて、新はもう一度千早の耳にキスを落とした。

 「……っ!」
 さっきよりはっきりと、千早の身体が撓るのが分かる。何も隠さないと告げた通り、正直に反応を返す千早が愛おしくてたまらない。
「千早……好きや、千早……」
 心に浮かぶままを口にする。それさえも千早には愛撫と同じなのか、吐息に熱が混じりだした。
「……新……、さっきの、約束……取り消して、いい?」
「え……?」
 首に回していた手に少しだけ力を入れて、千早は言った。
「新になら、いい。……何、されても……怖く、ないよ」
 健気な一言に新の鼓動が一気に高まる。涙が出そうな程、幸せだ、と千早をきつく抱く。
「……なら、『できるだけ』優しく……するわ」
 言葉を返して新はほっそりした首筋に、キスの雨を降らせた。





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written by Hiiro Makishima