No Regret--Nothing to hide-- 2
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そっと唇が重なると、千早の肩がぴくりと震える。それでもその片手は新の手を探り当てて指を絡ませてきた。 (……!) それに力を得て新はキスを深くする。きゅっと力が入った手、髪の香り、柔らかな唇の感触に頭の中がちりちりと焦げ付いてどうにも出来ない。熱に浮かされるように新は舌を差し入れてみる。 「……、っ……」 小さく漏れる、くぐもった千早の声が新の理性を吹き飛ばしそうになり、ひどく勿体なかったが一度唇を離した。 「あ……えっと、新……?」 千早が不安げな目で新を伺っている。初めて知り合った時から、まっすぐに自分を見てくれる瞳には素直に答えたいとやはり思い、意を決して新は千早にだけ聞こえる小さな声を喉から絞り出すように告げた。 「嫌やったら、絶対やめる。……ほやけど、おれ……千早が、欲しい。全部」 今キスをしたばかりから、言われた意味は千早にも伝わる。 「嫌じゃ、ないん、だけど……んと、えっとその……こ、ここで……?」 確かにこの部屋は寝っ転がれるだけの広さはあるけれど、こうしたネットカフェにはきっと防犯カメラがあるだろう。それを途切れ途切れに新に告げた。 「どっか場所、移動して……って……意味や、けど……」 自分も行った事がないし、問い掛ける事自体ひどく恥ずかしい、と新は小声で言葉を継ぎ、まだ繋いでいた手に力を込めて再び続きを話す。 「恥ずかしいのも、本音やけど……千早が欲しいって気持ちの方が大きい。……それもやっぱり、本当の事なんや」 耳まで赤くしているが、新の視線はちゃんと千早に向いている。眼鏡越しのその瞳が本気だと告げていて、千早はその目に背中を押してもらい、新に目を向けたまま小さく答えを返した。 「……うん」 「えっと、ありがとう……千早」 ほっとした表情で新がまた繋ぐ手に優しく力を込めてきた。 パソコンから取り出したDVDを千早が自分の鞄に仕舞っていると、横に座っている新は腕を組んで何事か考えているようだった。 「あの、新? どうか、したの?」 さっきの話のせいで、千早の口調も詰まり気味になっている。 「え? ああ、いや……どこら辺にあるんかなーって。……おれ地元でないでさ」 場所を変えようという提案に千早は頷いてくれたが、やはり「そういう」単語を口にするのは恥ずかしかった。 「……検索、する?」 確かに今居るのはネットカフェだ。だが一体何と入力して探せばいいのか、新には全く思い付かない。と、千早の指が素早くキーを叩いた。 「ほんな言葉……千早、何で知ってたんや?」 小声で訊くと、以前、姉が出たドラマの台本をぱらぱらと見ていた時、誰かの台詞にそれが書いてあって、つい千歳に意味を問うてしまったと千早は苦笑混じりに話す。 「……お姉ちゃんに、すっごく怒られちゃったけど。彼氏も居ないのに、なに無駄知識付けてんのよー、とかって」 千早がそれを姉に聞いた時点では、確かに彼氏は「居なかった」のだから、千歳の言葉も間違ってはいなかったのだが。 「なるほどの。……って、ようけ出てきたなあ。少し絞り込もっか」 今度は新がネットカフェがある住所をその言葉の後に付け足した。ある程度数は減ったものの、そこからどう行き先を決めていいのかを迷う。 「んと……近くにいくつかあるみたいやし……歩いて、決めて……いいか?」 「え? あ、……えっと、うん……」 (……なんちゅう会話してるんや、おれら……) 顔から火が出そうだが、千早は恥ずかしいのを堪えて答えてくれたのだから、逡巡する所を見せないでいようと新は決心した。 「……出よっか」 そう言った時、千早が新の服を軽く引いた。振り向くと、恥じらいながらもちゃんと自分を見ている強い視線にぶつかる。 「ひとつだけ……約束してくれる?」 「……どんな事?」 一瞬千早が目を伏せたが、また新の顔に視線を戻した。 「経験、ないから……優しく、してくれる……かな」 さっき千早に問うた時から、そのつもりだった新の肩がふっと軽くなる。 「約束する」 だからきっぱりと言い切った。 ネットカフェを後にして、並んで二人は適当に歩いていく。 「……何か今更なんやけど。……肩、いいか?」 「うん。……確かに今更感満載だね」 照れたように千早は笑い、一歩新の方に近付く。新も同じ表情を返しながら、千早の肩をそっと抱いた。 「さっき、約束した事やけど。……おれかって、経験なんか全然ない。ほやけど……欲しい、って言い出したのはおれやから。約束守るって事も、今……約束するわ」 肩を抱いた腕に少しだけ力を入れて、新は言う。 「うん、ありがとう、新……」 それだけを口にして、千早は新の腰に優しく腕を回す。初めてだらけで心臓の音がひどく五月蠅いが、新はちゃんと約束してくれた。だから早まった鼓動を気付かれてもいいと自然に思えた。 「……おれも、心臓バクバクいってる」 やはり新は気付いていたらしい。 「けど、これが……こんなんが、おれや。千早には、なんも隠さんとく。幻滅させるかも知らんけど、ありのままを知ってて欲しいんや。全部」 「新……。あら、た……」 千早の目に涙が溢れる。心が痛いほど震えてどうにもならない。胸の裡から沸き上がるままを、千早は言葉に乗せた。 「一緒に、かるたしよっさ」 言いつけない、新の言葉を千早は使ってみた。自分にとって一番幸せな一言だったから。 「うん」 短く頷いたはずの新が、何故か突然クスリと笑う。 「……千早、福井弁下手すぎや」 「酷っ! 新ひっど!」 むくれる顔に新はもう一度笑いかけた。今度は包み込むような、優しい笑顔で。指先で千早の涙を拭い、静かな口調で返してきた。 「ほやけど……一緒にかるた、しよ。……ずうっと」 「うん。ずっとずっと」 寄り添いながら新と千早は歩き、裏路地へと向かった。 |