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No Regret side-T 3

Another:太一side



 短くメール着信を告げる携帯画面を見て、新ははっと息を飲み表情を引き締めた。
『試合がしたい』
 太一からのメールの件名には、それだけが書かれている。急いで本文を開き、目を通す。
『お前に言われた事、色々考えてる所だ。
 けど、お前や千早との友達付き合いも含めて、まだ自分の中でどうしたいのか決められない。
 それで、眼鏡を掛けた万全の状態の新と試合が出来たらと思ってる。
 勿論、南雲会の先生と原田先生から許可を貰えたらの話だし、おれが勝手に思ってる事だけど、受けてくれたら嬉しい』
「太一と、試合……」
 メールには出来れば名人戦と同じ最大五試合の形式で取りたい、場所については客観的に見て一番移動に苦労がない太一が福井まで行くと記されていた。
(……ほうなると、南雲会の道場で取るしかないけど……、おれも一度東京に行こうって思ってたとこやしなあ……)
 新はメール返信機能を呼び出して文章を入力し始めた。

 『試合の事は、明日の練習日に栗山先生に聞いてみるな。
 おれも、春休みに一度東京に行こうかと思ってた所やから、そっちで取るんでも問題はないけど、太一の希望に合わせる。
 先生から返事貰い次第、メールするわ。 新』
 新の返信には太一から『サンキュ』とだけ記された返事が届いた。
「……わざわざ『眼鏡を掛けた』って書いてきてるって事は、太一なりに昔の事へのケジメなんやろうな。この先どうするか分からんけど、後悔せんように全力で取りたいって、そう思ったんやろ? 太一」
 自分も心のどこかで太一の実力を侮っていたと西日本予選で気付かされた事もあり、この試合だけは栗山先生に無理を言ってでも実現させたいと思う。相手を甘く見ず、自分の持てる力全てで太一と戦う。それが友人への礼儀だ。
(おれにとって不利なんは、太一の試合を直接見たのが吉野会大会の二試合だけしかないって事や。……守りが上手い事とか、記憶力が凄い事は分かってるけど、試合運びとか細かい情報がほとんどない。……村尾さんに聞いてみんとあかんな……)
 ともあれ、全ては明日話してみての事だ、と新は日課の素振りに取りかかった。

 翌日の夜、太一が自室で受験用の問題集を解いていると、机の上に置いておいたスマートフォンが振動して着信を告げてきた。電話を手に取ると、思った通り新から昨日の話についてのメールが届いている。
『太一へ
 栗山先生にオーケー貰えた。他の人の練習もあるで、いつもの練習日(火・木・日)は道場使えんけど他の日なら構わんそうや。
 読みはうちの会の人でいいんか?
 学校行事もあるやろうし、太一が動きやすい日を知らせてくれれば宿とか(泊まりやろ?)にも連絡しておける筈や。
 千早には話すんか? ……おれもまだ、詳しい事決まってないし何も言ってないけど。 新』
 最後の一行を読んで、太一はしばらく考える。
(確かにこの試合申し込んだ意味を考えると、千早にも立ち会う権利はあるよな。……だけど、二人を目の前にして、おれは平静でいられるのか……? いや、でも新は何度も、千早が見てる前で戦ってる……)
「……あれ、けど千早に言うとしてもよ、あいつ旅費どうすんだ?」
 前に福井まで行った時も、姉から旅費を借りていた筈だ。泊まりとなればさらに金額が嵩むだろう。太一は返信機能を呼び出した。
『試合の事、ありがとうな。日程はまた改めて連絡入れる。……で、千早に話すかどうかだけど、お前に任せる。っつか泊まりがけでの旅費捻出出来るのかって根本的な問題もあるし』
 諦めないと言いはしたが、さすがに今現在他人の、それも新の彼女である千早の旅費を負担する義理は太一にはない。千早を呼ぶならそこは新が何とかするべき問題だろう、と太一は返信を送った。

 太一から届いた短い返信を見て、新も思わず片手で顔を覆う。
「あー……言われればそうやなあ。おれから切符送るか何かせんと、千早にえらい負担や。……ほうなると春休み東京行くの諦めんとあかんくなるか。どうするかの」
 それに、千早の宿も確保するとすれば、予約の手間を考えれば太一と同じ宿になるだろう。別部屋にすると分かっていても、まだ電話でお互いの気持ちを伝え合っただけという段階でそれは面白くない。
「……しゃあない。その辺も正直に話してどうするか決めよ……。おれも大概独占欲強いんやなあ……」
 新はがしがしと頭を掻いて、千早に宛てて太一と試合をするというメールを打ち込んでいった。





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written by Hiiro Makishima