No Regret another side 7
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「……もしもし、新? 今って、ちょっと話長くなっても平気?」 夜、今日の放課後に奏や菫と話した事を伝えておこうと新の携帯に電話を入れた。 『ん、別に大丈夫や。千早がほんな言い方するって事は、何か大事な話やろし。……昼間言うてた事やろか?』 自分も気になっていたと答える新に、千早は今日の帰りに奏の所で話した内容をざっと話す。 「……でね、積極的に公表しないのはみんなオッケーだったんだけど、部室とかで太一がそれとなく気付くようにしたらどうかっていう話が出てね。……かるた部に入部した時から、菫ちゃんずっと太一の事好きだったし、太一に自分を見てもらえるようにって、かるた頑張ってきたから」 千早は今日聞いた菫の言葉をなるべくそのまま新に伝えた。 「太一の気持ちが粉々になって欲しい自分と、太一が傷ついて欲しくない自分、か。……相手が受けるショックがどの程度か予想付く事やったら、どっちか選ぶ事も出来るんやろうけど……おれらの事聞いた太一がどうなるんか分からんで選べんのやの」 『そうだね。……私達だって、部活引退するまでって言ったのも、太一の反応が予測できないからだもんね……』 受話器の向こうで千早が溜め息を吐く。 「反応もやけど、その……ええと、すみれちゃん、やったっけ? その子が太一の事をフォローしきれるかどうかも分からんでやな。……あいつ、努力する所さえ見せたがらんプライドの持ち主やし、安易な慰めとか嫌がるかも知れんしなあ」 『そうだよねえ。昔だって大会勝ちたいからって百人一首暗記カードまで作ってたのに、そういうのカッコ悪いとか何とか言ってたし。……バレてるんだから素直に頑張ればいいのに』 千早が苦笑いとともに言ってきたそれは、新も初耳の事だった。 「昔って、それ小学校の大会ん時の話か? ……そう言うたら太一のお母さんって何でも勝たんと怒るんやったっけの」 『そうそう。ミセス・プレッシャー』 千早にとっては懐かしい思い出なのだろうが、あの大会には太一と新の間で賭けていた事があった。新はかるた大会で相手に一枚も取らせない事、そして太一は新が一枚でも相手に取られたら、新を卒業まで仲間はずれにする事。 (まあ酷い話やけど、勝つための努力をするための目標やったんやろ。……ほんでもヤバそうやったで、あんな事しつんたんやろうけど……) もしかしたら太一は、自分に卑怯者と呼ばれた事をまだ引きずっているのかも知れない、そんな気がした。 「千早。何やったら、おれから太一に直接話すざ。……おれらの事もやけど、他にも色々」 現状自分一人が離れて福井に居るため仕方ない部分もあるが、当事者でありながら矢面に立っていないのも事実だった。そして今、千早と話していて漠然と思った事だが、裏山に太一と一緒に千早を捜しに行ってそのまま友達になった経緯のために、眼鏡の一件を太一との間できちんと清算しないままだった分、今彼の気持ちを測りかねているのではないかという気がしていた。 『……え? でも、時期が……』 「分かってる。ほやけど千早らにばっか負担掛けてて、何が彼氏やって話やし。……男同士話す方が太一も気は楽かも知れんしさ」 考えてみればそれが一番なのではないかという気がする。確かにいきなり自分と千早が交際を始めたと聞かされれば太一でなくともショックだろうが、その大きさは「誰から聞かされるか」にもよるのではないか。 「話す時期は出来るだけおれも考えるけど、おれら昼間、決めたが? おれらの事知った太一が、友達止めるって決めたとしても受け入れるって。欲言えば太一とも友達で居たい。ほやけどもし、どっちかしか選べんのやったらもう、おれの答えは決まってもてる」 『───うん、私もそれは同じ。自分で決めた事だから』 千早の声にも決意がこもっている。千早が揺るがないなら自分はいくらでも盾になる。新の中にそんな想いが生まれていた。 「……ねえ新。他にも色々って……何か他にも大事な話あるって事?」 『え、あ……うん、まあ。……ただ、その話だけは絶対、先に太一と話さんとあかん事なんや。……ごめん』 不意に新の口が重くなったように千早には感じられる。もしかしたら自分の知らない所で二人の間に何かあったのだろうかと思うが、話せる時が来たら、新なら話してくれるだろうと考える事にした。 「あ、ううん私こそ、ごめんね。変な事聞いて」 『いや、おれこそゴメンな。……お詫びって言うたら何やけど、それ以外の事やったら正直に答えるでさ』 そう言われて千早は少し考えを巡らせてみる。 「んー……っと、そうだなあ……春休みとか、新は何するのかなあ……とか?」 『春休みか? あー……日曜は本屋のバイトやろのぉ。……稼いどかんと大会の参加費もやけど、会いに行けんくなるし』 「会いにって……私、に?」 『今の話の流れで、他に誰が居るんやし……』 受話器の向こうで盛大に溜め息を吐かれ、千早の耳が熱くなる。 「ご、ごめん。……でも、高校選手権まで待たないと会えないかなって思ってたから、すごく嬉しい」 ストレートな感情表現に、今度は新の耳がかあっと赤くなった。 「ええっと……あ、選手権で思い出した。……瑞沢の部作った時の事、教えてもらいたかったんや。前にちょっとだけ太一にも聞いたんやけど、太一からは『千早の強引さがほぼ全てでコツとかはない』って言われたで、無理かなあって思ったんや。うちの学校で部作るの」 『えー?! 強引さって酷くない? ……肉まんくんが同じ高校なの見つけてきたのって太一なのにー!』 受話器越しに千早はぷりぷり怒っている。目を閉じると膨れっ面が目に見えるようで、新はふっと笑んだ。 「……ほんなら、肉……西田くんが三人目やったんか?」 『ううん、肉まんくんは四人目。その前にかなちゃんが入部してくれたから。かなちゃんは元から和歌とか古典が好きで、袴を着るならって事でオーケーしてくれた。あと、かなちゃんちのお店のカタログモデルもしたけど。呉服屋さんなんだ』 「あ、ほやで試合ん時袴なんか。……え、ほやけど今年の高校選手権はジャージやったよなあ?」 勧学館で顔を合わせた時、綺麗な水色のチームTシャツを着ていた記憶はまだ新しい。 『あ、うん……ほら、私一度倒れちゃったから……』 それを聞いて新の膝に縋り付いて大泣きしていた姿が脳裏に蘇る。新は素直に失言を詫びた。それからしばらく、創部時の話を千早から聞かせてもらい、その日の話はそこで終わった。 「……太一に話するとして、都合聞いておかんとなあ。太一忙しいやろうし……とりあえずメールで予定だけ聞いてみるか」 新は太一のアドレスを呼び出してメールを入力し始めた。 『太一、予備校とかない日ってある? 時間ある時にちょっと話しときたい事があるんで』 かなり簡潔な文章だが、詳しい事はメールではなくちゃんと話すべきだと思い、そのまま送信した。 (……あとは、太一の返事を待つしかないか。……最悪、それが友達としての太一と話す最後になるかも知れんけど、おれも千早も、もう心は決めつんたんや。引き返す事もせんし、後悔もしてえん) そこから先どうなるかは神のみぞ知るだが、太一の決断がどうあれ、そのまま受け入れようと新は再度決意を固めた。 |