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No Regret another side 4

電話編



 「もしもし、新っ?!」
 昼休み開始のチャイムから十五分ほど経ち、人があまり通らない廊下の隅に陣取った千早は、鳴り出した携帯電話をワンコール待たない早さで取る。
『早っ。……今、こっち呼び出し音全然聞こえんかったざ』
 驚きと苦笑が入り混じった新の声に、千早は「だって昼休み時間は限られてるから」と勢いごんで答えた。
『まあ確かにそうやな。朝のメールに書いたった事やけど、おれは自然の成り行きに任せるのがいいんでないかって思うんや』
 そう思うに至った理由を千早が聞くと、新は「自分だったらどうだっただろうと考えた」と言葉を返してきた。
『携帯持ったばっかりの頃に、おれ太一に言うた事あるんや。……離れてるで、太一と千早が付き合ってても分からん、って。……もしほうやったら、おれが太一を飛ばして千早に番号教えるって何かアカン気したんや』
 実際は太一も「自分で千早に教えていけ」とメモを突き返してきたが、千早は千早で部の仲間らしい女の子に怒られて学校に連れ戻され、新も南雲会の人達と一緒にすぐ発たなければならず、結局新の番号とアドレスは東西予選の後太一から千早に伝わった。

 『その頃のおれやったら、千早と付き合ってるって太一から聞いたら、ほうなんや、って思うだけやったかも知れんけど……今のおれが聞いたら、やっぱ物凄いショックやし』
「……うん」
『けど聞いてショックやったからっちゅうて、自分の気持ち諦めつくんか……って言われたら、それもノーや。そう考えてたら、結局太一の想いの強さ次第やってとこに行き着いてまうやろ?』
 だから新は、自分たちの事を隠す訳ではないが、積極的に話す事もしないで自然に任せようと思うともう一度告げた。
「太一の方が気付いたら?」
『聞いてきたら、正直に答える。……その後どうするんかは太一が決める事やで、おれらには何も言えん』
「うん。そしてもしも、私たちと友達で居るのがもう無理だって思ったとしても、それは責められない事だよね」
 その事はたとえ話として奏が「お泊まり会」でも話していてくれた。

 気にしていた事に一応の答えが出た事で、千早はがらりと話題を変えてきた。
「ところでさ、何で昼休みに掛けようって思ったの? 新はさ」
『あー……はは。や、まあ……うちの学校の雰囲気とか、ちょっとは千早に聞こえるんでないかなあって思って』
 そして同時に瑞沢高校の雰囲気も新に届く。千早は耳を澄ませて、受話器越しに聞こえる藤岡東高の物音を拾ってみた。
「放課後だと、もっと色んな音があるんだろうね」
『ほうやろなあ。……おれは今んとこ自分の部がないで、そんなに聞いてえんのやけど』
 高校選手権個人戦優勝の報告があった全校集会で、団体戦にも出たいと言ってみたがどうにも上手くいかなかった、と新は溜め息混じりに話す。
『何かな、声かけてくれるモンみんな、親が強かったとか兄弟がやってたとか言うてはくれるんやけど、本人はやるって言わんのや……南雲会の入会者は増えたんやけどの。今度、千早らはどうやって人集めたんか、細かく聞かせてもろてもいいやろか』
「もちろん、いいよ! ……あ、でも話長くなっちゃうだろうし、その事は夜にでも改めて話そっか」
 千早が即答すると、受話器の向こうで新がほっと息を吐くのが聞こえる。

 「あれ、ちーちゃん? そんなトコで何してんの」
 廊下の角から顔を出したみちるに呼びかけられ、千早の顔が真っ赤になる。
「ああ、なるほどねー。邪魔しちゃってゴメンねー?」
 すぐに事情を察したみちるは笑いながら手を振って教室へ消えていった。
『……友達?』
「うん。みちるちゃん。……えっとね、みちるちゃんには新の事話してあるんだ。でも黙っててくれるって」
『そうなんや。今もチラっと聞こえとったけど、察するのが上手い人なんやな。千早が何も言うてえんのに、相手おれやって分かったみたいやし』
「そうなの。すっごく面倒見が良くて、クラスでもみんなから頼られてるよ。ホントはね、修学旅行の実行委員のクジ引いたの私だったんだけど、みちるちゃんね『ちーちゃんは大事な試合前でしょ』って私の手からクジ取って自分が引いたよ、って。私に高校選手権の地区予選に集中しろって言ってくれたんだ」

 電話の向こうで千早がみちるという友人を心底誇らしげに語っているのを聞いているうちに、新の口元にも自然に笑みが浮かぶ。
「千早、いい友達いっぱいやの」
『……みちるちゃんはそうだけど、私、そんなに友達いないと思うよ? 中学の時なんて、かるたの事でドン引かれちゃって、みちるちゃんぐらいしか教室で話したり出来る子いなかったし』
 友人が少ないという千早の言葉は新にとって意外に聞こえるものだった。
「ほうなんや。……まあおれも人の事言えんけどの。かるたばっかしで友達ってあんまえん(あまりいない)し。……おいおい、話してくわ」
 新自身、千早に宛てた年賀状には書かなかった事も色々ある。多分、千早もそうだったのだろうという気がした。
『うん。色々聞きたいし、話したい』
 千早の声と同時に、自分の学校とは違うチャイムの音が受話器の向こうから聞こえてきた。
『わ、もう予鈴鳴った』
「……もうほんな時間か。何か話してるとあっちゅう間やなあ。……って、こっちも予鈴や、ほら」
 新が口を閉じると、千早が耳を澄ます気配が何となく伝わる。
『部活立ち上げの事とかもあるし、また夜にでも電話するね』
「うん、待ってるわ。……ほんなら、またの」
 通話を終え、携帯電話をポケットに戻す。ずっと話していたせいで携帯がじわりと暖かい。少し前までは単に機械の熱だとしか思わなかったそれも、今はまるで千早の温もりのようにさえ思える。
(……数日前の自分やったら、気持ち一つで、携帯が熱持った事まで違って思えるとか想像も出来んかったんでないやろか)
 そんな自分の事をふっと笑い、新は急ぎ足で自分の教室へと戻っていった。





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written by Hiiro Makishima