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No Regret another side 3

電話編



 翌日千早は級友の堀川みちるの席へ駆け寄った。
「どうしたの、ちーちゃん」
「みちるちゃん、携帯の無料通話できるものとかって何か知らない?」
 千早の勢いにみちるは少しのけぞり気味になるが、中学からの大事な友達の話だからと姿勢を戻した。
「知ってるけど、相手の携帯キャリアが違うから携帯会社の指定番号無料サービス使えないって意味で合ってる?」
「うん、そう。だからいいもの知ってたら教えて欲しいなって思って」
「だったらコレかな」
 みちるは自分のスマートフォン画面にあるアイコンを指さした。
「これだったら、ガラケーも使えるし通話も無料にできるよ。パケ代は定額にしてあるんでしょ? メールとかの」
 千早が頷くと、じゃあ大丈夫かな、と無料通話が出来るアプリの招待メールを手早く送信した。

 「今登録だけしちゃいなよ。使い方は私教えるからさ」
 みちるに隣で説明を受けながら、千早は自分用のIDを取得し、みちるが練習用に送ってきた短いメッセージに返事を出してみる。
「あ、ショートメールが並ぶ感じなんだ」
「通話の時はこっちね。……ほら」
 そう言ってみちるは自分のスマートフォンから通話機能でコンタクトしてきた。
「ちーちゃん、大体使い方分かった?」
「うん、ありがとう、みちるちゃん」
 後で新にも招待メールを送っておこう、と千早の顔は綻ぶ。

 「ちーちゃんさ、何かあったんでしょ? 今までこんなの興味なかったじゃん。……聞かせてよ」
 そうみちるに言われた途端、千早の顔は見事なまでに真っ赤になった。
「えっと……他の人に言わないでね?」
 そう前置きして、千早は新と知り合った経緯や今までの事、新からの告白につい昨日イエスと答えた事を話した。
「あー、その新くん? の携帯とキャリアが違うから、急にこんな事聞いてきたって訳ね。なるほど。でも、良かったねちーちゃん。……そう言えばさ彼氏の写真とかってないの?」
「かッ……?!」
 みちるの言葉に千早は再び頭から湯気を立てそうな勢いで赤面する。
「しゃ、写真は……持ってないんだ。今までって、会えてもいつもほんのちょっとだったし……」
「もー……じゃあ、こうしよう!」
 みちるは自分のカメラに保存してあった、修学旅行で撮った画像から平安装束を着た千早を写したものと、旅館の部屋で撮ったもの数枚を選び千早の携帯に転送した。
「それ送って、代わりに彼氏の写真送ってもらったら? なかなか会えないんなら、写真とかも大事なんじゃない?」
 千早が「新は推薦入試で一度東京に来るからその時にでも聞いてみる」と言うと、みちるは千早の両肩をがっちり掴んだ。
「何枚あったっていいでしょうがー! 彼氏の写真ならさ。何ならその時、ツーショット撮ってあげようか?」
 その言葉に千早は真面目な表情を浮かべた。

 「みちるちゃんの気持ちは嬉しいけど、今……まだあんまり大っぴらに出来ないんだ。三年生になって、一応部活を引退するまで。……私も多分、夏の高校選手権の後は、クイーン戦一本に集中かなって思ってるし」
(太一が私をどう思ってるか、本当の所は分かんない。……けど、医学部志望の太一は私たちの中で一番先に部活から引退しなくちゃいけない筈だし、それまで……高校選手権が終わるまでは、今まで通りにしていたい……)
「そっか。ごめんね」
 部内の事情や太一の事を考えていた千早に、みちるはあっさりと詫びた。
「勿論ちーちゃんがいいって言うまで、私も黙ってるからさ。安心してね」
「ありがとう、みちるちゃん!」
 みちるに抱きついて礼を言ってから千早は自分の席に戻り、新に宛ててメールを打つ。無料通話のアプリをクラスの友達に教えてもらった事と、そして添付した写真は修学旅行の時撮った物という事、そして太一が部活を引退するまでは、集中を乱したくないから自分たちの事は伏せておく方がいいのかどうか相談したいと書いて送信ボタンを押した。

 ◇ ◇ ◇ 

 藤岡東高の自分の教室に入ろうとした新の携帯がメール着信を知らせてきた。
「……こんな早うに珍しいな。何やろ」
 今までもよく千早からのメールは来ていたが、試合の合間や夜ばかりで、朝のこんな時間にメールを送ってきたのは始めてだった。取り敢えず自分の席に着いて携帯を開く。
(へー……通話料金かからんのが、あるんや……後で登録しとこ。千早、色々気ぃ遣こてくれてるんやなあ)
「って、まだ続きあったんか」
 新はメール画面をスクロールさせる。
『一緒に送った写真、修学旅行の時に平安装束着てみた時のものだよ。一番仲良しのみちるちゃんが修学旅行の実行委員で、一緒の思い出作りに時雨殿を自由時間の見学コースにしてくれたんだ。……もし良かったら、新の写真も送って欲しいなあ』
(おれの写真って……そう言うたら、おれ一度も千早にそんなの送った事なかったんやな。……写真苦手やけど、何かいいのあったら送ろっかの……)
 そんな事を考えながら添付された画像を開く。
「へー……」
 千早が着ているのは男性の装束だが、背が高い千早には良く似合っている。
(……十二単とか着ても綺麗なんやろなぁ……あ、ヤバ。今学校やって忘れるとこやった……)
 思わず口元が笑いそうになり、新は慌てて画像を閉じ、メールの残りに視線を戻す。

 『……太一は医学部受験するから高校選手権終わったら、多分かるた部引退しなきゃいけなくなると思うんだ。それまで受験とかるたの事以外で太一の気持ち乱したりとかしたくないし、私と新の事って黙ってた方がいいのかな。それとも友達なんだから打ち明けちゃった方がいいのかな。新はどう思う?』
 記されていた内容に、新の表情は自然と引き締まる。

 自分が千早へ想いを告げてから色々思い返してみた時、太一もまた同じ思いを持っている事にも新は気付いた。大会で顔を合わせた時には「何言ってんだよ」と否定していたが、あの時は自分も太一も千早に想いを告げておらず、千早との距離は二人とも大差ないと思っていたためなのだろう。
(どう思う、か……。太一にとって、どっちが気持ち的に納得できる事なんかな。黙っとったら友達甲斐がないって思うんかも知らんし、言うたら言うたでショックなのは一緒やろし……)
 自分が太一の立場だったらどう感じるだろうか、と新は携帯を手にしたまま腕組みをして考える。
(……携帯持ったばっかの頃のおれやったら、聞いても多分『ほうなんや』って思ったやろうけど……今やったら、聞かされる事は確かにショックや。……ほやけど、どうやろ。……おれやったら聞いたからって千早の事、諦められるんか?)
 色々考えてみても、結局行き着く先は太一自身の思いの強さ次第だとしか言えなくなる。新は溜め息を吐いて一旦その考え事を頭から押しやった。
「新、じき予鈴やざ? はよ携帯仕舞いねの」
 不意に声を掛けられ、新の肩がぎくりと竦む。幼なじみの芦野由宇が訝しそうな顔で新の席の側に立っていた。
「……な、なんや、由宇か。……脅かすなや……」
「人聞き悪い事言わんといてや。あんたがぼけーっとしてただけやろし? 携帯、没収されても知らんざ」
 口で由宇には勝てないと新は短く息を吐き、昼休みに一度電話する、と手短にメールを返して携帯を制服のポケットに仕舞った。





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written by Hiiro Makishima