Mine Later On
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新と初めて結ばれて数日が経った。あれから特に変わった事は起きてはいないが、練習の帰りなどに手を繋いでいると、千早の胸が高鳴って困惑する瞬間が増えた。 (かるた取ってる時は全然なんともないのに。試合の合間にすぐ側に居ても意識しないのに……) 隣を歩く新をそっと覗き見る限りでは「衝動を抑えていた」という話をした時より落ち着いている、と千早の目には映る。あの日言った通り「おれだけのもんにした」からだろうかと思うが、それなら自分も同じ筈だ。 (……もう私だけのものだ、って新に同じ事言ったんだし……) もっと冷静になれてもおかしくないのに、新とは正反対に落ち着かなさを感じて仕方がない。それが何故なのか分からないまま駅で別れて自宅に戻った。 もうじき姉の千歳が出ている番組が始まるからと、いつものように家族でテレビを見ながら、ここしばらく新の事を変に意識してしまうのは何故だろうと自問を続ける。目当ての番組の前に放送されているのも別の恋愛ドラマだ。見るともなしにそれを眺めていると、画面の向こうで恋人役の二人が「やっと会えた」と抱き合い、口付けを交わしている。 「千早、どうしたの。もうすぐお姉ちゃん出るドラマ始まるわよ」 ドラマのキスシーンを直視できず居間のソファから立ち上がった千早を母が訝しんだ。 「や……あの、か、書かなきゃいけないレポートあったの思い出したから」 そんな口実を設けて階段の方へ向かう。後でお茶でも持って行こうか、という母の言葉をレポートに集中したいからと断って千早は自室に戻る。 部屋のドアをぴったり閉めて、千早は長々と息を吐き出した。 (……分かった気が、する……最近、私が変な理由……) 並んで歩くぐらいなら平気だけれど、繋いだ手の暖かい感触がついあの日の事を連想させてしまうから落ち着かないのだと気付く。 「そう言えば……新、言ってた……」 千早に飛び付かれたりした時、欲求が暴走しないように部屋に戻ったら自分で処理していた、と正直に教えてくれた。 「……私も、そうなのかな……。さっきのドラマのキスシーン。今までは何とも思ってなかったけど……まともに見られなかったのは、新とキス、したのを思い出すから……?」 それどころか両親と一緒に番組を見ている事が気恥ずかしくて、こうして部屋に飛び込んだ程だ。 (何だか私と新がキスしてる所を、お父さんやお母さんに見られてるみたいに思えて……) そこまで家族に隠し事をしたい訳ではないが、自分の軽率な振る舞いが原因で始まり、その後お互いの本音を語り合って、それ以前から淡く望んでいた通り新と結ばれた事は流石に口にできない。 心の中に、また新とキスをしたいという望みがあるのは千早も分かっている。 (それ以上のことも……求めてる、って事……なのかな……私) ふとあの日に言われた事を思い出した。 『千早、そういう事ないんか?』 『……ないよ。そもそも自分でした事ないし』 そう答えた時、新は随分驚いていた。男と女でその辺りは違うものかと呟いた顔が目の前にあるようにさえ感じる。 『千早も欲求不満になったら、する事もあるんかなー、って今ちょっと思った』 新の言うように、自分は欲求不満に陥っているのだろうか。キスだけでなく、新に抱かれたいと。もっと言葉を選ばないなら、また新とセックスがしたいと思っているのだろうか。 『おれも千早が欲しい。……もっともっと、欲しい』 背後から告げられた新の本音。たった今それを耳元で囁かれているように感じた時、千早の胸元に切ない疼きが走った。 (嘘……?! 思い出した、だけで……感じそうに、なってるの……?) 驚きと裏腹に、胸の先端がつんと尖り始めている。 どうにもならないほど新が欲しい、と今度こそはっきり自覚した。 「けど、今は新が……居ない」 こんな夜遅くに部屋を訪ねる訳にもいかず、千早はおそるおそる自分の指先で芯を持ち始めたそこに触れてみる。 「……っ」 じわ、と自分が濡れた。 『……嬉しい。千早が、おれで……感じてくれて。……ほんとに、嬉しい……』 あの日に初めて聞いた、少し掠れたような新の声が身体をさらに疼かせる。ベッドに倒れ込んで新がしたように胸元に触れ、もう一方の手をゆっくり下ろして部屋着のウエストに潜り込ませると、ショーツの上からそこを撫でる。 「……、あらた……」 布地越しでは足りない気がして、ショーツの中に手を入れ、新に触れられた時すごく感じたその粒を直に指で擦り上げた。 「ん……っ……」 小さく自分の身体が跳ねる。けれど直接触っても何か酷くもどかしくて、逆に寂しくなってしまう。 一定の快感は得るものの、それ以上身体が高まってくれない。その理由など考えるまでもなかった。 (新の肌の暖かさも、重みも声も……気持ちも、今は……ないから……) 好きだという気持ちごと、激しく燃え立たせてくれないから、感じ切れない。 「男の人はガス抜きしないと、って教えてくれたけど……」 自分には出来そうにないと思う。 「……新が居なきゃ、無理だよ……。新じゃなきゃ、ダメなんだよ……」 千早の目にじわりと涙が滲んだ。 自分では押し上げられないと考えていると、また新の声を耳元で感じ取る。そうではなく新に話した「声の記憶」が千早の心から沸き上がっているのだと気が付いた。 『帰省でもせん限り、おれ居るがの。したいって言ってくれれば、いつでもするし』 あの時、自分がどう思ったのかをはっきり思い出す。 (私が求めたら、きっと新は応えてくれる。……そう、思ったんだ) 「……新、お願いしても……いい?」 左の薬指に嵌めている、悪戯っぽい顔をした新から「自分のものにした証」と贈られたファッションリングがきらりと光る。それがどことなく新の返事に思え、千早はそれ以上試みる事を止め、指先をティッシュで拭ってベッドに入った。 (新が、おんなじように思っててくれると……いいけど……) 『おれかって千早とする方がいい』 その言葉を信じたい。新の一言に縋り付きたい。そう思いながら目を閉じる。 『……もちろん。いつでも……いくらでも、あげる』 夢の中で新が優しく告げてくれていた。 |