Mine Side-C 10
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「仕返しはちょっと横に置くけど、さっきちょっと、って言うか大分変な事考えた」 「変な? 何やの」 ペットボトル片手に新が尋ねてきた。指に嵌めた指輪を見せて口を開く。 「普段すごい照れやすいのに、すたすたお店に入って周りの視線スルーしてたし、買うのに抵抗少なそうな物いっぱいあったのに、選んだのこれじゃん」 「そこまで変やろか? ていうか千早が言ってんの、変ってほどでもない気するけど」 今のは前置きだと言うと、続きを促してきた。その手にあるのはペットボトルのお茶で、普段の新が飲み物として選ぶものなのだが。 「何かね、目の前にいるのはホントに私が知ってる新なのかなって。実は双子の兄弟でしたー、みたいなオチだったらどうしよう……って考えてた」 気を悪くするかな、と心配になった時、新の肩が震え出す。 「……ふ、双子……?! ははっ、はははっ! まあ、はははっ、確かにすっげえ変やわ。ていうか、何『のくてえ(バカな)』事言うんや、って話やが? あー、もう腹、ひっで痛ぇ……!」 福井弁独特の言い回しを使ってまで大笑いされてしまう。 「双子の兄弟の方で良かったんかし? ……エロい声あんだけ出しといて」 笑いの発作が治まった新に耳打ちで逆襲される。小声とはいえ耳が赤くなるのを止められなかった。 「……もし本当に双子やったかって、おれは嫌やぞ? 相手おれでないとか、抱いたのが千早の双子の姉妹やったとかさ?」 笑いながら言っているが、新の本音だというのはよく分かる。 「うん。だから、ごめん」 素直に謝ると新の大きな手が千早の手を包んでくれて、そろそろ帰ろうと言ってきた。 アパートへの道をまた一緒に歩く中、双子がどうのとは違う、真面目な疑問を千早は口にしてみる。 「新って、所有欲とか独占欲みたいなの、そんな強かったっけ? って」 名札という言い草はともかく「おれのもの」の印として指輪を買ってきた事も含めて、以前と大きく印象が違う気がした。 「……試合の時とかだって私が病院行ったりとかで居なくっても、割とあっさり帰っちゃったりしてたし」 もっとも高熱で倒れたり、指を痛めたり、好きと言われて外で呆けていたりと、不在の理由は自分自身にある事がほとんどだが。 「おれはそう思うけど? 独占欲とかは」 自分の問いより意外な答えが帰ってきて思わず目を瞠る。 「そう見えるのって、多分離れてたでや。……南雲会の人に相乗りさせてもらってたやろ。あんま無理は言われんしさ」 車で七、八時間はかかるからという話で、試合会場での事は納得出来た。 「千早ともっと話したいって思っても、学校ごとの移動やから引き留める訳にいかんし。……多分、独占欲を表に出すだけの時間がなかっただけやろの」 さらりと返される。 「欲って言うんなら、かるたがいい例や。狙ろてる札は絶対取るんや、譲らんって千早かって思うやろ? そういうのも独占欲とかでないか?」 言いたい事は分かるが、それでもやはり違った印象を受ける。そう言葉を返すと新は笑いかけてきた。 「おれの本音、さっき部屋で全部言ったでかもの。……自分で、とかって恥ずかしすぎる話するのに比べたら抵抗ないでさ」 新がそう言うならそれでいいかと思い直すと優しく手を繋いでくれた。千早もその手をそっと握り返して話題を変える。 「……さっきさ、服とか買うから色とか見てくれって話かな、って最初思った」 「ほんならこの次、付き合ってや。千早に見立ててもらうのも、楽しそうやなあ」 女の子が欲しかった母に何度も赤やピンクの服を買われた事への反動か、自分で選ぶと大概モノトーンになる、と笑って教えてくれた。 「私んち姉妹だけど、赤とかピンクってそんなに持ってないかなあ……」 ずっと不思議だった携帯電話の色もそうだったらしく、新は自分の母にそれを教えてやってくれと半ば真顔で頼んできた。伝える事はともかく、服を見立てるのは楽しそうだと思って千早も笑う。 アパートに帰り着き、居間に入って千早はきちんと正座した。今日ここへ来る時に普段そう袖を通さないワンピースを選んだのも、新から注意された「スカートで居る時の無防備さ」を今後気を付けると伝えたかったからだ。 「律儀やなあ。まあ悪い事でないけど」 苦笑気味な一言に、ずっと衝動を抑えていたと新が言っていたと返すと何故か吹き出されてしまう。 「おれの前で、だけやったら構わんよ? もう、今は」 さっき言っていた事と正反対だとその顔を見る。手を伸ばしてきた新が指輪をそっと撫でてきた。 「おれ所有欲とか独占力強いんやろ? ほやで欲しいもんは欲しいって言う。我慢せんだけや」 さっき自分が問うた事を引き合いに出され、軽く握った拳で新の腕をぽかぽかと叩く。片膝に体重を乗せた時、反対の足が何かを蹴ってしまったらしく、本棚の上からサインペンが転がり落ちてワンピースに黒々と染みを作る。 自分の服はともかく、この部屋の畳にインクが染みていやしないかと大慌てで詫びた。 「畳は大丈夫や。ほやけど千早の服汚れてもたか。……水性やで洗えば落ちるけど帰る時目立ちそうやな」 自分のでよければ着替えろと衣装ケースから取り出した服を手渡してくれた。この前は背を向けたままだったが、今日はちゃんと顔を見ていてくれて嬉しい。ありがとう、と言って着替えるために背中を向ける。 「……うえ、まただ……」 さっき着た時も手こずった背中のファスナーがまた着替えの邪魔をする。自分の部屋ですんなり着られたのは単にラッキーなだけだったらしいと溜め息をついた。 「手、貸すわ。引っ掛けるとあかんで、髪だけちょっと押さえてて」 畳から立ち上がったらしい新が小さく笑いながら言ってくれる。言われた通り片手で髪をまとめて持ち上げると、新の手はあっさりファスナーを下げる。 「……新?」 背後の気配が変わった気がして千早はそのまま呼び掛けた。 「ちょっとだけ背中見えるのって、なんか逆に色っぽいんやなあ、って」 (……いきなり、何言い出すの?! ……顔、熱い……、って、え……っ?) うなじに唇が寄せられて、ぞくりとした感覚が身体をまた走ってしまう。 「やっ、ちょ……、さっき、したのに……」 息が乱れそうな中、そう告げるが、新の手が下ろしたファスナーの隙間から潜り込んで腰に回ってきた。 「今言ったがし。我慢せんって。……嫌か?」 (耳元で、言うの……ズルい……!) もう吐息が漏れるのを抑えられない。それでもやっぱり意地悪だ、と辛うじて言葉を返す。 「何が」 (……もうダ、メ……っ、感じ、ちゃう……) 嫌だなんて言えない。もっと欲しいとしか答えられなくなった。 「うん。おれも千早が欲しい。……もっともっと、欲しい」 |