保湿系トライアルセット

Mine Side-C 3

R18版



 強い視線を向け続けている新の口から、それと同じ強さを持った言葉が千早に届く。
「……おれの事まだ怖いんなら無理は言わんし、千早が自分の意志で受け入れてくれたらっていう話やから、嫌いやって思うんなら、もう無理やって思われてるんなら……別れたいって言われても、おれは千早のその気持ちを受け入れる」
 その言葉には新の覚悟がひしひしと感じられ、千早は目線を合わせたまま耳を傾けた。
「おれが気持ち変わってえんのは、さっき言った。それ踏まえて言いたいんや。……おれは千早の心も身体も全部欲しい。おれだけのもんに、したい。……もっとはっきり言ってもいい。おれは、千早だけとセックスしたい。そう思ってる」
 普段あれだけ照れやすい新が、一度も視線を外さずに言い切っている。
(……私がまだ新を怖いならって、受け入れてくれたらって……どうして、そんなに優しく言ってくれるの? 私を自分だけのものにしたい、って……私とだけ、そうしたいって……)
 さっき新は、気持ちは変わっていないと、千早が好きだと言葉をくれた。それが嬉しかった。だからそんな新に応えたいと心から思う。けれどまだ処女だから、この間は堪えてくれた新の挿入に身体がついていくのか本気で分からない。
(恥ずかしいけど、正直に……言おう)
 決意が千早の口を開かせてくれた。

 「……私はまだ、バージンだから……純粋に肉体的な不安はある。だけどそれは、新が怖いっていう事じゃ、なくて……」
 その先を伝える言葉が何一つ思い付かない。
(だから……だから、新に引かれても構わない。……行動で、伝える。……私の、気持ち)
 そう決めて畳から立ち上がる。心臓の音が耳元で鳴っているように喧しい。背中を向けて立った膝が震えている気がする。それでも息を一つ吐いて、まず履いてきたストッキングを外し、思い切って着てきたワンピースのファスナーを引き下ろして袖から腕を抜いた。
「……え? 千早、一体……」
 新の声がどこか狼狽えているように聞こえる。
「上手く、言えなくて。だけど……私を自分だけのものにしたい、新のその言葉に……応えたかったから」
 ちゃんと伝わったか自信はないが、下着姿のまま身体ごと振り向いて新を見た。

 「……怖く、ないんか? おれの、事……」
 千早を窺うように新が問い掛けてくる。
(……まだ好きって言ってくれて。いつもは照れ屋なのに、こんなにはっきり大事なこと言ってくれる……こんなに優しい、大好きな新の事、あの時何で怖いなんて思ったんだろう。……でも、もう今は違う。さっき言ったのが本当の気持ちだよ、新……)
 かぶりを振ると、新が自分と同じように床から立ち、両腕で優しく背中を抱いてくれた。
「千早……。千早、もう、何て言ったらいいんか、分からんぐらいや……。怖くないって言ってくれて、まだ続けてくれるって言ってくれて。……おれの言葉に、応えてくれて……千早、千早……」
 泣きそうにも聞こえる新の声が何度も名前を呼んでくれる。
「……好きや、千早……」
 想いのこもった、その一言が胸に染み込んでいく。その新とこうして抱き合えている、それが本当に幸せだった。

 優しく抱き留められる心地良さの中にいた時、少しだけ緊張しているような声が耳に届いた。
「きっと千早もそうやと思うけど、おれ、キスした事さえない。……そのせいで戸惑わせるかも知れん。無理矢理でないにしても、焦って痛がらせたり怖がらせたりとかがあるかも知れん。……ほんとに、それでいいんか?」
(戸惑わされても、痛くても……いい。怖がる事だけはないから……)
 答えの代わりに新の背中に腕を回す。かるたの時に見慣れていた筈の背中は、自分が思っていたよりずっと広くて暖かい。
「……ありがとう……」
 背中を抱いてくれていた片手がそっと頬を包んでくれたが、どんな顔をしていいか分からない。怖くないけれど、経験がなくて少し恥ずかしいと思っている所に新の顔がそっと近付いて、柔らかな唇が優しく触れてきた。

 唇が離れ、柔らかいんやな、と驚いたような新の声が聞こえる。
「新も、そうだよ……」
 自分の唇で感じた印象をそのまま言葉にして新に返して、照れている新にようやく同じような笑みを見せられた。
「やっぱり千早は、そうやって笑ってる方が……似合う。……嬉しい時は別やけど、……もう、泣かさん」
(……今、泣きそうなんだよ……。そんな風に言ってくれて嬉しいから……泣きそうだよ……)
 でも泣き顔を見せると新はまた心配してしまう。少しだけ背伸びをして新の頬に自分の頬をくっつけて短く応えた。
「抱き締めて、いいか?」
 聞かなくていいのにと千早は思いながらそのままの体勢で頷く。想像していたより新の肌は滑らかな事に少しだけ驚き、何を場違いな事を考えているのかと苦笑したくなる。そんな自分の背中を新の両腕が力強く抱き寄せてくれ、ぴったり合わさった胸に鼓動が響く。
(新の心臓の、音? それとも私? ううん、今こうしていられるのが、すごく幸せだから、どっちだっていい……)

 頬を離すと新の唇がさっきより迷わず、自分の唇に重なってくる。高鳴ってしまう鼓動が伝わった指が新の服をつい掴んだ。それに新が少し強張った気がして、そんな事を思わなくていいからと唇を離さないでいると、ほっとしたように新のキスが深くなってきた。
「……ん……っ……」
 深いキスが身体の奥を熱くしていくようで、自分に出ると思ってもみなかった声がつい漏れた。千早を抱き締めてくれている新の腕に少し力が入ったと感じた時、新の舌が唇を割り広げてきた。
(こんな、キス……初めてだけど……、新の気持ちが流れ込んでくるみたいだ……)
 少しだけ戸惑いはあったが、入り込んできた舌を受け止めて新に身を任せる。舌が絡め取られた時、痺れるような、それでいて甘い感覚が背中を走り、それに突き動かされるように自分の熱が吐息となって紡がれる。

 不意にキスを解かれて、どうしたのかと思っていると、寝かせてもいいかと熱っぽい目で問いかけられた。
「……聞かなくて、いいよ……」
 それは千早の本音だ。全て委ねようと思っているから、新は尋ねる必要なんかない。腕が引かれて畳の上に一度座らせられてから、ゆっくり仰向けにされる。
(……ちょっとだけ、恥ずかしい、かな……)
 どんな風に新と目を合わせたらいいのか分からない。そのせいか顔が少し熱くなってしまった。
「あ」
(えっ?)
「……や、ごめん。玄関……鍵開いてるまんまや。この状況でそれってまずいで、閉めてくる」
 急に語調が変わった事を訝しんでいると気付いた新が告げてくる。けれど新はいつもきちんと施錠していた筈だ。それが不思議で問う。

 「さっき話す前。もし千早が……やっぱり耐えられんって思ったら……。逃げるって変な言い方やけど、邪魔せんようにしたかった」
 少し言いづらそうに新が言葉を返してきた。
(逃げるのを? ……そう言えば、さっき話してた時の新、玄関から一番遠い押し入れの前に座ってた……いつも閉めてある襖も開けてあった……。私が、もし新の事を怖いままだったら、って……逃げる気はなかったけど、新から見れば、そうだから。……邪魔しない、追い掛けないようにって、そう思ったんだ……)
 その問いに新は頷く。その思い遣りが嬉しくて、気持ちがそのまま言葉に乗る。
「……鍵、掛けてきて……?」
 逃げる逃げないはともかく下着姿で横になっている今、誰かがドアを開けたりしたら。恥ずかしい以上に新に迷惑をかけてしまうかも知れない。それにもう、新には変な遠慮などしてほしくない。鉄扉の鍵が閉まる音を聞きながら、千早は部屋に戻ってくる新をそのまま待った。




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written by Hiiro Makishima