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Causes/Effects ─Letter ─ 2

Normal(?) End



 封筒の中身も随分と厚みがあった。三つ折りにされているそれを太一は開く。
『思ってる事書こうとしたんやけど、標準語やと何かしっくり来んで、読みづらいやろうけど福井弁で書かせてもらった。ごめんな』
 一枚目の冒頭にそんな言葉があった。
(……小学生だった時は、メモ取られても言い返さないで黙ってたのにな。……いや、おれにそんな事言う資格ねえけど)
 田舎者だの貧乏だの嘲ったのはむしろ自分だ。太一は便箋の続きに目を落とした。

  『まず、太一に謝りたいんや。
   西の予選の時、決勝の前にうちの会長が東の準決勝のカードをメモってたんやけど、
  太一の名前が載ってないの見た時、おれ何でかほっとしてもたんや。
  決勝戦の間も、なんでや、ってずっと考えてた。友達が負けて、何で……って。
  そん時、吉野会大会の決勝戦を思い出した。
   おれ試合前はいつも、楽しかったかるたを頭ん中で描くんやけど、その時おれの頭に浮かんだのはそれやった。
  太一と千早がかるたして、おれはそれを見てるだけ、って風景や。
   そん時咄嗟に思った。……邪魔や、って。戦ってる太一が邪魔やって、そう思っつんた。その風景見て、分かった。
  おれは、かるたで太一を見下してたんや、友達を見下したんや、って。
  本当にごめん。そんな言葉だけじゃ到底足りんけど、本当に、本当にごめん』

 普段は大人のように綺麗な新の字がそこだけ歪み、所々滲んでいる。自分が千早に昔の事を話したのと同じに、これは新からの懺悔だ、とその歪んだ文字から伝わってきた。
 『それが分かった時、目の前に並んでる札も、みんなみんな真っ黒にしか見えんくなった。
  じいちゃんが死んだ時も、かるたが取れんくなってた時も、ずっとおれの宝物やった筈の時間、
  ───太一や千早と三人でかるたした、あの時間さえ真っ黒になって。何も見えんかった』
「……お前も、なのか……新」
 太一は手紙の続きを読み出した。

 『詳しい事話してえんかったと思うけど、佐藤清彦九段が急逝したって連絡の後、じいちゃんまた倒れてもて。
  それから暫くして軽い心臓発作起こした後、おれの顔も、かるたの事さえも分からんくなって……。
  ほんでも昔の試合の断片とか時々思い出してた。おれはそれをかるたの神様降臨、って呼んでたんや。
   二人がこっち来た時、隣の由宇から少し聞いたやろうけど、
  カレンダーに書いてた福井大会って字見た時、一時的に「神様降臨した」じいちゃんが、
  なんで新は行かんのや、試合すっぽかすってどういう事や、って怒ったんや。
  その日うちの家族留守してて……いや、ほんなもん言い訳や。
  おれ自身が思ったんや。みんなに取り残されとない、早よA級なりたいって。自分がそう思ったで試合に出たんや。
   優勝して賞状もらってる時、じいちゃんが倒れたって運営の先生に言われて急いで帰ったけど……間に合わんかった。
  家族も周りのもんも、おれの事責めたりはせんかったけど、おれは自分が許せんかった。
  おれにはかるた取る資格なんかない、そう思って南雲会も辞めた。
  西の予選とき、太一の事考えてた時も、おれはまた同じ事してるって思ったんや』

 血を吐くような新の告白に、太一は圧倒される。千早に付き合って新に会いに来た時は、隣の家に住む少女───今の手紙で由宇という名前だけは知った───が泣きながら話してくれたのもアウトラインだけだった。手紙を読んだ今は分かる。自分達が新を訪ねた時、札を蹴ってまで追い返したかった新の気持ちが。
(望んでないキスして、あいつを突き放そうとしたのと、同じなんだ)

 『太一も対戦した事あったがの? うちの村尾さん。
  決勝の相手やったんやけど、何も見えんくなってたおれの横っ面叩いて、戻って来い、って言うてくれて。
  また見えるようになった札は、綺麗やった。 どんな新品の札よりも、綺麗やったんや。
   これ書くと太一笑うかも知れんけど、さっき名前出した由宇がその日の朝サンドイッチ大量に持ってきてたんや。
  カツオブシ入りのカツサンドなんて、太一も聞いた事ないやろ? ほんでも作ってくれたもんやで食べて予選行った。
  ほしたら何が悪かったんか、おれ一回戦始まる前からずっと腹下してて。それも強烈に。
   さっき書いた通り、村尾さんのおかげで立ち直れたけど、ついでに腹痛まで復活してもてさ。
  ……おれ試合中やのにトイレ行っつんた』

 手紙のその部分に、太一の目は真ん丸に見開かれた。
「……マジかよ?! けど、それで決勝まで、つーか西日本代表ってすげえじゃん」
 『めっちゃ恥ずかしかったし、空札は分からんし、十一枚差付いてたけど……逃げたらあかんって、何でかそう思った。
  もう十分恥は掻いたんやから、無様でいいんや、って自分に言い聞かせて』
「逃げたらあかん、か……。分かるよ」
 太一自身「逃げないやつになりたい」と原田先生に言った事もある。かるたの原動力だったのは千早だが、そうした「なりたい人間像」の基礎になったのは、新から言われた「卑怯な奴やの」という痛烈な言葉だ。

 『高松宮杯の受付で顔合わせた時は、おれ太一と戦えるんか、ちょっと不安やった。
  あんな風に思った後やったから、気持ち的に難しいんでないかって思ってた。
  ほやけど太一が言ってくれたやろ? かるたしよっさ、って。
  あれ聞いた時、なんか昔の太一とおれが向かい合ってるみたいに感じられての。
  試合もやけど、強い太一と戦えるのがこんな嬉しい事なんやって初めて分かった気するんや』
 嬉しい、という新の言葉が太一に沁みていく。
(……あれ? 決定戦の事は書いてねえな。あんな凄え試合だったのに)
 怪訝に思いながら太一は便箋をめくった。






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written by Hiiro Makishima