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Causes/Effects 6



  言ってしまおう、と太一は深呼吸をして口を開いた。
「さっきまで、駒野が来てた」
『机くんが?』
 その事は千早にも意外だったらしい。
「駒野に昔の事も含めて全部……お前に告白した事や、その後の事も話した。……あいつに指摘されるまで、おれ全然気付いてなかったから、お前にも言えてなかったんだけど、この前話したろ、小学校のかるた大会」
『あ……うん』
 少し千早の声が重くなったのが分かる。
「あの時、新が本当に許せなかったのは眼鏡の事だけじゃなくて……内緒で札を動かすっていう、かるたを冒涜する事をしたからじゃないか……って。……初めて駒野を部室に連れてきた時、裏返しで取ったろ。それで取り切ったおれなら分かる筈だ、って言われたよ」
『……』
 電話の向こうで、言葉を探しているような気配があった。また傷つけるような事を言うかも知れないと思っているのだろう。
「酷いでも、狡いでも言って構わねえよ。暗記時間中、新が札に顔近付けて配置覚えてた時、おれは言った。負けた時の言い訳用か、ってな。新はその時一度だけおれを凄く厳しい目で睨んだよ。……きっと、あいつはあの時こう言いたかったんだ」
『……かるたをこれ以上、汚すな……かな』
「そうだ」
 それをどう呼ぶかなど関係ない。やった事だけが事実なのだ。
「駒野、帰り際に言ったんだ。……尊敬できるおれのままで居て欲しいと思ってる、だけどそれを強制する権利は誰にもないんだ、って。お前にも同じ事が言えるけど……ってな」

 「───太一」
『……なんだ』
 電話の向こうの声は少し固い。
「決定戦の時、新が聞いてきたの。三試合目の終盤、私ならどうしたかって」
『うん』
 短い相槌だが太一が耳を傾けてくれているのは分かる。
「私は、攻めがるただから二枚とも送る、特別だから一度手放して必ず取ると勝負に出る。そう答えた」
『お前らしいな』
 それを告げる前、千早は一度だけ深呼吸をして口を開いた。
「新、笑って言ってきた。私が好きだって。それからきちんと畳に手を付いて……もし気が向いたら、一緒にかるたしよっさ、って」
 電話の向こうで太一が息を飲んでいるのが聞こえる。

 「私には、その言葉……一緒に生きていこうって意味に思えた。だから私、受けようと思ってる。新が失望していないなら」
『……ったく。まるで、プロポーズじゃんか。……あいつ、ここ一番は思い切った事言うよな。名人戦の時とか。次の日真っ赤になって柱の影に隠れてたんだぜ?』
 少し無理をしているような声で、太一が言ってきた。それをそのまま言いそうになり、千早は慌てて言葉を飲み込んだ。
『一つだけ、お前に頼みがある』
「何?」
『受けるって言った以上、───おれに、気を遣うな』
 太一が真剣な声で言ってきたから、千早も気付く。気遣われる事それ自体が太一の心を更に傷つけると。
「分かった。話聞いてくれて、ありがとう」
『……じゃあな』
 それで電話は切れた。話が終わるまで、太一は一度も自分を名前で呼ばなかった事は千早も気が付いていた。

 ◇ ◇ ◇ 

 鳴り出した携帯電話のコール音を一度だけ待って、新は「通話」ボタンを押した。
「はい、綿谷です」
 掛けてきたのが千早だというのは分かっていたが、なるべく普段通りにしていたくて、新は敢えて名乗る。
『……遅くにごめん。さっきのメールの話の前に、聞いて欲しい事があるの』
「どんな事?」
『新が送ってきたメール、太一にもそのまま転送した。太一にも言ったけど、三人とも同じだけ知ってなきゃいけない、そう思ったから』
 無断でごめん、と千早が言うのが聞こえる。最初に思ったように、二人は交際を始めたのかも知れない。心臓が跳ねるが、逃げずに聞くと決めたのは自分だ。新は電話の向こうから聞こえる千早の声に耳を傾けた。
『……この間、太一が言ってきたんだ。小学校の、かるた大会。……新の眼鏡を隠したのはおれだ、って』
 それを話したという事だけでも、太一が本気だと分かる。
「言うたんか、あいつ。……おれも黙ってて、ごめんな」
 千早には内緒にして欲しいと言われた時の事までは、言うつもりもなかった。千早からその続きを言われるまでは。

 『卑怯じゃないやつになりたかった。好きなんだって……言われた』
「……卑怯な奴、は……昔、おれが言ったんや。千早には内緒にして欲しいって、太一に言われたで。……眼鏡隠して、札までこっそり入れ替えて。……ほんな事しといて、千早には嫌われとないって、よう言えたもんやって……思ったんや」
 太一の気持ちも分かるから、千早に何も言わなかったのは新自身の意志だ。
『札の事は、私もさっき聞いたばっかりなんだ。うちの部に駒野くんって居るんだけど、太一んちに行ってたらしいの。その時言われたんだって。……新が本当に許せなかったのは、眼鏡の事じゃない。かるたを、冒涜した事だ、って』
 経緯を知らない他の人間が気付くとは新も思っていなかった。けれど、あの大会の決勝でそう思ったのは間違いない。
「うん、正解や。……話逸れたな、ごめん。……、千早は、何て返事……したんや? ……太一に」
『……ごめん、って』
 千早の言葉が新の中に沁みるまで少しばかり時間がかかった。

 (断った……? やったら何で太一、キスなんか……)
 由宇が言っていた「可能性の話」。あの時不意打ちで手の平が押しつけられたから、新にも一応理解は出来た話だが。
『新。メールにあった……言葉と、言葉の間の事。……時系列で、話すね』
「……分かった。聞くわ」
 一度だけ深呼吸をして、新は携帯電話を耳に当て直した。
『高松宮杯と、東京の新春大会は同日開催だったけど、太一は両方に申し込みしてた。多分、ギリギリまで迷ってたんじゃないかな』
「どっちに出るか、か。……同日やで当たり前やな」
『うん、名簿見たらキャンセルになってた。……高松宮杯選んだ理由、私、何となくだけど分かってた』
 それはきっと、名人戦のインタビュー時に乱入した新が「来年倒しにここに来る」と言っていたから。

 『修学旅行サボって予選出たり、一人だけ残って試合に出たり。そうしたのは名人になるためじゃない。私や新に勝つためだったんだ』
「……」
 名人を目指していない事への落胆が声に出そうで、新は口を閉じた。
『多分太一は、名人位に私達ほど強く拘ってない。でも広史さんから聞いたんだ。新と戦った後、太一はちゃんと悔しがってたって。新は人生全部で努力して、それを当然だと思ってる。だけどその努力さえ楽しんでいる……それを悔しがってた、って』
 本音を言えば、幼い頃から最終目標に掲げていた名人位獲得を、そんな軽い扱いなどされたくない。ただ、今はその話は本題ではない。新は無言を貫いた。

 『新と試合してからの太一、元気なくて辛そうで。だから部のみんなに相談してみた。何か元気づけられる事。それで太一の誕生日に、源平戦の大会開いたんだ。白波会の他に、北央とか富士崎にも声掛けて。バレンタインデーに部の女子全員からみんなにって形で、前の日に私たちで作ったお菓子持っていくつもりだったのに、うちのお父さんが全部食べちゃって台無しになったから』
「誕生日に大会って、羨ましいな」
 そんな誕生日プレゼントなら、自分だって貰ってみたい。これで太一が元気のないままだったら相当重症だと新も思った。
『準備にお金掛かったから、優勝賞品用意できなくて。だから主役からのキスで、って事にしたんだ』
「誰、勝った?」
『私と太一が同点首位だったけど、決着つけなかった。時間もなかったし』
 少しだけホッとしてしまう。だけどもし自分もそれに出ていたら、やはりトップを獲りに行く。そうなれば賞品も受け取る事になってしまうと考えた時、今の話はホッとして構わない事だと気付く。流石に自分も、優勝賞品だとしても同性からのキスは受け取る気になれない。太一にしても、それは優勝賞品というより罰ゲームだと言っただろう。

 『それで太一もやっと、いつも通りの元気、取り戻してくれた』
「うん」
 それから数日後の話が、太一からの告白に千早が答えた、という部分だった。
『好きって言った時……太一は、私の爪とか髪とか、笑った顔が好きだって言った。だけど新の事考えてる時の私だけは……嫌だって、言葉じゃないけど、それが分かった』
(……太一らしい言葉やな。小学校の頃から、変わってえん……そういう所は)
 初めて三人で白波会へ行った時も、「あっという間におまえなんか抜いてやる」と息巻いていた。今思えばあれは、そうすれば以前のように千早を側に置けるという気持ちだったのだろう。
(そうか。太一のかるた、立脚点は千早なんや。卑怯者になりたくないって努力してきたのも、千早のために。ほやから『名人位には強く拘ってない』んや。……周防さん倒して名人なった、おれを倒せば自動的に……実際に名人位に就かんくても、太一の中では同じなんや……)
 自分の事を考えている時の千早は嫌だと太一が言った意味が、すとんと新の胸に落ちてきた。






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written by Hiiro Makishima