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Causes/Effects 5



 「……ッ?! あ……メール……」
 机の上に置いてあった携帯から流れる軽快なチャイム音に、千早は思わず身を竦ませた。ようやくそれがメールの着信音だと気付き、大きな息を吐きながらフラップを開く。
「……え?」
 画面を見た千早の目が大きく見開かれる。送信者は確かに新なのだが、件名の欄に『Fw:』とあった。誰かからのメールを転送してきたらしいが、今まで新がそんな事をしてきた覚えはない。
(一体、何だろう……)
 本文の頭数行にはオリジナルメッセージの送信者のアドレスと、そこから引用した短い文章があった。
『おれ、千早に告白した。で、キスした』
 千早の鼓動が一気に早まる。元は太一から新に宛てたメールなのはアドレスで分かるものの、太一がそんなメールを送った理由が分からない。

 「何で……? 太一、何で……」
 告白を断った事や、退部しないで欲しいと更に傷つける事を言った仕返しなら、自分にすればいい。そうされても仕方がない事を言ったのは自分だから。
(……新も、もう知ってるんだ……)
 いつもは二、三行程度の短いメールしか寄越さない新が、かなり長い文章を送ってきたのはスクロールバーを見れば分かる。彼が何を言ってきたとしても───たとえ「一緒にかるたしよっさ」というあの言葉を撤回すると言ってきても、それを拒否する権利はない、と千早はのろのろした動作で新が入力した部分に目を通し始めた。

 『一緒にかるたしようって言った事、おれは取り消さんし、そんなつもりもない。おれも、いい加減な気持ちで言った事でないし。
 同じ目線でかるたの事話して、戦い合って。高め合って。ずっとそうやっていきたい一番の相手は千早や。どんな形やったとしても、それは変わらん。……それを踏まえて、聞きたい事がある』
 その一文に胸が痛んだ。少しの改行の後、また長めの文章が画面に表示される。

 『太一が何でこれ送ってきたかは、おれにも分からん。けどメールにある、告白とキス。その二つの言葉の間にあった筈の、千早がどう答えたか、太一との間に何があったか。正直に全部、包み隠さず教えて。
 千早におれへの返事催促する気もないし、批判も非難もする気ない。起きた事、言った事……した事、ありのままが知りたいだけやけど、それがおれにとっても、すごく大事な話やっていう、それだけは分かってほしい。
 それがどんだけ辛い話やったとしても、逃げんと聞くって約束するし、千早はきっと正直に話してくれるって信じる。連絡待ってる 新』

 「……どうしよう……」
 携帯電話を手にしたまま、千早は両足が床に貼り付いたかのように立ちつくす。太一にそうしたように、新に対しても返事をする義務が自分にはあると思う。
『お前は、おれが石で出来てるとでも思ってんのか』
 低く唸るような太一の声が鼓膜の奥で谺する。
『おれにとっても、すごく大事な話や』
 今読んだばかりのメール。新には知る権利がある。
(……怖い。だけど……)
 逃げないと信じてくれている気持ちに応えられなかったら、この先二度と畳の上で誰とも向き合えない、そんな気がする。ごくりと唾を飲み込んで、千早は携帯電話の電話帳を呼び出した。

 ◇ ◇ ◇ 

 駒野が帰った後、太一はソファに身体を投げ出して物思いに耽る。考えてはいるが、何も纏まらない。そのせいかスマートフォンが鳴っている事にしばらく気が付かなかった。
(……千早から? 何の用だってんだ、今更……)
 傷つけてごめんと言いたいのだろうか。そんな言葉は聞きたくないと留守番電話に任せたが、またすぐに千早からの着信が入る。三度か四度それが繰り返された後、流石にうんざりして太一は電話に出た。
「……何度もうるせえんだよ」
『これだけ聞いて、太一。さっき、新が太一のメール転送してきたんだ』
「……?!」
 てっきりおろおろと呼び掛けてくると思っていたが、千早の声は落ち着いている。電話を受けた太一の方がむしろ、その内容に驚いて咄嗟に言葉が出ないぐらいだった。

 『何があったか知りたいって。だけどそれを新に話す前に、太一に新のメールも転送したい。そう思ったから電話したの。私達三人とも、同じだけ知っておかなきゃいけない事だって気がするから』
「お前……自分のせいで、とか……思わないのかよ」
 千早は感情のまま動くタイプだが、それすら考えない程冷酷な人間ではない。太一は自分が気圧されているのを自覚する。
『最初は思った。昔も新に、私が考えなしに言ったせいで辛い思いさせたって。それなのに自分は全然成長してないって。……また同じ事してる、って』
(昔……? 小学校の時の事だよな。……千早はむしろ、メモ取る奴と話したくねえ、って新を庇ってた筈だけど。……あっ)
 かるたを知る以前の事だったから、あまり気にとめていなかったが、言われて思い出せた。思い出した事で太一も冷静さを取り戻す。
「新聞配達、か」
『うん、そう』
 千早のこんな静かな声は初めて聞いたかも知れない。そして今口にした「新聞配達」。確かに切っ掛けは千早だったろうが、新が孤立するよう仕向けたのは自分だ。
(おれが新を水溜まりに突き飛ばして。それに怒った千早がおれをぶん殴って。新の肩持ったらお前もハブだって言っても退かなかった千早にイラついて、あいつまで水溜まりに突き飛ばして、走って……逃げたんだ)
 あの後、千早と新の間に何があったのかは今も詳しくは分からない。けれどたった一日で千早は新を理解していた。
(……綿谷くん、かるただったらここの誰にも負けないよ、って言い切れるぐらいに。……新もそれに応えられるぐらいに、理解し合ってたんだ……)
 福井まで行った時、札を拾いながら千早がぽつりと言った事を太一はふと思い出す。
『かるたでは日本で一番は、世界で一番』
 白波会で一緒にかるたを取っていた時に、それを新が口にした覚えはない。だとすれば、それはあの雨の日に千早に話したという事だろう。そしてその日の言葉を、千早はずっと覚えていたのだ。






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written by Hiiro Makishima