Causes/Effects 2
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「……新。何があったんや? 東京の友達絡み、やろ?」 由宇の口から出た言葉に、新はぎょっとして顔を上げた。 「な、んで……」 「分かるわ、ほんな事ぐらい。おじさんとおばさん、東京の大学行くの許してくれたんやし、かるたの事やったら、あんた凹みはしても、話す事まで拒絶はせんが? ……新がほんな顔するっつったら、あと残るの東京の子らやがし」 ずばりと見抜かれて、新は嘆息するしかない。けれどメールの内容と自分の落ち込みを考え合わせると、由宇には言えないとやはり思ってしまう。そこへ由宇が落ち着いた口調で話しかけてきた。 「私、ちゃんと聞くざ? どんな事やったとしても、の。……何話してきても、あんたはあんたや。……生まれた時からの付き合いが、ほんな簡単に変わるとか思ってるんか? 新」 「……いや。ほんな事は思って、えん。……ただ、幼馴染みやったかって、お前女やが。話していい事やって思えん……ほんだけや」 「ほやけど誰かに打ち明けたい、ほんな顔してるざ」 女の子扱いしてくれて有り難いけど、と由宇は軽い調子で付け加えた。 「……これ、練習行く前に来た」 どう話していいか結局決められず、新は太一からのメールを由宇に見せた。短い文面に目を通した由宇が驚いたのがありありと分かる。 「おれは、こういう事って……お互い好きやって分かってからする事やって、思うんや。ほやから……」 それ以上をどうしても口に出来ず、新は俯いてしまった。 「キスした以上、二人が、両想いになった。……そう、思ってるって事やろ」 言えないでいた事を、由宇はあっさりと見抜いて口にしてきた。 「ほうでなかったら、わざわざこんなの、送ってくる理由がないやろ……。高松宮杯ん時、太一、聞いてきた。秋……決定戦ときに千早に何か言うたんか、って」 試合中だったため詳しい事は言わなかったが、少なくとも自分が千早に告白した事だけは太一も知っている。新は重い口調でそう言った。 「ああ、要するに『おれの女に手を出すな』っちゅうメールかあ」 由宇が思い切り直球で返してくる。その痛烈な一言に反論も出来ず、かと言って頷く事もできない。新は唇をきつく噛み締めた。 ◇ ◇ ◇ 「……」 自室の床に蹲って、千早は携帯の画面をじっと見ている。お気に入りのダディベアも、今は心を慰めてくれない。 (……何をどう書いても、上手く伝えられない。……伝わらない……) 『お前はおれが石で出来てるとでも思ってるのか』 そう言ってきた時の太一の表情は、初めて目にする、本気で自分に腹を立てていたものだった。 今まで何かにつけて怒ったり突っ込んだりして来てはいたが、太一の表情にはどこかに優しさがあった。せめて謝りたいと思うが、それもきっと太一をさらに傷つけてしまうだろう。 「ごめんって言ったのは私なんだ。……私が引き留めちゃ、いけなかったんだ……ゴメン、太一……ごめん」 確かに太一の退部はショックだった。自分への気持ちはともかく、太一も同じようにかるたが好きな仲間なのは変わらないと信じていたから、止めないで欲しいと思ったのは本音だが、今になってそれがどれだけ太一の心を踏みにじる、無神経な言葉だったのかが分かる。 「小学校の時だってそうだ。私が新聞配達の事、考えなしに言ったせいで……新、あんな目に遭ったのに……!」 クラスの班ごとに机をくっつけ合って食べる給食の時間、新の机だけが他の三人から離されたのを見た時、あれだけ痛感した筈なのに、その日の放課後に、新からかるたを、「ちはや」を、そして自分の夢を教わった事で、けろりと忘れてしまった。そしてまた、今も太一に同じ事をしている。 太一がかるた部だけでなく、かるたそのものさえ「出来ない」と言った事を、どう新に説明すればいいのか、それも分からない。小学校のかるた大会で眼鏡を隠した事を話し、好きだと言う太一の気持ちを聞いている時に、決定戦の後に新が告げてきた言葉の意味を考えた自分。そして太一の思いには応えられなかった事も。 『もし、気が向いたら、一緒にかるたしよっさ』 それが新にとってどれだけ真剣で大切な言葉か分かるだけに、無自覚に人を傷つける自分には受ける資格がない、と思う。せめて太一の退部だけでも知らせなくてはと何度かメールを打ってみるものの、入力しかけたメールを削除して、書き直したものも結局また削除する、そればかり繰り返していた。新にそれを伝えるには太一の告白と自分の答え、そして無神経な発言に傷付いた太一がキスしてきた事も書かなければならない。そしてそれをまだ太一に謝ってさえいない事も。 「だけどそれって、きっと新も傷つける。部のみんなにも、打ち明けてない……」 彼の退部は自分のせいだと仲間に言っていいのかも千早は決めかねている。自分のせいだから太一を責めないで欲しいと言うのも、やはり太一を傷つけるのではないか。いくら考えても答えを出せず、千早は蹲り続けた。 ◇ ◇ ◇ 「……ほやけど、このメール。……ちょっと変な気するざ、私」 太一からのメールを見た由宇が口にした、意外な一言に新は弾かれたように顔を上げた。 「変って、何が。おれにはどこも変に思えんかったけど……」 あんたらしいの、と由宇は新の言葉に少し呆れたように返す。 「ほんなら逆に聞くわ。このメールのどこ読んだら、千早さん自身の気持ち分かるんや? ほんとに両想いなって、新が邪魔なんやったら、私やったら誤解の余地ないぐらい書くけどの。相手も自分に好きやって返事してきたんやで割り込むな、とかって」 驚く新の唇に、いきなり由宇が手の平を押し当ててきた。 「な、何やし急に……。びっくりするやろ」 取った行動とは裏腹に、由宇はひどく真面目な面持ちで新を見ている。 「そういうの両想いんなってから、っていう考えは分かるし、私もそう思う。……ほやけど今のがもし、手の平でなかったらどうやの。……それかって、キスしたって事んならんか?」 指先で自分の唇を指し示しながら、由宇は言葉を継いだ。言いたい事は分かるが、それは希望的観測なのではとも考えてしまう。 「まああくまで可能性の話や。本当の所は本人しか分からんやろけど、凹むのは事実確認してからでもいいんでないんか?」 「確認って……」 まさか千早に「太一とキスしたのか」と直接尋ねろという事なのか、と新は言った。それが聞ける性格ならそもそもここまで悩みもしない。 「ほうでのうて。告白されて付き合うって返事したんかとか、このメールの言葉と言葉の間に入ってる筈の、そういう事を聞きねって話や」 何事でも原因なしに結果だけがいきなり生じる事はない。そして原因と結果の間には、必ず「経過」がある。このメールにはその部分が何もない。それが由宇が覚えた違和感だった。 「新かって千早さんに告白してるんやから、少なくとも返事を聞く権利はあると思うざ」 由宇は静かに言葉を返した。 「ただの? 自分が望まん答えやった時にどうするか。……それだけは自分一人で考えなあかん」 突然由宇の口調がシビアなものに変わり、反射的に新は背筋を伸ばす。 「それは分かってるつもりや。ありがとう」 新自身、生半可な気持ちで告げた事ではない。そしてそれへの返事は全て千早に委ねた。 「……私が言ったのは、千早さんの事だけでないざ、新」 由宇が告げてくる。 「うん」 自分がこの先、太一とどういう付き合い方をするのか、それも自分なりに考えて決めなければならない。新は短く、けれどはっきりと頷き返した。 |