It's time to say... 6
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新が話を聞く体勢に入ってくれたため、千早はゆっくりと卒業式の日に部室で太一と交わした会話を話し始めた。 「……初めは、かるた部作った時の事とか話してた。お互い無我夢中だったなー、って。それとこの前のクイーン戦と受験をよく両立したな、って太一がね」 「うん。かるた部作るの頑張ったのと、クイーン戦と受験両立させたんは、おれも太一と同意見や」 ただその話の後、太一は何事か考えていたらしく、次の話への反応が遅かった、と千早は言葉を継いだ。 「太一は医学部だから忙しいだろうけど、時間が取れたらかるたしようよ、って言ったんだけど……太一、時間取れそうにないって言って。……それは仕方ないって思うけど、新がこっち来るんだからそんでいいじゃん、って……何か、何だろう。投げ遣りっていうか……いつもの太一の話し方じゃないみたいな……」 「……ほん時の太一の口調って、今千早が言うた感じそのまんま?」 新が問うと、千早はしばらく考えてから首を縦に振った。 (……おれ、何となく分かった気する……多分太一は、千早に否定して欲しかったんや……) 「新? 何か気になる事、あった?」 千早に訝しまれ、新は急いで頭を切り換えた。 「や、とりあえず最後まで聞いてからにするわ。ごめんな、変に話遮っつんて」 かぶりを振って、千早は再び口を開く。 「……それからしばらく、太一何か考えてるみたいに黙っちゃったんだけど、急に私の腕掴んできて……えっと、その……だっ、抱き締めてきて……。言ってきたの。『おれ、おまえにはおれだけを見て欲しいって、そう思って頑張ってきた』って。『ずっとおまえが好きだった』って……。私、息が苦しくて離そうとしたんだけど、太一は腕緩めてくれなくて……」 「───!」 新の胸にズキンと鋭い痛みが走る。 「だから私、太一に『ごめん』って。……それでやっと、太一が腕を解いてくれて、今度は新が原田先生と戦った時の決定戦の事、聞いてきたの」 「……決定戦の?」 千早は頷いて、「二試合目を譲られた新が千早に耳打ちされた途端落ち着きを取り戻した」事と、「三試合目が終わった後の、太一が外に出ていた間の話」を聞いてきたと告げる。そして千早の答えを聞いた太一は三度何かを考えていたように見えた、と続けた。 「それから、言ってきたんだ。『じゃあな、千早。……さよなら』って。私に背中向けてたけど、肩が震えてたから……多分太一、泣いてたんだと思うけど……きっと私に見せたくなかっただろうから、暗くなってから部室を出たの。……私の話は、これで……全部」 話し終えた千早と、聞いていた新が同時に長い溜め息を吐いた。 「ほんな事があったんか。……まあ、おれも人の事言えんのや。……嫌でなかったら、聞いてくれるか? 千早」 千早は黙って頷いた。 「確か千早と太一、前に福井で会うてたかの? うちの隣の、由宇って奴。……卒業式の日やで、ちょうど同じ日や。おれが四月から一人暮らしって想像付かん、とか……まあほんな事話してたんやけど……。何か急に、東京やったら千早待ってるでいいのー、とか言い出して。……普段ほんな嫌味言う奴でないで、何やって聞いたら……『私かってずっと見てたんや』って。……おれの事をの」 新はそこで一度言葉を切った。 「……おれも、ごめんって以外由宇に返せる言葉なんかなかった。泣いてたけど、何もしてやれんかった。って言うか、気持ちに応えられんのやで、したらあかんって思った。……じいちゃんの事あった時とかも、ずっとおれを支えてくれてた相手に対して、冷たいかも知れんけど……」 新にとって数少ない、本音でぶつかり合える相手だからこそ、嘘や誤魔化しはしたくなかった、と新は溜め息混じりに言葉を継いだ。 「ほやけど、いっぺん納得すると由宇は切り替え早いんかな、いつ千早を好きやって自覚したんや、とか、一年も前に告白して返事貰ってえんのか、って聞いてきて。……おれ、他のもんが聞いてきたら絶対何も言わんけど、由宇には全部、正直に答えた。おれにとっては家族同然で、大事な友達やっていうのは、きっと一生変わらん事やから」 千早は口を挟まず、大きな目を瞠らせて新の話を聞き続けている。 「その後で、由宇もおれに言うてきた。……さよなら、って。おれが出発する日は家族とかも見送りに居るで、言われんやろうから今のうちに、って。……おれも由宇が家の中入るまで、勝手口の外でじっと立ってた」 おれの話もこれで全部や、と新は静かに話を終えた。 「……さっきのさ、太一の口調って話。新、何か言いかけてたよね?」 ややあって千早が聞いてきた。 「あ、うん。……太一、かるたやったらおれが居るでいいやろって言うたんやろ? 多分の、千早に否定して欲しかったんやと思うざ。太一と取りたいんや、って言われたかったんやろうな……って」 「……それは……。単純にかるたの事だけで言ってないから、私には否定って出来ないよ。新も言ったけど、私も太一に嘘や誤魔化しはしたくないから」 千早の言葉に新はそれでいいと思うと頷いた。出した答えが相手の望まない物であったとしても、相手の真剣さには同じだけの真摯さで返すしかないのだから。 「でもね、やっぱり太一にはゴメンって思っちゃうんだ。付き合い長いから。だけど太一が私にさよならって言ったのは太一の決断だから、私にはどうこう言えないし、太一も私や新に、あの話をなかった事にしろとも言えない事だよね。……早いか遅いかの違いでしかなかったかも知れないけど……」 「……千早も分かると思うけど、戦うてると『流れ』ってあるやろ。今言うた、早いか遅いかの違いって、それに乗るかとか、自分に向くの待つとか……そういう違いやったんでないかって思うんや。太一だけでのうて、由宇もやけど」 「今ね、話聞いてて私、『ご隠居』……私の担任だった深作先生の言葉を思い出した。『大抵のチャンスのドアにはノブがない』って」 千早は担任教師の言葉をゆっくり口にした。 「開いた時に迷わんと飛び込めるかどうか、か。チャンスの神様には前髪しかないって言うのと同じやの。その時に掴まんかったら、もう巡ってこん……後で『何であん時に』って思ったかって、あかんのや」 千早達三人の中で一番かるた歴が長い新にとって、それは馴染みやすい考えでもあった。試合においてはある程度自分でチャンスを作り出す事も出来るが、やはり呑気に待っているだけでは決して掴めない物でもある。 「さっきもちょっと『流れ』の事言ったけど、おれと太一の違いってそこや。性格なんかも知れんけど、太一は物事……特に今度の事やけど、自分にとって追い風やって確信出来るまで……言い方変えるんなら、千早が絶対うんって言うやろって確証が持てるまで、待ってたんや」 「新にとっては、そうじゃないって事?」 「ん……、かるたやと特にそうやけど、狙い札読まれるまでぼさーっと待ってたら、負けてまうやろ? ほやから自分で引き込むんや」 だから新は決定戦の後、これまで抱いていた気持ちが「恋」だと分かった瞬間、好きだと告げたのだ。 新の話を聞いているうちに、千早は気付く。「何故あの時に」と後悔するのは自分にも言える事だと。 「……新、えっと……あのね? き、聞いて、くれる……かな」 「うん」 口を開く前に、千早は肺の中の空気をすっかり吐き切り、胸を反らして新しい空気を目一杯吸い込んだ。 「い、一年前に……言ってくれた事。私も、新と一緒にかるたがしたいし……、新が見てるもの、考えてる事、もっと……知りたいって、思ってる。……それは、……好、きだから……。新の事、が。……えっと、その……ご、ごめんね。一年も返事しないで……」 耳まで真っ赤になり、つっかえながら千早はその言葉を何とか最後まで言い切った。新の沈黙がこんなに怖いと思ったのは知り合って以来初めての事だった。 「……ありがとう」 同じくらい顔を赤くした新は明後日の方を向いたまま、千早の手に自分の手をそっと重ねてきた。その大きな手の甲の上に、千早はもう一方の手を静かに乗せる。春風が吹き、二人の髪をふわりと舞わせた。 |