保湿系トライアルセット

Costume 2

新と千早の大学生活。
オリキャラが何人か出ますので苦手な人注意してくださいませ。



 次の「当たり」は誰だ、と巽はお握りが乗った皿をずいと千早と三室の前に突きだした。
「うー……こうなったら勘で! これ行きます」
 千早は直感で一つ選び、三室はしばらく逡巡してから別の一個を手に取った。恐る恐る口に運んだ千早の口から「ぐぇ」という形容しがたい声が漏れた。どうやらその直感で見事に「当たり」を引いたらしい。
「千早の直感は『引き』強いんやな」
 真っ先に「当たり」を引き終えた新は茶化す。
「僕のは梅ですけど……次引かないと、三個食べるって事ですよね……」
 小柄な三室にとっては、当たりを引くまで延々食べなければならない事も厳しいようだった。
「三室が食いきれんかったら、おれ少し手伝うわ。別に食いさし気にせんし」
 ほっとしたように三室が礼を言ってきた。

 「ほーれ、綾瀬。引け」
 出水がまたクジを引けと楽しそうに千早の目の前に箱を出す。
「えいっ! ……って、うわ、何これえー! 新の袴の方が絶対マシだー!」
「……何引いたんや?」
 横から千早が手にしているクジの紙をのぞき込むと、そこには「メイド服」とあり、思わず吹き出してしまった。
「綾瀬、さっさと着替える。メイクはまたアタシがするからさ」
 今度は千早がずるずると更衣スペースに連行される。三室がこっそりと千早は何を引いたのか新に聞いてきた。
「メイド服やと」
「……あ、あはは……。でも、綾瀬さんだったら似合うと思うんですけど」
(って言うか、袴よりマシとか言うてたけど、千早のが断然マシやろ……。女が女の服なんやし。ちょっとだけ、出てくるの楽しみやな……)
 そんな事を考えていると、更衣スペースからまず相模が顔を出し、中にいる千早に早く出てくるよう促した。

 「……うう……」
 頭にフリルがついたカチューシャを付けて、スカート丈が膝より少し短いメイド服を身に着けてきた千早の姿に練習場はどよめいた。相模がリップグロスを塗ったらしい姿は新の目にも十二分に魅力的に映る。
(……部屋やったら、おれ絶対飛び付いてまうやろなあ……)
 相模は「千早にはそこまでメイクの必要がなかった」と少々羨ましげに話していた。
「なるほどなあ。ほれ一年生、見とれてねえで、感想言え感想」
 出水に言われてようやく新は視線を千早から外した。さすがに今思った事は口に出来ないからと新はもっともらしい言葉を探す。
「……学祭の呼び込み、この方がお客さんようけ呼べたんでないですか?」
「綾瀬さん、スタイルいいから何着ても似合いますね」
 そんな事を言っている三室もその後即座にチョコレート入りを引いてしまい、クジにあった通りセーラー服を着て戻ってきた。

 「さてと。これで『ロシアンお握り』は全員食らったな。残りは普通の具だから、三人とも普通に食っていいぞ」
「そう言えばおれ、最初に引いてもたでちゃんとしたの食べてえんかったな。一つ頂きます。……これ、しぐれ煮や。ご飯に合うなあ……。これ美味いです、巽先輩」
「ちなみに綿谷さ、その袴で取れるか?」
 聞いてきたのはその巽だった。帯の位置が高くてどうにも息苦しいと言っていたからだろう。取れるかと聞かれても女物の袴など今まで一度も着た事がないから新も答えようがない。
「……押さえ手やったら多分問題ないやろって思いますけど……」
 言いながら右腕を振ってみる。袖は男物と大差なく、座っている状態でならさほど難しくはないようだ。
「いや、構えて普段通り行けるか、って話だよ」

 しぶしぶ少し離れた所に座り直し普段通り構えてみる。そこまでは大きな問題はなかったが、払うために上体を捻ると背中が苦しい。跳ね上げた足を戻す時にも男物より着丈がある袴を巻き込みそうだった。やっぱり帯がきつい、と文句を言いながら戻ってきた。
「渡るのもですけど……多分これ、飛ばした札拾いに行くのが一番シンドイんでないかって思います。おれは」
 払う時の姿勢は苦しいながらも保てそうだが、札を拾う時は意識していない分背中も丸くなりやすい。
「私いつもそれ着て取ってるんだけど?」
 千早が突っ込む。元からこの袴なら苦しいかどうか比べようもないだろうにと新が思っている所に、出水の声が飛んできた。
「お前はどうなんだ綾瀬。……その格好で札取るって」
「え? 取るのは問題ないです」
 千早はさらっと答えるが、横に座る新と三室は顔を見合わせる。
「……違う意味で大問題やろ、あれ」
「ですよね」
 そんな事を言っている間に、千早はすたすたと移動して構えに入る。その姿勢を見て新が真っ先に気が付いた。

 「ちょっ、千早! 全力はあかん!」
 新の制止は間に合わなかった。畳を打つ音と同時にメイド服のスカートがふわ、と舞う。
「うわあ!」
 今頃になって千早も気が付いたらしい。苦笑を浮かべているのは相模や小野など女性だけで、他は全員明後日の方を向いてしまった。
「こ、高校の制服と同じ感覚でいたんだけど……生地の重み、全然考えてなかった……」
 真っ赤になって座に戻る。
「かかっ、かるた、って意味だと三室くんが一番いいの引いてるね」
「……まあ、そうかも知れませんけど……結構、足元スースーして冷えるんですね。スカートって」
 本人にとっては取りづらいだろうが、セーラー服は身体の動きをそう妨げないだろうし、男の三室のスカートが捲れても誰かが得をする訳でもない。千早の意見に新も同意を示した。

 「まだいいじゃないか。俺去年、チャイナドレスで丸々一試合取らされたんだけど?」
 巽の言葉に理屈抜きで嫌な予感が走った。
「……そうだったなあ。相手何着てたっけか」
 出水に聞かれ、巽は既に退部している部員が着たのは去年流行っていたアニメの衣装だと返す。
「露出少ねえ分、綿谷が一番マシだぞ? 俺だって一年の時、女物のビキニだったからなあ。冬場に寒いのなんのって」
「い、出水先輩それで取ったんですかー?!」
 千早の裏返った声に、顔の下半分を覆い隠す髭面のままビキニで一試合だったと出水はからから笑いながら告げた。一応は毎年少しずつ「マシ」になっているらしいが、着ている当人は納得のしようがない。
「て言うか……どっから調達したんですか、ほんなの」
 新が今着けている袴は出水が、三室のセーラー服は女子部員が持ってきただろうとは思うが。
「顔広いんだよ、出水さん」
「……嫌な方向に広い気ぃするんですけど、おれ」
 それに巽は苦笑だけを返した。
「まあそんな訳だ。綿谷の心臓に悪いだろうし、綾瀬は下にスパッツ履いていいぞ。んで一試合行け」
「……やっぱ取らなあきませんか……」
 ここまで取りたくないと思う試合など生まれて初めてな気がする。そんな新を尻目に、千早はさっさと更衣スペースに入って試合用のスパッツを身に着けてきた。

 




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written by Hiiro Makishima