Costume
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「全員ちょっと、こっち集まれー」 練習の終わりに三年の出水が部員に集合をかけた。千早たち一年も出水を取り囲むように座っている先輩達の後ろに腰を下ろした。 「あー、緊張しなくていいぞ。今度の週末にやるクリスマス会……まあ、ぶっちゃけ飲み会の口実だけどな。……去年は誰だったっけか、アレ」 「俺ですよ……」 微妙な顔で答える二年の巽に出水は「今年は仕込む側だろ」と宥めるような言葉を返して話を続ける。 「一年は強制参加だ。……まあ一応かるた部の親睦を図る恒例行事だから拒否権ナシ」 見れば巽や他の二年生は笑いを噛み殺していた。とは言え先輩から拒否権なしと言われれば従うしかないだろう。まして今年は色々あったから、と言われては尚更だった。 「でも先輩? 親睦って何やるんですか?」 千早のその問いには誰も答えてくれず、出水でさえ当日になれば分かるとしか言ってくれなかった。 「わ、分かりました……」 恒例行事という事は、巽たち二年生も去年強制参加だったのだろう。曖昧な顔で新が頷いたところで出水が解散を言い渡した。 「何なんだろうね。出水先輩が言ってた『アレ』って」 駅へ向かう道々、千早が問うてくる。 「おれも全然分からんかったけど……なんか悪い予感する。巽先輩がえらく微妙な顔しとったし」 「……須藤さん達みたいな、質問攻めとかかなあ。……それだと答えづらい事ありそう……」 新は以前、須藤や小石川から自分達の交際について訊かれた分、それなら何とかなりそうだと思えたが。 「ほやけど出水先輩、巽先輩に今年は仕込む側やとか言ってたしなあ。まあ、どっちにしたかって拒否権ないんやし出るしかないけど」 「強制参加って言うんだったら、練習来てない先輩とかに言ってほしいけどなあ、私」 そうなら有り難いのは新も同感だ。結局、他の予想も立てられず駅で別れて家路についた。 そして当日。クリスマス会が開かれるのはいつもの練習場だが畳を汚さないようレジャーシートが敷いてあって、その上に紙皿に盛った唐揚げやポテトチップなどと缶ビール類、「クリスマス会」という口実のためか、スーパーで売っていそうなシャンパンが置いてある。 「お前らは未成年だから、こっちな」 巽がコーラやウーロン茶が入った紙コップを手渡してくれた。ここまでは普通のクリスマス会に見えた。 「まあ、とりあえずまずは乾杯といくか。みんな楽しくやろうな。乾杯!」 出水の音頭で二年生達は勢いよくアルコールを口にしている。新と千早、それに同じ一年の三室は逆らわずにウーロン茶で乾杯に付き合った。 「ああ、言い忘れてたな。せっかくの『親睦会』だ。飲んでる最中にメールだ何だ届くのは無粋だから、全員携帯は札んとこ置いておけよ。んで帰るとき忘れず持って帰れ」 付け足された出水の一言に二年生は揃って立ち上がり、携帯電話を言われた通り札をしまう棚に置く。一体何故だろうと一年生三人は顔を見合わせたが、先輩がそうしているのだからと従った。 「ま、いっか」 頓着せず千早が言う。出水の言うのも分からなくはない、と新と三室もそれ以上は気にしない事にした。 「ほら、お前らこれ食べろ。……俺のお手製だぞ?」 巽が結構な量の握り飯を乗せた皿を三人の前に突き出す。 (……仕込む側、ってこれの事やったんやろか?) 「ありがとうございます。いただきます」 揃って礼を述べてそれぞれ一つずつ手に取り、口に運ぶ。 「わあ、シャケ美味しい。巽先輩、お料理上手なんですね」 「僕のはこれ、おかか、ですね。美味しいです」 二人は美味しそうに食べている。新も手にしていたお握りを口にした。 「……?! 何や、これ……」 予想外の甘さが口に広がった新が中を見ると、茶色くて四角い何かがそこにある。 「先輩、これ……チョコレート……?」 とてもではないが塩気のきいたご飯と一緒に食べられそうにない具に新は目を白黒させて巽に尋ねた。 「綿谷がいきなり『当たり』でしたー!」 巽が全員に届く声で不可解な事を言っている。それを聞いた先輩達も口々に「おおーっ」と返していた。 「これな、毎年恒例の『ロシアンおむすび』って言ってな? その年入った一年がチョコ入り……まあ当たり食うまで続くんだよ」 出水の説明に「むしろハズレだ」と新は妙な物を食べたせいでぼそりと言い返す。 「……あながち間違っちゃいねえなあ。ほれ、綿谷クジ引け。書かれてる内容がお前への『指令』だ」 あらかじめ持って近付いてきたのだろう。出水は背後からくじ引き用の箱を新の目の前に突きだして一枚引けと迫ってきた。 「ほんなら、これでいいです」 最初に指に触れた一枚を新は箱から引き抜く。小さく畳んである紙を開いた新はそのまま固まってしまう。 『女物の袴を着ける。もちろんメイク付き』 「まだマシじゃねえかな、それ。巽、お前去年何引いたっけ?」 「……俺、チャイナドレスでした」 確かに巽が引いた物よりははるかにマシではあるが。要するにろくでもない具を引いた者への「罰ゲーム」なのだろう。 そうは言っても女物の袴を着けた事がない新はどうしていいのか分からない。 「俺が着付け出来るって知ってんだろ? ……覚悟決めてこっち来い。相模、お前化粧道具持ってるよな? 後で頼むわ」 出水は新を引きずるように更衣スペースへと連れて行った。 「……綿谷くんの女装って、どうなんでしょうね」 三室が小声で千早に問う。 「どうなんだろうね。私にもちょっと、想像付かないかなあ」 千早の優れた耳には、更衣スペースの中で新が帯が苦しいと言っているのも聞こえてくる。 「僕、男物の袴でさえ着たことないですよ」 「新か出水先輩、貸してくれると思うよ?」 「い、いえ。……でも袖とか、邪魔だったりしないんですか?」 何となれば襷をかけるから気にならないよ、と千早はあっさり言葉を返した。 「おーい、相模。出番だぞー」 出水の呼び掛けに、二年の相模はメーキャップ道具一式を手に更衣スペースに入った。何やらスペース内が騒がしかったが、しばらくして相模が戻ってくる。 「一応、髪もちょっとセットしてみましたよ。……まあ、眼鏡っ娘? って言うか男の娘? そんな感じですね」 「ほら、とっとと出て来い綿谷。おれらに見せなきゃ指令未達成でもう一枚引かせるぞ」 出水の脅しでようやく更衣スペースのカーテンがゆっくり開いた。 そこそこ綺麗な袴を着けた新が顔を真っ赤にして戻って来た。多少長さがある部分の髪をワックスでふんわりさせ、マスカラで睫毛を「増量」して、色は少し大人しめだがグロス入りのリップを相模に施されている。 「綿谷、綺麗な肌してるからファンデの乗りがいいんですよ。正直ムカつくんですけど」 「着物も体型補正要らねえから、楽っちゃ楽だったしな。……綿谷、感想言え感想。とりあえず着物と袴のでいいぞー」 ただでさえ恥ずかしい所に出水が追撃してきた。 「……着物は……その、袴もそうなんですけど……普段より高いとこで帯結んでるんで……、息しづらくて結構シンドイ、です。……。よう千早はこれで取れるなあって」 最後の一言だけは滑らかに口を吐いて出る。 「ふうん? じゃあ普段から着慣れてる綾瀬。見てどう思うよ。……別に袴の感想じゃなくても構わねえぞ?」 千早は少し考えてから口を開いた。 「袴は似合ってると思いますよ? って言うかメイクしてるから似合うのかな。なんか可愛いかも」 「……勘弁してや、千早まで……」 新は盛大に溜め息を吐く。 「ちゃ、茶化すつもりじゃないんですけど、僕も綾瀬さんと同じ意見です。背丈を別にすれば、ボーイッシュな女の子って言うか……」 三室の感想もあまり嬉しいものではない。そこに出水がからからと笑いながら言ってきた。 「綾瀬と三室、次の握り飯行けよ。全員引くまで終わらねえぞ? これ」 せっかく美味しいお握りを引き当てた二人が同時にぎょっとした声を上げて固まった。新だけは少しだけ胸が空く。 「……先に食らった方が楽なんですかね、これ」 巽に聞くと、彼も去年引き当てた経験から苦笑混じりに頷いてきた。 |