Boyfriends, Girlfriend 8
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「……ん、……あれ……?」 千早がようやく薄目を開けたが、浴室の照明が眩しく感じられたのか、目を細めて顔の向きを変える。 「大丈夫か?」 視線の先には太一が居た。首元の温もりを思い出して逆の方を向くと、太一と同じように気遣わしげな表情の新が見下ろしている。それでようやく千早はさっきまでの事を思い出して身体を起こした。 「ごめん新、重かったでしょ。太一も、心配させてごめんね」 「ほんな重なかったし。……千早こそ、身体何ともないか?」 千早は浴室の床に直接付いていた腰や背中に手を当ててから、どこも何ともない、と少しだけ掠れたままの声で答えた。 「なら良かったよ。……無理させたりとかが一番嫌だったしな」 「無理は……別にしてないよ。させられてもないし。……その、ちょっと恥ずかしかったけど」 千早が両肩をきゅっと竦めて答えてきた。 「それより、二人の方が……。その、ほら……さっき、……さ、最後まで……して、ないし……」 「いや、おれらは……気にせんくても……」 「それに最後までってなると、また千早に決めさせる事になっちまうんだけど? どっちと先に……まあ、その何だ、するかって」 流石にそれをお互いが側に居る状況で、というのは太一も新も恥ずかしすぎて避けたい気分だった。 「あ、うん。……えっと、じゃあ二人ともさ、ちょっと待っててくれる? すぐ戻るから」 濡れた髪をきゅっと絞って、千早は立ち上がると浴室を出て行った。 「……何やろ?」 「さあ……」 浴室に取り残された格好になった男二人は、いきおい言葉数が少なくなる。そこへ浴室のドアが開く音が聞こえ、言葉通りに千早はすぐに戻ってきたが、さっきと違い手に何かを持っていた。 「何持って来たんだ? 千早」 太一が問うと、千早は手の中にあった四角い箱を二人に見せる。平たい面に千早が好きなダディベアの顔が印刷されているそれは、トランプのようだ。 「……風呂場でトランプして遊ぶんか?」 「あは、それも面白そうだね。……さっき太一が言ったでしょ、また私が決める事になるからって。でも正直、どう決めていいか分かんないし、この方が公平かなあって思って」 肩を竦めながら答えた千早は、デッキからハートの札だけをまず抜き出し、そこから絵札とエースをさらに抜き取った。残った九枚の数字札をシャッフルし、扇形に広げて二人に見せる。 「引いた数字が大きかった方、で……どうかな」 つまり完全に運の勝負で決めようという事らしい。 「引く前に一個聞きたいんやけど、いい?」 新は二人の顔を交互に見て口を開いた。 「……小さい数字引いた方って、……んと、その間。……ここに閉じこもってたらいいんか?」 「のぼせるんじゃねえか? ってかさ……」 どちらかが千早を抱いている間、風呂場で一人終わるのを待っているというのは何とも侘びしい話だ。それにきっと、気が気ではいられないだろうと思ってしまう。 「あの……さ、えっと……順番、ってその、さ、最後だけで……いいんじゃないかな、って……」 手にしたトランプで口元を覆い隠し、赤くなって千早が答える。 「それってつまり、その前までは……その、さっきみたいに……って千早は思ってる、って事だよな?」 太一が確認するように問うと、千早は顔を赤くしたまま、それでもはっきり頷いた。 新も太一も、正直に言えば迷いはあった。ついさっきまで二人ともキスさえ未体験で、大好きな相手との記念すべき初体験が三人でのプレイになってしまうという事をどう考えていいのか分からない。 (……けど、新相手に退きたくねえってのも、おれの中にあるのも事実なんだ……) (これが他の事やったら、譲ったかっていいって思うかも知れんけど……千早の事だけは別や) そして何より当の千早が、真っ赤になって恥じらいながらもそう望んでいる。 「……わ、かった。おれは、ほんでいい」 「正直、照れくせーけど……おれも、乗った」 新と太一が答えると、千早の口から安堵の息がこぼれ落ちた。 「ほんなら、千早。……カード。出して」 千早がカードを再びシャッフルしてから裏返しにして、二人のちょうど真ん中に差し出してきた。新は迷わずに自分に一番近い札を指先で引き抜き、太一は少し考えた後、真ん中辺りの札を選んだ。 新の手にあるカードの表には、六つのハートマークが描かれている。 (うわ、えらい微妙なとこ引いつんた……) 最大のカードであれば何も考える必要はない。仮に最小のカードを引いても、それはそれで仕方がないと思うしかないのだが。 「じゃあ、同時に見せてくれる? いい? ……一、二の、三っ!」 「うっわ?! マジかよ……」 太一がひっくり返したカードにあったハートの数は、五つ。太一もまた、新と同じように最大か最小なら気持ちの整理もしやすいのに、と思っていた。それだけにここ一番での運のなさを嘆きたくなる。 (……正直、そういう不運ってかるただけで十分だっつーんだ……はぁ……) なるほど白波会の人達がお守りを渡してくれる訳だ、と太一は思う。もっとも、今もこうして僅差負けとあっては御利益があるとも言い難いのだが。 新も新で複雑な気分だった。自分達の指以外まだ誰にも何も許していない千早と、先に一つになれるのは確かに嬉しい。だが千早が望んだようにするなら、太一の目の前で行為に及ぶ事になる。 (……ほやけど、カード引いた後で順番譲るとか言うのもなあ……) さっきの千早ではないが、自分も場酔いが出来たら少しは気にならなくなるのだろうか、と思ってしまう。 「……新? カード、箱に戻すから渡してくれる?」 急に千早から呼び掛けられて、新の身が竦んだ。 「えっ?! ……あ、ああ……ごめん。はい、これ」 カードを受け取った千早はデッキを全部重ね、元通り箱に仕舞ってドアから脱衣所に向けてぽんと投げた。 「あのね、二人とも。……私さ、二人と付き合いたいって言い出して、それを受けてくれた時から……二人の前では開き直ろうって決めたの。……ん、その言い方も何か変だな。んーっと……何するにしても『これが私達の普通』って思うことにした、って方が近いかな」 言い換えれば、交際中の行動の基準を外ではなく自分達三人の中に見いだす、と言えるだろうか。一般常識や社会通念と照らし合わせてノーマルではない事だとしても、三人の中だけでの事ならば、世間一般から見てどうなのかと悩まずにいよう。そう千早は言った。 「……つまり、今日の事もそうだって言いたい訳か」 「うん。少なくとも私にとっては」 彼らも交際を受け入れた時点で、この先どんな変化があるにせよ全て受け入れると決めた。だから千早がそう言うのであれば、そうしようと二人も心を定めた。 「……分かった。ほやけどまあ、とりあえず……身体洗わん? せっかく風呂ん中に居るんやし」 「いっそガキみてえに洗いっこってか? ……や、それは冗談だけど、おれも新に賛成。千早が言った事もな」 太一はトレイからボディスポンジを手に取り、泡立てる。その間に新は椅子を引っ張ってきて千早に座るよう促した。 「え? もしかして、洗ってくれたりするって事?」 千早の大きな目が二人の顔に注がれる。 「ほらまあ、今日の主役なんやし。千早は」 「そういう事。お背中お流しいたしますよ、お嬢様」 太一の気取った言い方に千早はコロコロと明るく笑う。しばらくの間、三人揃って石鹸の泡まみれになって子供のようにはしゃぎながら身体を洗っていった。 |