Boyfriends, Girlfriend 6
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「千早、あのさ」 ほとんど全てのプール施設を遊び回った後、太一が切り出した。 「実はさ。ケーキとプレゼント用意してあるんだ。……おれらから」 「えっ、ほんとに?! うわあ、嬉しい!」 千早は満面の笑みを浮かべている。そこに太一は更に言葉を継いだ。 「……でさ? 部屋取ってあるんだ。ここの。そこで三人で食うの、どうかなって思ってさ」 一度千早は新に視線を向け、その表情で新も知っている話だと分かると、また太一に視線を戻した。 「凄いけど……いいの? 結構高そうなとこなのに……」 「それは気にしなくていいから。どうしたいか、だけで考えていいぜ?」 新は口を挟む気はないらしい。千早はしばらく考えてから口を開いた。 「えっと、じゃあ……お言葉に甘えて」 「サンキュ。それじゃ着替えてロビーで合流しようぜ」 話がまとまり、三人はロッカールームへと引き返していった。 「うわ、広ーい……豪華……」 太一が取った部屋はかなり広めのスイートだった。中に通された千早はぽかんと口を開けて部屋の中を見回す。後に続いた新も、表情はともかく感じている事は千早とそう変わりなかった。 「千早、いつまでも珍しそうに見てねえで。……ほら」 太一が大きなテーブルの上を指差す。かなり大きめなタルトケーキと飲み物、それに花束が置いてあった。 「ほら、こっち来い。……新、ロウソク立ててくれ」 「あ、うん。……へー、数字になってるのも、あるんやな」 椅子を引き、太一は千早に席に着くよう促す。新はケーキが載った大皿に置かれた、数字の形をしたロウソクをその席から見て「19」となるように立て、千早が座るのを待って火を点けた。 「千早、誕生日おめでとう。……Make a wish!」 太一が「一息で全部のロウソクを吹き消せたら、その願いが叶う」と言いながら、千早のすぐ目の前にケーキの大皿を寄せた。 「……一気にの」 千早は頷き、すうっと大きく息を吸い込むと勢いよくロウソクを吹く。たった二本しかない数字の形のロウソクは同時にふっと炎が消えたが、この勢いなら仮に十九本立ててあっても、千早の願いは叶いそうだった。 「おー、お見事。……んじゃ、食うか。おれ切り分けるから、新、飲み物頼むな」 「ん。……はい、千早。これは太一に」 ケーキと飲み物が回され、男二人もテーブルに着く。新は足元に置いた自分の鞄から、予め買っておいたプレゼントとカードを取り出した。 「これは、おれらから。誕生日、おめでとう」 「え、わ……ありがとう! 開けていい?」 新が頷くと、千早はわくわくした顔で包装を開いていった。 プレゼントの箱の中に、小鳥を象ったペンダントを見つけた千早の顔がぱあっと輝く。 「すごい、綺麗……ありがとう、二人とも」 「へー、新、センスいいじゃん。……ところで、何で鳥?」 タルトを口に運びながら、太一が聞いてきた。 「あ、うん。……もう大分前やけど、クリスマスに千早が電話掛けてきた事あったんや」 携帯電話がかささぎのようだ、と千早が言ってきた事があった、と新は簡単に話す。 「……ほんでいきなり切った」 「ぶっ。……唐突すぎんだろ、それ」 堪えきれず太一は吹き出す。 「おれも聞いていい? 太一がこのケーキにした理由とかって。……や、おれケーキの種類とか全然知らんけど」 新の感覚ではバースデーケーキと言えば、普通の丸いスポンジケーキなだけに、太一がタルトを選んだ理由に興味が沸いた。 「ああ。高一の時、部のみんなでサプライズしたんだけどさ。そん時千早がタルトの皮んとこ好きだって言ってたからさ。……こいつ、周りぐるーっと食ってんの」 「……ぷっ……くくっ……なんか、千早らしいの、それ」 太一の話に新の肩も震え出す。 「二人ともぉ? ……ちょっと、何笑ってんのぉ……?」 突然飛んできた千早の声がいつもと違って聞こえ、ばっとそちらを見た男二人が固まった。 「……ち、千早? どしたんやし?」 「なんか、顔赤くねえか? お前」 顔が赤いだけなら、昔の話を暴露されての事かとも思ったが、千早の大きな目は今まで見た事がない程据わっている。しかも何となく呂律が回っていない気がして、太一はまず飲み物を少し口に含んでみた。 「……これ普通のジュースだよなあ?」 太一に言われて新も自分の目の前のグラスを少し傾けてみたが、ごく普通にフルーツの味しか感じられない。 「そう思うけど。……あ、もしかして、これ?」 東京で自炊を始めて、調理の過程で酒を加える事が意外に多いと新も最近知った。ただ大抵は、加熱してアルコール分は飛ばされてしまう筈なのだが。新はフォークでタルトの表面に乗ったガナッシュを少し取って舐めてみた。 「……ごめん、よう分からん。……千早、酒弱いんやろか」 何しろまだ飲酒経験のない未成年だ。味覚では判断しきれなかったし、千早がいける口なのかどうかも分からない。太一もさっき食べた感じでは、酔っ払う程の量が入っている気はしなかったと答える。 「なに二人で、ひそひそ言ってんのー? あらたも、たいちも……ヘンなのー。きゃははははっ!」 本人は至ってご機嫌らしいが。どことなくとろんとした目でこちらを見ては、唐突に笑い出している。 「もしかして、場酔いってやつ?」 ホテルのスイートという非日常的な場所のせいもあって、千早が自分で暗示に掛かった結果、酔っ払いはこういうもの、というイメージの通りに自身が酔っ払ったようになってしまった、という事だろう。 「一番有り得そうやけど……」 父が時々会社の人と飲んで帰ったりした時は、水を持って行ったりもしたが、本人の自己暗示で酔っている状態が水で醒めるものなのか新にもさっぱり分からない。 「なぁにー?」 千早が上体をずいと近付けてきた。 「何でもないざ。……千早、水飲む?」 場酔いであれ何であれ、酔った人間に細かい事を言っても仕方ないだろうと、新は周囲に視線をやって水差しを探す。 「ううん、いらなーい。平気だよ」 言ったそばから千早の身体がぐらりと傾ぎ、新が慌てて腕を伸ばすと、千早の手がその腕をしっかり掴んできた。 「おい、ホント大丈夫なのかよ……うわ?」 今度は心配して側に寄った太一の肩がいきなり引っ張られ、千早の至近距離に二人の顔が寄った。 「……千早? どしたんやって」 酔っ払っての行動だろうとは思うが、間近に潤んだ両目を見てしまうと新の鼓動は否応なく早まってしまう。 「私さ? ……二人に何も、返せるものとかって……ないし」 太一の肩と新の腕を掴んでいる千早の指が細かく震えているのが伝わった。 「……私、以外に……何も、ないから。……だから……」 太一と新は思わずお互いの顔に視線を送る。 「千早、お前マジで言ってるのか? ……酔ってて言ってんだったら、」 「私、本気だよ」 太一が言い終わるより先に、千早はきっぱりした声で言ってくる。さっきまで場酔いで怪しかった喋りではない。 「……なら、おれらも真面目に言う。……当たり前だけど、おれたちは二人で、お前は一人だ。前にも言ったけど……お前にとって初めてになる事だから、自分の意志で決めてくれ」 「千早がどういう理由で決めるんか、それはおれら口出しする事でないし、どう決めてもおれらは結果を受け入れるって、あん時言うた通りや」 太一と新が順に言葉を紡ぐ。その事は千早から「二人と付き合いたい」と言われたあの日、男同士で話し合ってそう決めた事だった。 「……」 そのままの格好で、千早はしばらく口を閉ざして何か考えている。受け入れる、と決めはしたものの太一も新も、出来ればその「初めて」の相手に自分を選んでくれたらとつい思ってしまう。 「昼間、蹴っちゃって……ごめんね、新。痛かった、よね……」 千早の顔が近付いてくるが、彼女の片腕は太一の肩を押さえたままだ。そのまま受け入れていいのかと、新は一瞬太一の方に視線を送ると、太一は窮屈な格好のまま、目線だけで頷いてきた。 「……新……」 太一が見ている前で、という困惑はあるが、千早がそう決めた事なら受けると言った。新は緊張しきって滑らかさが失せた動作で千早の頬におずおずと手を伸ばす。初めて触れた千早の頬は瑞々しく、新の頭の中がかあっと燃え上がる。ままよ、と新はゆっくり目を閉じて、千早の唇を受け入れた。 (……凄い、柔らかい……おれ、頭どうかなりそうや……) そっと重ねただけの初々しいキスがゆっくりと解かれる。唇を離した千早は顔の向きを変え、今度は太一の目をじっと見てから目を閉じた。 (……え、マジか? ……おれ、席外そうかとか思ってたのに……) それでも太一にとっても、やはり長年待ち望んでいた事だ。先に新がキスした所を見た分、太一の方がややスムーズに顔を寄せ、千早の唇を己のそれでそっと塞いだ。 (うわ、やべえ……これ……) つい先を焦りたくなってしまうが、千早がそう望んでいるかは分からない。太一は必死で自分を抑え、唇を触れ合わせるだけのキスに留めて顔を離した。 |