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Boyfriends, Girlfriend 5



 いくつかのプールで泳ぎを楽しんだ後、プールサイドのテーブルで三人は軽めの昼食を取る。千早が飲み物を買いに行った隙に太一が新に話しかけてきた。
「……おれ、今のうちにちょっとケーキとか手配してくる。千早が聞いてきたらロッカールームとか適当に誤魔化しといてくれ」
「あ、分かった。……ほやけど、ここで食うんか?」
「んな訳ねえじゃん。場所は確保済み。……んじゃ頼むな」
 そう言って太一はプールの出口からどこかへ消えていった。
(確保済み? ……太一、相変わらず手回しいいんやなあ……)
 小学生の時も、予めかるた会の場所や練習日をネットで調べて持ってきた太一らしさは今も変わっていない。いったいどこに場所を確保したのか新には分からないが、千早には頼まれた通り誤魔化しておこう、と新はまず千早が戻るのを待った。

 「ただいまあ。……あれっ、太一は?」
 飲み物のコップを抱えた千早が戻ってくるなり問うてきた。
「えっと、ロッカールーム行って来るって」
「あ、そうなんだ。……話変わるけど新、眼鏡なしで大丈夫なの?」
 千早はそれであっさり納得したらしく、次の話題に移ってくれた。
「こん中だけ、使い捨てのコンタクトしてるで平気や、ありがとう」
「試合には使わないの?」
 千早のその問いに新は即座にかぶりを振る。
「やっぱ、かるたやったら一番慣れた状態で取りたいで。千早かってほやろ?」
「うん。あ、でも袴は別。着て出る試合は、いつも以上に負けたくない試合だもん」
 千早がどの試合を指して言っているかは聞くまでもない。高校時代に何度も袴で試合を経験している分、太一や千早の方が着物には慣れているだろうが、新は敢えてそこには突っ込まず頷くに留めた。

 「悪い、お待たせ」
 ケーキの手配を済ませたらしい太一がテーブルに戻ってきた。
「どうやった?」
「バッチリ」
 男二人の間で交わされる短い単語だけのやり取りに千早が目を丸くする。
「何でそれで通じんの?!」
「んー? 男同士だからじゃね?」
 太一のその返答は千早に細かい事を尋ねられないようにだろう。新も小さく笑って同意を示す。
「……飯食った後だし、しばらくはジャグジーでも行ってるか?」
 千早が頷いたので、三人でプール脇のジャグジーへと移動する事にした。

 「気持ちいいねえ。試合の後とかなら、もっと気持ちいいかも……」
 ジャグジーバスの中で伸びをしながら、千早は心底気持ちよさそうに呟く。
「スーパー銭湯とか行けば、あるんじゃね? こんな感じの風呂」
 確かに似たようなジェットバスは備わっているだろう。
「確かに試合の後は、おれも手足伸ばして風呂入りたいし、探してみよっかの……」
 アパートの風呂はお世辞にも広いとは言えない。運良く湯冷めしない距離にあれば、大会後だけでも利用してみたいと新は太一に答える。
「……ほやった、太一。……さっき『場所確保済み』って言うてたけど……」
 千早の注意が他に逸れているのを確かめて、新は小声で問う。
「……ここの隣。……押さえといた。一部屋」
 太一も声を落とし、指先でプールのガラス屋根から見える、本館───ホテル側の建物を示した。
「決めるのはアイツだけどさ。……まあ、やっぱ……なあ? ……分かんだろ、お前だって」
「まあ……分かるけど、ほやけどもし、嫌やって時はどうするんや?」
 太一も新も、流石にこの会話に固有名詞を口には出来なかったが、それでも二人の間では十分意味が通る。
「そん時は、部屋で食って、ダラダラ遊んで、んで解散」
「ああ……なるほどの」
 太一も出来ればこのチャンスを無駄にしたくはないだろう。自分の中にも同じ欲はあるからと、新はそれ以上問うのをやめた。つい顔が熱くなってしまい、男二人は自分達がジャグジーバスの中で良かったと内心思う。

 「ねえねえ、次あのスライダー行かない?」
「───っ?!」
 千早が勢いよく寄って来たのと、新が声にならない呻きを上げたのはほとんど同時だった。新は身体を倒して四つんばいのような格好になり、しきりに腰を拳で叩いている。流石に同性の太一は即座に状況を理解したらしい。
「バカ、千早! お前、今こっち来た時、蹴り上げちまったろ……あーあー……新、おれが腰叩くか? 『上がっちまった』んだろ?」
 息が継げない新は無言でこくこくと頷く。
「ごっ、ごめん、新! 大丈夫?!」
 平気だ、と答えてやりたいが、まだとてもではないが声を出せる状態ではない。新の腰をリズミカルに拳で叩きながら、太一が代わりに答えた。
「今は話しかけんなって。新の息が戻るまでじっとしてろ」
「……う、はい」
 千早は二人から十分な距離を取って湯の中に座り、太一は新の腰を叩き続ける。どうやら少し治まったのか、ようやく新の背中が大きく上下して、呼吸が出来るようになったと示す。

 「……ありがと、太一。……何とか、元……戻った」
 その言葉を裏付けるように、新は上体を起こして座り直す。まだ疼くような痛みは残っているが、じきに楽になるだろう。太一も新の背中から手を離して座り直した。
「ごめんなさい……」
 泣きそうな顔で千早が詫びてきた。
「や、気にせんでいいって。太一のおかげで早く戻ったし。……ほんとに、ありがとうな」
「いいって。……こればっかりは、男にしか分かんねえもんな」
 太一も苦笑混じりに言葉を継ぐ。
「ごめん、新……ごめんなさい……わっ?!」
 謝り続ける千早の顔に、真正面からジャグジーの湯が飛んできた。手の平で顔を拭った後、視線の先にあったのは湯を掬ったらしい新の手だった。
「……ほんならこれで、お相子。の?」
「え? ……えっと……う、うん……」
 不得要領といった顔で頷く千早に、「新がそう言うならそれでいいだろ」と太一も言葉を掛ける。まだ納得しないなら自分もやるぞというオマケ付きで。

 「新が何ともねえんなら、行くか? スライダー」
 湯から立ち上がった太一が、千早に片手を差し伸べる。
「おれも、もう平気や。いつでも構わんざ?」
 念のためゆっくり湯から身体を引き上げた新も、同じように片手を出した。
「あ……、ありがとう……」
 千早が左右の手でそれぞれが差し出した手を取ると、新と太一がその手を引いて千早を湯から立たせる。
「けど、ほんとにいいの? ……身体、ほんとに平気?」
 新はその問いに頷き返す。
「それに今日の主役は、千早やから」
「そうそう。お前が笑ってんのが一番だって事。……さ、行くぞ」
「……うん!」
 ようやく千早の顔に明るさが戻り、昔、白波会から雪が舞う中帰った時にそうしたように、三人ではしゃぎながら大型のウォータースライダーへと向かった。





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written by Hiiro Makishima