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Boyfriends, Girlfriend 4



 千早からの「二股」申し入れを新と太一が受けて一月ほどが過ぎた。その間、太一からは「大学が忙しいから千早の相手を頼む」というメールが届いたっきりで、新も千早と一緒にかるたを取った事以外、太一に知らせるべき事はなかった。
「あ、太一からメール来てた」
 しばらくぶりのメールには、千早の誕生日をどうするかという短い文が記されている。
「あー……しもた。おれもバタバタして考えてえんかった……」
 少し考えた後、新は結局正直にその事を太一へ返信した。
『ごめん、考えてなかった。良かったら太一と一緒に考えたいけど、時間ある?』
 太一からのレスポンスは案外早かった。
『おれも考えてた訳じゃなくて、昨日たまたまプールの招待券貰ったんだけどさ。……それ誘ってみるか?』

 「プール……」
 その単語に新の表情が少し曇る。起きている間中掛けっぱなしの眼鏡が心配だった。普段、入浴時には外しているが、それは「物の場所を変えない」事で見えていなくても何とかなっているだけの話だ。
(ほやけど、せっかくの千早の誕生日やし……試してみるか、使い捨てのコンタクトレンズ……)
 新は返信画面を開き、文章を入力していく。
『図々しいけど太一の案に乗っからせてもらう。ありがとう。当日までに何かプレゼント買っておくな』
 新がメールを送ると、またしばらくして携帯が振動する。
『了解。バースデーカード書くの、任せていい? お前、字きれいだし。……あと、おれから個人的意見。……十九歳の誕生日にダディベアは正直どうかって思う』
「ダディベア、って……ああ、千早が練習ん時によう着てるあの変な熊か……。まあどこで売ってるんかおれ知らんけど、太一が言うのも分かるわ」
 そう書いて送ると、太一からは苦笑いらしい顔文字が送信されてきた。

 それから数日を費やして、新は小さな鳥を象ったシルバーのネックレスをプレゼントに選び、バースデーカードに太一と自分からのメッセージを書いた。太一からは待ち合わせの場所と時間を知らせるメールを二日ほど前に受け取っている。新は携帯のサイトで路線図をチェックしておいた。。
 太一のメールの末文には「これも一つの『初めて』だよな。おれもお前も、千早の水着姿なんか見た事ねえし」と書かれていて、以前バイト先の書店で千早の姉の写真集を見つけた時に、ビキニ姿で表紙を飾っている千歳の姿が千早に見えた事を思い出した新は、自分の部屋で一人赤面してしまった。
「……やっぱ練習しとこ」
 プレゼント選びと並行して、新は生まれて初めて使い捨てタイプのコンタクトレンズを眼科で購入した。きちんと手入れをするのなら、普通のコンタクトの方が長く使えば安上がりだと言われたが、手入れはともかく自分自身が長く使いたいと思えるかどうか、今の時点では何とも言えない、と使い捨てを選んだ。
(眼科で初めて装着した時、めっちゃ手こずったもんな……。一人ん時はいいけど、千早と太一が一緒の時に、ほんな理由で待たせたら嫌やし……)
 かるたの試合の時以上に気合いを込めるよう、拳で胸をどんと叩いて、新はコンタクトレンズを手に洗面所へ向かった。

 「あっ、来た! おーい、新ぁ! ここ、ここー!」
 千早の誕生日当日、待ち合わせ駅には既に太一と千早が揃っており、新は急ぎ足で改札を抜け出た。
「ごめんな、待たせつんて」
「いや、おれもさっき来たとこだよ。……おっと、メール……」
 太一は小さく片手を上げて携帯電話を取り出し、何か入力している。その画面を新にだけ見える角度で差し出してきた。
『プレゼント、バッグの中?』
 小声で話しても多分千早に聞こえてしまうからなのだろう。新が無言で小さく頷くと、太一も目線だけで頷き返してメール画面を消した。
「んじゃ、行くか」
 太一の先導で三人は招待券を貰ったというプールへと向かう。

 「うわあ、なんか凄い……。私、普通のプール想像してた」
 到着したのはプール、と言うよりスパリゾートと言った方が相応しい建物だった。招待券も恐らく父親の伝手で手に入ったのだろう。エントランス前で千早と新はやや気後れしてしまった。
「どうかしたか?」
 歩みが遅くなった二人に気付いた太一が振り向いた。
「や、おれも千早と同じ想像しとったで、びっくりしてる」
「太一、セレブー……」
 口々に言われて気恥ずかしいのか、太一は二人の肩を押すようにしてエントランスを潜った。
「来ちまったんだから、腹くくって楽しんだ方がいいと思うけどな? せっかく誕生日なんだしさ」
 太一に耳元で「おれらの彼女の」と言われて、新も幾分落ち着きを取り戻す。
「……やな。主役が楽しいのが一番や。ありがとう、太一」
「まあ、とにかく行こうぜ」
 太一は三人分の招待券を手に受け付けを済ませ、千早に女性用ロッカーキーを渡す。
「着替えたら、ロッカー出たとこで待ってっから。……行こうぜ、新」
「うん。……後での、千早」
 男二人は連れ立って男性用ロッカールームへ向かう。その背中を見送ってから、千早も女性用ロッカールームへ消えた。

 「おっせえな、千早。……ってか新、目大丈夫なのか?」
 水着に着替え終わった男二人はロッカールームからプールへ繋がっている廊下で千早を待っている。不慣れなコンタクトレンズを嵌めた新はさっきから、しきりに目をしばたたかせていた。
「見える事は見えるけど……まだ異物感が消えてえんくて。じき慣れると思うけど」
「無理はすんなよ?」
「うん、ありがとう。……ほやけどホントに千早、遅いな」
 二人が話していると、女性用ロッカールームのドアが開く音が耳に届き、反射的にそちらを向いた太一と新が同時に固まった。

 「お、お待たせ……」
 デニムのショートに見えるタンキニを着、サイドの髪を後ろで緩くまとめた千早が恥ずかしそうに二人の方へ歩いてくる。現役モデルの姉と似た顔立ちで、その千歳より背が高い千早は知らない人が見ればどこかのモデルだと思うだろう。かるたで鍛えた無駄のない体付きなのに、水着のブラに三分の二ほど覆われた胸は十二分に女性的な丸みを帯びて形良く盛り上がっていて、ついつい二人はちらちらと見ては、急いで視線を外す。
「に、似合ってんじゃん」
 どうにか太一が言葉を発した。
「そ、うかな……。あ、新もそう思う?」
 いきなり話を振られた新は首まで赤くしながら、辛うじて似合うと告げた。その声は袴が綺麗だと言った時より更に小さい。
「良かったあ……!」
 千早の顔がぱあっと明るくなり、泳ごうと言って二人の腕をぎゅっと掴んで引っ張る。
「分かったから、んな引っ張るなって。手が痛ぇよ」
 照れ隠しのように太一が唇を尖らせて言い返すと、ようやく千早は二人を解放して歩き出す。新と太一は一度だけ困ったように笑い合い、大股で千早に追いつくと並んでプール入口へと向かった。

 「わー、中もなんか凄い!」
 プールに足を踏み入れた千早が感嘆の声を上げる。確かに流水プールにジャグジー、波の出るプールやスライダーだけでなく、クレイプールやシャンパンプールといった美容のための場所まで揃っている内部は「凄い」と新の目にも映る。
(……う、何か視線感じる……)
 その視線のほとんどは千早に向けられたものだ。口さえ開かなければ誰もが見惚れる美貌とプロポーションの良さに加え、やはり整った容姿の太一に、また違ったタイプの新と二人の男を引き連れていればそれも当然だろう。
「……千早、どこ入りたい? 今日は千早が主役なんやで、好きに決めていいざ」
「え、いいの? じゃあ、まずは軽いとこで流れるプール!」
 千早は流水プールを指差した。

 「おし。行くか」
 三人は流水プールに入るスロープから順繰りに水の中に入る。見た感じより身体にかかる水圧がきついようだ。
「わあ、早ーい。……そう言えば聞いた事なかったかもだけど、二人ってどのくらい泳げるの?」
 水の流れに乗って適当に泳ぎながら千早が聞いてきた。
「どの位って基準が分かんねえよ。まあ一応四泳法は出来っけど」
 スポーツ万能な太一らしく、サラリと返している。
「おれはまあ、学校の授業とか海とかで泳いだりはしたけど……本格的にはやってないな」
 泳ぐ事そのものより、眼鏡が使えず身動きが取れなくて困るため、新は福井に居た間もあまり海水浴へ行かなかった。
「そっかあ。でもさ、このプール。流れに逆らって素振りしたら力つきそうな気しない?」
 千早が楽しそうに言葉を継いできた。
「水ん中でどうやって構えるんやし……」
「っつか、素振り禁止。……新も何を真面目に答えてんだよ」
 くつくつと笑い合いながら、水の流れに乗って三人は子供に戻ったように遊ぶ。





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written by Hiiro Makishima