Boyfriends, Girlfriend 3
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一応の答えが出た所で、新と太一はもう一度姿勢を正して千早と向き合う。 「三人で付き合うって、勿論普通じゃないし、当然誉められた話じゃない事だ。……これが永続的なものだ、なんて事も言えねえけどさ」 太一がまず口火を切った。 「うん。おれら三人の中でかって、変化が起きる事かってあるやろ。ほやけど一旦受け入れたんやで、その変化も受け入れるつもりや」 新は太一の言葉を受けて続ける。彼らの中にある考えが一致しているから、二人の口調に淀みはなかった。 「ま、そういう事だよ。千早がどっちかを選ぶ時が来るかも知れねえし、両方とも選ばない時が来るかも知れねえ。勿論それは、おれら自身にも言えるんだけど」 太一は全員の覚悟を計るように顔を見回しながら告げた。 「うん。私も受け入れる。……仮に二人ともがもう嫌だ、って去るとしても……私の蒔いた種だから」 千早は静かに頷いた。 「まあ、他の人に言うて回れるような話ではないで、他人には今までと同じに幼馴染みなんやって言うしかないけどの」 周囲に理解が得られる類の話ではない。新は少しだけ申し訳なさそうに言葉を継ぐが、太一も千早もそれに異を唱える事はしなかった。 「新、太一。……こんな話、受けてくれてありがとう。こんな私だけど……よろしくお願いします」 千早が畳に額が付く程深く頭を下げ、対面に座る男二人もそれに倣って礼を返す。 「んじゃまあ……今日の所はこれで退散すっかな。おれも自分の大学の準備とか残ってっし。何かバタバタして、悪かったな、新」 太一が床から腰を上げた。 「や、いいよ。医学部の事って詳しくは知らんけど、おれらより忙しいんやろ? 太一、あんま無理せんとの。医学部生が身体壊すとか笑えんわ」 まさに「医者の不養生」だ、と男二人は苦笑いを浮かべる。 「あ、じゃあ私も一緒に出るね。新、お茶ごちそうさま。羽二重餅久しぶりに食べたけど、美味しかった」 「ほやったら良かった。二人とも気ぃ付けての」 二人を見送り、玄関の鉄扉が閉まった後も、新はしばらくその場に佇んでいた。 「……なんか、流石に頭ん中……ぐちゃぐちゃやな」 告白にノーと返事されたり、千早の口から太一と交際する事にしたと言われるかも知れない事には、新もそれなりに心の準備はしていたが、千早が言い出した内容は新の予測を遥かに超えていた。 「正直、おれら三人これからどうなるんやろ? ……ほんなもん今、いろいろ考えたかってアカンのかな……」 軽く頭を振って部屋に戻ろうとした時、玄関のベルが鳴った。 「はい……、あれ、太一? ……忘れ物でもしたんか?」 玄関先には太一が一人で立っていた。 「忘れ物したから、って事で千早だけ先に帰した。……ちっと、男だけで話しときたくて」 「ほやったんか。……上がって」 太一と二人で部屋へ戻る。 「……話って、さっきの事……やろ?」 千早だけを先に帰してまで、二人で話さなければいけない話題が今、他にあるとも考えられない。 「ああ。……まあ正直言うと、まだ実感薄いんだよな。……新は?」 「おれもなんや。千早から三人で話したいってメール貰った時、太一と付き合う事にしたで、って言われる覚悟はしてたんやけど……」 「……やっぱお前も同じとこまでは心の準備してたのか。……千早がおれの予想超える事言ったりしたりすんのは結構あったけど、今回のは斜め上すぎて想像も付かなかった」 ぽつぽつと言葉を交わす。 「……でさ。さっき三人で話してた時、『誰と何するか千早が決めればいい』って新、言ってたけどさ。……実際そういう事……その、した後とか、……おれら二人の間で、……話した方が、いいのか?」 流石に太一の言葉からも滑らかさが消えている。新はしばらく腕組みをして考え込んだ。 「ありきたりな答えやけど、……どっか行った、とかやったら普通に聞けるんでないかって思うけど……。どうなんかな。細かい話……んっと、まあ……例えばやけど、手繋いだとか、もっと何かしたとかの話やと、言うのも聞くのもやっぱ抵抗あるわ」 実の所、新の頭の中ではもっと生々しい事を想像していたが、言葉にする事は結局出来なかった。それでも同じ男だからか、太一にはその想像も伝わっているような気がする。 「て言うか、千早の意志で決めた事やって分かってても、聞いつんたら太一の事妬いてまうのは止められんやろうしの……」 頬を赤くして頭を掻きながら新が言うと、太一も少し照れ臭そうな表情を浮かべた。 「やっぱそう思うよな。……けど黙ってんのも、おれなら色々邪推しちまうだろうし、サラっとだけ話す……で、どうだ」 「……ほうやな。おれら二人から外に漏らす話でないし、ほんでいいって思う」 「それとさ。……おれら二人の間ではそれでいいとしてもさ、他の奴が千早に告ってきたら、お前、どうする?」 千早を「共有」する、という事でまだ混乱が続いている頭に、太一からさらに質問が浴びせられる。 「え? ……他のって太一、実際誰か言うて来てたりしてるんか?」 「いや、今んとこは『もし』って話。知ってる限りじゃ、千早が告られたのも新で二人目な筈だし、その一人目はおれが携帯着拒にした。……高校一年の、東西予選の後ぐらいだっけかな。毎朝駅で見かけて、いいなーって思ったんだとよ」 聞いた新もあまり面白くない話だったが、太一も同じ表情でその「初告白」について手短に説明した。その時は千早本人も、初めて異性から付き合ってと言われた事に舞い上がってはいたが、ただそれだけで、太一が相手の番号を着信拒否にした事も、千早自身すぐ忘れてしまったように見えた。 しばらくの沈黙の後、新が口を開く。 「おれな、告白してくるのが誰やとしても『千早の意志で選ぶ』んやったら、最終的には反対は出来んかも知れん。ただ、その誰かが『かるたとおれのどっちが大事なんや』って千早に言わんといて欲しいとは思う。……ほんなんで千早が悩むとこは出来れば見とないし」 「……同感だな。特にさ、かるたしてる千早を知らねえ男なんか、仮に付き合ったって長続きしねえだろうし。……おれやお前なら、あいつがどんだけかるたバカかって事もよく知ってるからさ、千早がかるたに没頭しておれら放置とかでも、それで喧嘩にはならねえだろ」 太一のその言葉に新もはっきりと頷く。特に新は二人に競技かるたを教えた事もあって、かるたが楽しくて他の事が二番目になっても、千早だけでなく太一にもその文句を言うつもりはなかった。 少し考えた後、新はゆっくり口を開いた。 「おれ……千早が『太一の方がいい』って言うてきたとしたら、勿論落ち込むけど、最後には太一やったら、って受け入れられるって思う。ただ誰か他のもん、ってなると……それが千早の意志やとしても微妙やな、受け入れられるんかどうか」 「うん。……おれ個人の意見で言やあ、ある意味お前にだけは嫌だって思いもあるのに、同時にお前ならいいかとも思える。……自分でも矛盾してるって思うけど、本音なんだ」 結局二人とも、他の男には千早に近付いて欲しくはないのだ。両方が、という変則的な事ではあるが、今は新も太一も、千早の「彼氏」ではあるのだから。 「……まあ、確かに……彼氏、だよな。おれ達は千早が好きで、千早もおれ達が好きだって言ったんだから」 「ほやし、他の男は排除していいんでないんかの。言うたら変な虫が付かんようにするみたいなもんや」 まるで保護者だ、と言って二人は困ったような笑いを浮かべる。 「普通やったら両想い、とか言うんやろうけど……おれらの場合はどう言うんやろの」 話題に困った新が話を振ると、太一は珍しく呆気にとられたような顔になる。 「……ケーキ切り分ける小学校の算数の問題じゃねえっつの」 「その心は『割り切れない』とか?」 「んなオチは求めてねえ!」 太一は手の甲で新の胸板を軽く叩く。けれどそれで少しは気楽になれたのか、二人ともやっと普段通りに笑えた。 「……さて、んじゃそろそろ本当に帰るわ。……悪かったな、長々と」 「いや、いいよ。暇出来たらいつでも遊びに来ての。札とデッキならいつでも部屋にあるし、かるたしよっさ」 新が言うと、太一は笑って頷く。 「じゃあ、まあ……」 「うん、またの」 玄関先で短い挨拶を交わし、太一は今度こそ本当に駅へ向かって歩き去った。 |