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Boyfriends, Girlfriend 



 郵送されてきた大学の入学通知を片手に持ったまま、千早は自分の部屋で考え事に没頭していた。
(……この日が、とうとう……)
 新が東京の大学に進むと聞いたのはもう一年以上前の話で、また一緒にかるたが出来ると心待ちにしていたのに、千早の心はすっきりと晴れてはいない。
『好きや、千早』
 何も飾らない、だからこそ本気だと分かる告白への返事をしないまま、とうとう今日まで来てしまったせいだった。
「……でも、ちゃんと言わなきゃ……」
 その結果、自分と新や太一との関係がどうなるか分からない。それでも何も答えずズルズル引き延ばす訳にいかない事なのだ。千早の手の中で、合格通知の封筒がくしゃりと音を立て、その音に背中を押されるように千早は携帯電話を取り出した。

 「……よう、なんか久しぶり」
 千早からのメールを受け取った新が指定された駅に着いた時、太一は既にその場に居た。
「うん。太一も元気そうやの」
 メールには三人で会いたいと書かれていたから、太一も新もお互いの姿を見てもそう驚きはしなかった。
「一体、何の用だろうな。千早がおれら二人呼び出すとかって」
「……」
 太一のその問いを、新は無言を貫く事で躱した。
(……頭いい太一が、想像出来てえんとも思えんし……)
 千早に「好き」と告げた立場の新には、今日の呼び出しはきっとその事絡みだろうという予想は出来た。同時に太一なら、千早の様子などから「自分が千早に告白した」事までは容易に想像出来ているだろうと踏んでの無言だった。

 「あ、私が一番最後になっちゃった……ごめんね、二人とも」
 改札を抜けてきた千早が詫びながら二人の側に歩み寄ってきた。
「や、大して待ってえんし、いいよ」
「まあな。おれらも今さっき顔合わせたとこだし」
 新と太一が口々に答えると、千早の顔に少しだけほっとした表情が浮かぶが、深刻そうな雰囲気は薄れていない。
「……で、どうすんだ? 何か用あるってしかメールに書いてなかったけどさ」
「あ、うん。……話があるんだけど、どこか……静かで邪魔が入らない所って、ないかな……」
 太一の問いに答える千早はどこか上の空だ。話せる場所を探すためか、これから話す内容のためなのかは新にも太一にも何とも言えなかった。
「……ほやったら、うち来るか? ……狭いけどおれ一人やし」
「あ、そっか。おまえこの春から一人暮らしなんだっけ。……飯とか、大変そうだなあ」
「んー、別に気にしてえんわ。地方から来たモンは皆ほうやろし」
 太一の言葉に新は笑いながら答えた。結局他にいい場所も思いつかず、新の先導でこの春から住み始めたアパートへ向かう事にした。

 「狭いとこやけど、まあ上がって。今、お茶淹れるし」
 アパートの鉄扉を開けて太一と千早を中へ促す。
(……千早を呼べたんは嬉しいけど、太一も一緒にって事は、おれへの返事って……ノーなんかも知れんな。大学入るまでの一年引き延ばしてたのって、千早、迷ってたんかの。どう言えばおれが傷つかんか、とか……)
 キッチンでお茶の支度をしながら、新はそんな風に思った。

 「んな気、遣う事ねえのに。……って言うか、片付いてんなー……さっすが、新」
 太一は畳に腰を下ろし、整然とした部屋をぐるりと眺める。キッチンや浴室がある分だけ新の部屋の方が、十九年使っている自宅の自室より生活感は強い感じはするが、物がきちんと整頓されている辺りに新の几帳面な性格が表れている。
(家事能力高いよな、新って。おれはずっと家住まいだから、自分の部屋の掃除ぐらいしかした事ねえし。……ただまあ、今はそんな事に頭回す余裕もねえけど……。新の告白への返事を、おれにも聞かせて『そういう訳だから』……ってのもあり得るよな……)
 かるたの事なら千早がここまで思い詰めたような表情を浮かべる筈がない。千早が何をどう話すかは流石に太一にも予測不能だが、自分達三人にとって途轍もなく重大な事だろうというのは分かる。

 「あ、ごめん太一。そこの折り畳みテーブルちょっと出して。おれ今、両手塞がってるんやー」
「おう、分かった」
 作り付けのキッチンから掛けられた声に太一が素早く動く。
「ごめんな、お客さん使こつんて。……大したもんないけど、お茶どうぞ。……ほら、千早も。熱いでの」
「あ……うん。ありがとう……」
 何かに気を取られているのか千早の反応は鈍い。
「お、このお茶請けって懐かしいな。昔おれらにお土産ってくれたヤツ。宿で取り合いになってたんだぜ」
「……ワンパターンかなとも思ったんやけど、好物やし、つい選んでもた。ほやけど気に入ってくれたんやったら、良かったわ」
 太一も千早の様子には気付いているのか、わざと軽い口調でお茶菓子に手を伸ばし、新もそれに合わせて答えている。

 「───あのっ!」
 太一と新の会話が途切れた瞬間、千早が思い切ったように口を開いた。
「ず、ずっと考えてた事があって。……それを二人に話さなきゃって思って……」
 新も太一も、テーブルから手を下ろして自然に千早の話を聞く姿勢を取っている。それが千早の背中を押した。
「……私が考えてる事を言う前に、状況っていうか、今までの事……話すね。私も二人がそれぞれ、どこまで知ってる話なのかが分からないから」
 そう前置きして、千早は一つ深呼吸をする。
「新と原田先生が戦った、挑戦者決定戦。あの後、新は私に好きだって言ってくれたんだ。……太一、その時って会場に居た?」
「いや。おれ、周防さんにマフラー返しに出てた。……ただまあ、あれからお前もだけど、大江さんや花野さんも何か様子が変だったし、見当ぐらいは付いてたよ」
 見当は付いていたという太一の言葉に、千早はそっか……と呟く。
「……でね、その話より遡るんだけど、太一が修学旅行サボって東日本予選出てたでしょ。最初は私も、太一が真剣に名人目指してるって思ったんだけど……その前の吉野会大会の事思い出した時に、太一が予選に出たのは名人になるのがメインの目的じゃないかも……って、何となく……分かった気がしたの」
「名人になる事でのうて、強さでおれと並びたい……って事かの。……千早に好きやって言うために」
 新の声は太一と同じに静かなものだ。太一も新の言葉を特に訂正はしなかった。

 「……そっか、やっぱり二人とも大体の事は知ってたんだ……」
 千早の声にもあまり驚きはなかった。
「まずね、とにかく二人にお礼を言いたいの。太一には、高校でずっと一緒に頑張ってきてくれた事。私や部のみんなを、支えてくれてありがとう。……新には、私にかるたの楽しさと情熱を教えてくれた事と……こんな私に好きって言ってくれて、ありがとう」
「……いや、んなの礼とか言われるような事じゃねえし……」
「ほや、照れ臭いわ」
 太一と新は照れたように言葉を返すが、千早の表情がまだ硬い事に気が付いて途中で口を閉じる。
「……今から話すのって、今の私の、ホントのホントに素直な気持ちなの。もしかしたら二人が私の事軽蔑するかも知れないし、嫌いになるかも知れないけど、それも覚悟してる」
 千早は試合の時のような顔で言葉を継いできた。

 「……」
 太一は口を挟まない。千早が自分達二人のどちらも選べていないと言い出しそうな事は薄々気付いていたが、言葉を挟む事でその話がどこへ流れて行くか分からないためだった。
「……」
 新も何も言わないが、その理由は太一とは少し違って、ここへ太一を同道させた理由を考えていた時と同じで、千早は「太一と交際する事にした」と宣言して筋を通すつもりだろうかと考えていた。
(……ほやけど、それやと千早が今言うた『軽蔑』って言葉が繋がらん……)
 二人が交際するとなれば悔しいのは確かだが、二人を軽蔑などしない事ぐらい、千早には分かっている筈だ。それが新の無言の理由だった。





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written by Hiiro Makishima