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 それから何度か新は練習後や買い物帰りの時間を利用して、何軒かデパートやショッピングモールを回っては誕生日プレゼントに出来そうな物を探して歩いた。が、どうにも「これは」という物がなく、無駄に日数だけが経っていった。
「……新、体調でも悪いの? ここ最近なんか練習で取ってても集中出来てないみたいだけど……」
 部活帰りに当の千早から気遣わしげに聞かれてしまう。
「え、あ……いや、ご、ごめん。何ともない」
 慌てて取り繕いながら、これではダメだと新は自分に言い聞かせた。そもそも千早が喜んでくれたらと思ってバースデープレゼントを贈ろうと決めたのに、本人に心配されてしまうのでは意味がない。
「ちょっと探し物してたで、やっぱ気ぃ取られてたんかもの。……心配かけて、ごめんな」
 ヒョロくんに受けたアドバイス通り「かるたの練習に使う、いくつあっても困らない物」を贈ろうと決めた。

 「話変わるけど、千早って練習用のTシャツって、いつもどこで買うてる?」
 新にとっては全然話が変わってはいないが、これ以上千早に不安を与える訳にはいかない。
「私? ……うーん。結構色んなトコで買ってると思うけど、一番の御用達はやっぱり大田急!」
「え……それって、もしかして……」
「うん。ダディベアのオフィシャルショップ」
(うわあ……一番ハードル高いかも知れん……)
 予想はしていたが聞いた瞬間、決心が鈍りそうになる。
「新ならLサイズかなぁ。私がいつも買うのがMだし」
「ほ、ほうなんや……て言うか、そこってフリーサイズとかでないんや?」
「子供用も置いてるからかもね。私も他で買う時はフリーサイズで買っちゃうよ」
 自分が普段買うTシャツも大体フリーサイズなだけに、少し気になって新は尋ねてみた。おかげで千早の服のサイズという大きなヒントがサラっと出てきたのは収穫と言えたが。他のプレゼントはどうしようか、と考えて新の頭に一つのアイデアがぽっと浮かんだ。
(……太一にメールで聞いてみよ。そういうの詳しそうやし、千早の名前出す訳でないもんな)
「新、なんか急に生き生きしてきたっぽいね?」
「……ほうか? ……んー、まあ、さっき探し物って言うたっけか。何とかなりそうやな、って気がしてきたでかの」
 それなら良かった、と千早はにっこり笑っている。
(……やっぱ千早は笑ってるのが一番や。……随分気ぃ揉ませてもたなあ、おれ……)

 駅で千早と別れ、帰宅した新は携帯を取り出して太一に宛ててメールを送った。たまたま時間が空いていたのか折り返しの電話が掛かってくる。
『新か? おれおれ。VHSをDVDに焼くんだよな? だったら確か西田のとこで出来たはずだぜ。お前らの試合ビデオに撮ってたのDVDに焼いてたしな、ビデオデッキと接続して取り込めるならいけるんじゃねえかな。……ちなみに、何のビデオ?』
「うちのじいちゃんと佐藤清彦九段が昔、模範試合した時のビデオや。……まあ元々は八ミリで撮ったったもんやで、画質あんま良くないんやけど、一応カメラ三台使こてる」
『なあ、新? そのビデオ、おれにもコピー貰えねえかな? メディア代はちゃんと払うし。おれも見てみたい』
「あ、ほんならさ。メディア代はおれ持つで、西田くんにお願いするの頼んでいいやろか。太一の方がよう知ってるやろうし」
『オッケ、んじゃおれからメールしとくな。お前のアドレスに西田から直接返事させればいいだろ?』
「うん、勿論。太一も忙しいのにありがとう。ほんなら連絡来るの待ってるわ」
 電話を切り、新は本棚の隅から祖父の模範試合ビデオを取り出して鞄に入れておく。焼くためのDVDは大学の購買か駅近くの店で買えばいいだろう。
「……こんで、プレゼント二つ目確保、やな」

 西田に模範試合のビデオをコピーしてもらったり、出来上がったDVDの一枚を太一の家に届けたりしているうちに五月は残す所あと数日になってしまった。大学のメインストリートにあるベンチに腰掛けて、新はあれこれと考えを巡らせる。
(はぁ……。流石にもう、入るの恥ずかしいとか言うてられん。……ほやけど千早に見つからんように買いに行かんとあかんし。……って事は、千早が部か白波会でかるたしてる間しかないか……)
「……あっ、新。今から部活行くの?」
 突然呼び掛けられて新は弾かれるようにベンチから身体を起こした。
「えっ?! ……あ、千早やったんか。……あ、いや、えっとな。おれちょっと用事出来つんたで、今日だけ部活休まなあかんのや。……白波会には行けると思うで、今日はそっちで集中して練習するわ。ごめんな」
「そうなんだ……。用事じゃ仕方ないね。うん、じゃあ用事終わったら白波会で一緒に取ろうね!」
 じゃあね、と手を振って練習場へ足早に向かう千早の後ろ姿を見ていると、軽い罪悪感を覚えてしまう。
「いや、今日ちゃんと買ってまえば、もうさっきんたな(さっきみたいな)変な誤魔化しとか千早にせんでもいいんやで。……急いで行って、買ってまお」
 新はベンチから立ち上がり、駅へ向かって早足で歩き出した。

 「うわああああん、ママあー!」
 大田急百貨店の中にある、ダディベアオフィシャルショップの前ではまたしても怯えた子供が大泣きしていた。
(うっわあ……こん中入るの、勇気要るわ……)
 通路の客が減るのを待ちたかったが、白波会へ行く時間を考えるとそうゆっくりも出来ない。さっき見た大泣きしている子供が母親に連れられて立ち去った所を見計らい、新はついにダディベアショップの敷地内に一歩を踏み入れた。
「いらっしゃいませー! 何かお探しですか?」
 即座に店員が新の側に飛んで来る。普段は煩わしく感じるが、今日に限っては救いの神に見える気分だった。
「あ、ええと……女物MサイズのTシャツってどこにありますか?」
 店員に案内されてTシャツがずらりと吊されているハンガーに移動すると、新は持ち前の記憶力を発揮して千早が着ているのを見た事があるものを選り分け、それ以外から見た目が比較的無難そうなものはないかと探す。
(……やっぱ直接見ても、何でこれが千早には可愛く見えるんか、分からんなあ……)
「あ、これやったらいいかも」
 黒地に白くダディベアのシルエットが入っている、グッズの中ではシンプルなTシャツを一枚見つけた。

 とりあえずそれを候補として、もう一枚ぐらいあった方がいいかとまたTシャツを掻き分けてみた。
「贈り物ですか?」
 さっきの店員が不意に話し掛けてきて、新は口から心臓が出そうになった。
「……っと、ええ、まあ……」
「それと、対になっているデザインありますよ」
 そう言って店員が見せてきたのは、生地の色が赤く、ベアのシルエットが黒でプリントされている。よく見るとロゴ部分は「マミィベア」と綴られていた。
「この二枚はワンサイズなんですけど、少し大きめに出来てるから、男の人でもいけますよ。貴方細いし大丈夫です」
 大丈夫、と言われても正直リアクションに困るが、この二枚にしようと新は決めた。
「……えっと、ならこれ、二枚まとめて包んでください。出来たら普通の包装紙でお願いします」
 店員はサプライズなどで慣れているのか、あっさり頷いた。

 店員とレジに向かう途中で、ふと小物に目が止まった。小さなダディベアがついているヘアゴムがカゴの中に並んでいる。新はその中の一つを手にして、これも一緒にと店員に手渡した。普通の、と頼んだことで光沢のある無地の包装紙を使って、店員は手早くラッピングしていく。
(はあ……こんで全部揃ったかな……後は当日に小さいケーキでも買ってくればいいかの……)
「リボンはかけますか?」
 一番の大仕事を終えたとほっとしていた所に話し掛けられ、新の背中がまた竦む。
「え? あ……お、お願いします」
「はい。スタンプカードはお持ちですか?」
「……え、いえ」
「お作りしますか? スタンプがたまると、割引券として使えますけど」
 作ったところで押されるスタンプは多分、今回限りで終わりだろうし、カードが発行されるまでここに居続けなければいけない事の方が正直新には厳しかった。
「いえ、いいです」
 ラッピングされたTシャツを紙袋に入れてもらい、新はダディベアオフィシャルショップを出る。

 別のフロアに移動するまで、周りの買い物客が全員自分を見ているような気分だった。
「はぁ……なんか疲れた……」
 まるでレンタルビデオ店のアダルトコーナーから出てきたかのように、ひどく周囲の目が気になった。もっとも新はそういうビデオを借りた事はないが、きっとこういう気分なのだろうと妙な事を考えながら白波会への道を歩く。
「あ、いいもん見つけた」
 途中にワンコインショップを見つけ大きめのペーパーバッグを一つ買った。
「千早やと外袋見たら一発で分かってまうやろうしな。他のプレゼントも一緒にこん中入れて渡そ」
 今度こそ「探し物」は全部だ、とスッキリした顔で新は白波会へ向かった。
「今日は部活出られんかったし、こっちでしっかり練習しとこ」
 じきに千早も部活を終えてここに来るだろう。ここしばらく集中を欠いたせいで心配もさせてしまった事だし、今日は目一杯取ろうと意欲を漲らせて玄関を潜った。







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written by Hiiro Makishima