保湿系トライアルセット

201X1201 

R18版



 時間単位で区切られた貸し切り露天風呂の方へ歩いて行くと、二人の前に利用していたらしい二人連れがこちらへ向かってやって来た。肩を抱き合い、時折頬に小さくキスをして密着している様子に、新も千早も目のやり場に困ってしまう。
「……まあ、とにかく……行こっさ。……千早、足元平気か?」
 大きな石が飛び飛びに配置されている通路は、下駄履きに慣れていないと歩きにくいだろう。新は片手を差し伸べた。
「あ、うん。……ありがとう」
 その手をそっと握って、千早は新の側に寄ってきた。脱衣用の小屋の扉を開けると、昔ながらの銭湯によくありそうな竹籠が置いてある。
「脱いだもん、ここでいいみたいやの」
 小屋の入り口で千早はもじもじと浴衣の袖をつまんだり引っ張ったりして立っている。

 「おれ、先に行ってるか?」
「……え、あ……い、一緒が、いいかな……」
 赤い顔をして小屋の中に千早が入ってくる。なるべく意識しないように新は手早く浴衣を脱ぐと、腰にしっかりタオルを巻いて露天用の下駄に爪先を通す。上半身裸の新が冷えては申し訳ないと思ったのか、千早も流石に大慌てでバスタオルを身体に巻き付けて後を追ってきた。
「足元、気ぃ付けてな」
 千早に声を掛けながら新は先導するように露天への小道を進む。植え込みの陰になっていたらしく、回り込むと岩を組んで作られた露天風呂と、竹垣のはるか向こうにおぼろに見える富士山が二人の視界に飛び込んできた。
「うわあ……凄い」
 本当に雄大な景色を目の当たりにすると、形容する言葉さえ見あたらなくなるようだ。中学生の頃の新と同じような一言が千早の口をついて出た。
「うん、凄いなあ」
 吹き抜ける風はむき出しの肌にはやはり冷たい。新は下駄を脱ぎ、湯の中に身体を沈める。千早もすぐにそれに続いた。先に湯に入った新はタオルを外そうと千早の背後にそっと移動した。

 「気持ちいいね。頭は冷えてるから、のぼせないし」
 洗い立ての髪を頭の高い所で纏めている千早がうん、と伸びながら言う。普段あまり目にしない白いうなじが眩しい。
「……え? あ、ああ……ほやの」
 遠くに見える富士より、目の前の千早の方にどうしても目が惹き付けられてしまい、新の返事はいきおいはっきりしない物になる。
「……新、どうかしたの?」
「や、別に……どうもせんけど……」
 それでも声音で気付いたのか、千早は湯に浸かったまま新に向き直る。

 「……ごめん。やっぱこういう状況って……おれ、どうしても意識してもて……」
 見境のない男だと思われてしまいそうで、新は大きな溜め息を吐く。
「思わないよ、そんな事。……それに今日は新の誕生日のお祝いでここに来てるんだもん。新が楽しいのが一番かなって思うなあ」
 千早は両手を湯の中で組み、手の平をきゅっと合わせ水鉄砲のように湯を新の顔目がけて飛ばしてきた。全く予期していなかった新はそれを真正面から浴びてしまい、眼鏡を拭おうと顔から外す。
「びっくりした……いきなり何やし、ち、はや……?」
 タオルで水滴を拭った眼鏡をかけ直した新が驚いて固まる。新の目の前に、身体を少し斜めにして千早が立っていた。バスタオルは岩の上に放り投げたのか、新の視線を遮る物を何一つ身につけていない千早はゆっくり振り返る。
「あのさ、新……。意識しちゃうのは、私も……同じなんだよ」
 そう口にしながら、新のすぐ隣に千早は座り直した。身体を動かした時の水音が消えると、耳に届くのは梢が風に揺られる音と、露天風呂に注がれる湯の音だけになる。

 意を決して新はその肩を抱き寄せ、そっと唇を重ねた。
「……ん……っ……」
 新の腕に完全に身体を預けてキスを受ける千早の唇から、くぐもった声が微かに漏れる。湯の浮力で身体が安定しないのか、千早は片手を新の肩に縋るように回してきた。新は湯の中で膝をつくように座り直し、自由になった反対側の手で千早の腰を支えながらキスを深くする。
「んっ……ぅ、ん……」
 梢が鳴る合間に、艶めいた声が鼓膜を打つ。
(……こんなとこで、してもうて……いいんやろか……? って言うか、おれが止めれるうちに部屋戻る方が……って、それかってやる事前提やが……? と、とにかく一息入れた方が……)
 そう頭では思っているのに、千早を抱いている腕を解けもしない。ぐるぐると同じ事ばかりが新の頭の中を回る。それを断ち切ったのは千早の指先が触れてきた感触だった。
「……え?」
 初めは偶然かと思ったが、千早の指はすっかり立ち上がってしまったそこをそっと撫で上げている。自分の手とは違う感覚に、新の息がぐっと詰まった。
「あ、の……新。……きょ、今日は、誕生日だから……えっと、わ、私から……」
「……え、いや誕生日とかは、別に……。ああ、や、違う。ほうでのうて、その、そうやってされると……さ。気持ちいいけど……おれ、保たんし……。お湯とかも、汚してまうが……」
 否応なく呼吸が荒くなり、自分が何を言っているのか新自身、訳が分からなくなってくる。千早の指が今度は新のそこを握り込んで揺らし始めた。

 「……う、わ……っ、千早……ちょ、マジで……ヤバイって……おれ……っ」
 細い腰に回していた手が千早の身体を彷徨い出さないように堪えるのが精一杯で、千早の手を離させる余裕さえ新にはない。
「いい、の。……新が気持ちよく、なってくれる方が……嬉しいから……」
 千早にしても、誕生日という大義名分があるから今日はここまで大胆な行動に出られたのだが、やはり一抹の不安はあった。
「……」
 長い睫毛が震えているのが新の目にちらりと映り、それが新の忍耐を打ち砕いた。
(……あかん、もう……我慢なんか、利かん……)
「千早……し、て……いい?」
 告げた途端、千早の手の中で分身が一気に嵩を増す。
「……うん」
 新は千早の腰に回していた腕にぐっと力を込めて湯から立ち上がり、千早の身体をくるりと反転させると露天の縁に手をつかせた。
「え、……あ、やぁ……。あ、ん……っ」
 慌ただしく指先でまさぐられ、千早の唇から再び悩ましげな声が漏れる。

 「声、我慢って出来るか……?」
 狭い入り口に自身の熱をあてがい、新は耳元で問うた。
「分かん、ない……」
 びくりと身体を震わせながら千早が切なそうな声で答えてくる。新はほんの少しだけ千早の中に進入を試みた。
「……んっ、あ……あ」
 元からよく通る千早の声だが、こんな開けた場所でどこまで届くのか流石に新にも分からない。そして何より、こういう時の千早の声は独り占めしておきたくて、新は手の平で千早の口を塞ぎ、はち切れそうな自身をゆっくり千早に飲み込ませていった。
「……んん……っ、ん……ぅ……」
 新が入り込んでいくと、千早の背中が大きく撓る。それがまた新をきつく締め付け、すぐにでも放ってしまいたい欲を新にもたらしてしまう。
「ヤバ……っ、冗談抜きで、おれ、すぐいきそうや……っ、ゴメン、千早……っ」
 千早がしきりにかぶりを振っているが、口を塞いだままでは流石に何を言いたいのか分からない。新はそっと手を離し、身体ごと密着させる格好で千早の口元に耳を寄せた。
「謝ら、なくて……いい、の……。変な事、言うけど……ごめん、ね?」
「……変な、事?」
「新が、限界近くなるとね、私も、すごく……良くって……。止まんないから……だから、いいの」
 頬を染めて告げられた一言に、新の頭の中は一気に沸騰してしまう。背中から千早をきつく抱き、今度こそ思うままに腰を送る。
(何で、いつも……ほんな可愛い事、言うんやし……。止められる訳、ないやろ……)
 動く度に湯が喧しく音を立てているが、二人の耳に届いてはいない。
「千早……、千早っ、おれ、もう……っ!」
「んッ、うん……っ、来て、来て新……っ、あ……ぁっ、───ッ!」
 すんでの所で新は辛うじて腰を引いたが、手の平だけでは受け止め切れず、千早の背中にぽたぽたと滴り落ちていく。がくりと千早の膝が崩れ、自分が吐き出したものは波打った湯に流れて地面へ吸い込まれていった。





Next


written by Hiiro Makishima