物をこそ思へ 5
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「ごめん、退屈したやろ」 畳の上に腰を下ろしながら新は問うた。 「ううん、平気」 千早は短く答えたものの、そこで会話が詰まってしまい、二人とも何と言って続ければいいのか分からず何度かぱくぱくと口を開きかけては閉じる、を繰り返してしまう。 「……えっと、千早」 辛うじて先んじる事が出来た新が思い切って呼び掛けると、千早の身体が電気に打たれたかのように一瞬びくんと強張った。新もそれは気付いていたが敢えて何も問わず、姿勢を正して座り直すと両手を畳に付けた。 「さっきも言ったけど……千早が無理やって思ったら、遠慮せんと言ってな。おれ、こういう事はやっぱ、千早の気持ち最優先にしたいし、おれも……千早がおれを信頼して委ねてくれてからの方が、嬉しいんや」 そこまで告げて、新はそのままの姿勢で口を噤んだ。 「うん。……あのね、んっと……」 どう答えていいのか言葉が見つからなくなった千早は、座る位置を少しだけ詰めて自分の額を新の肩にそっと乗せた。 「……千早?」 すぐ近くから名を呼ぶ新の声に胸が詰まり、顔が熱くなるのが分かる。 「……いい、んか?」 喉に引っ掛かったような問い掛けに、千早は新の肩に顔を伏せたまま、微かに頷いた。 「ありがとう……」 新が顔を寄せ、小さく告げる。耳元をくすぐる吐息に身体がびくんと跳ねるのを千早はどうにも出来ずに、手を持ち上げて新のTシャツの袖を掴む。新がはっと息を飲んだ気配がした次の瞬間、千早の身体は新の腕にきつく抱き締められていた。 「千早、ちょっとだけ……顔、上げて……」 その求めにおずおずと応じると、新の唇がゆっくり降りてくる。それを千早はそっと受け止めた。 ぎこちないキスに応じてくれる千早に胸を締め付けられて、新はなるべくゆっくりと口付けを深くしていく。時折袖を掴む指先が動いたり、吐息が頬を掠めたりする事さえ嬉しかった。 「……千早、好きや……」 一度キスを解いた新は頬を千早の頬に合わせて、心に浮かんだままを口にした。 「っ、ん……っ!」 好きと告げた途端、千早の唇から今まで聞いた事のない、声にならない声が耳を打つ。訝しんでもう一度名を呼ぶと、再び零れた吐息のような声が鼓膜から新の頭を蕩かしにかかる。 (……感じて、くれてるんや。……千早……) それでも無理強いは嫌だと新は強く目を瞑り、必死に自分を抑えて言葉を発した。 「寝かせても……いいか?」 「……っ、うん……」 返事を耳にした新はなるだけ優しい動作で千早の背中を支え、ゆっくり床の上に横たわらせる。 「あ、の……」 千早が小声で呼び掛けてきた。 「……どうかした?」 言葉を返すと、千早は片手で顔を覆いながら続きを口にした。 「もう、ああしていいかこうしていいか、とか一々聞かないで……。新にされて嫌な事なんて、ない、から……」 今にも消え入りそうな様子に新の心は切ないほどの愛おしさで一杯になる。 (……何で千早、ほんな可愛い事言うんやろなあ……) 「わ、かった……。もう、聞かんとく」 やっとの思いで答えた新は、横たえさせた千早の上にゆっくり覆い被さって深く口付けた。 「……ん、……う、ん……っ……」 重ねた唇の隙間から漏れ出すくぐもった声にどうしようもなく駆り立てられる。思い切って舌を差し入れていくと、千早の舌がそっと触れてきた。 「───っ?!」 自分のものとは違う熱い感触に、新の背中がぞくりと粟立つ。けれど一度知ってしまうともっと知りたいと思ってしまう、不思議な感覚。千早も同じなのかと確かめたくて、新のキスはどんどん大胆になっていった。 身体の下に組み敷いた自分より華奢な千早の背中が大きく反り返った拍子に、胸板に押し当たった柔らかみが新しい欲を新の中に生み出した。嫌がらないだろうかと千早の反応を気にしながら、洋服越しに片手で包むように触れてみる。 「あ……っ?!」 千早の唇から紡がれる声が艶を増し、新は思わず喉仏をごくりと上下させてから今度は服の下に手を滑り込ませてもう一度そこに触れた。 「……んっ、や……だ、声……っ……!」 首筋まで真っ赤になった千早が必死にかぶりを振っている。 「気にせんくて、いいんやざ……?」 宥めるように掛けた声さえ、千早には愛撫と同じなのか余計に切なそうな声を漏らす。そんな姿を目にして堪えられる訳もない。新は片手でもどかしく自分のTシャツを脱ぎ捨てて床に放り投げ、千早のカットソーの裾をぐっと掴むと頭の方へと引っ張り上げた。 「……あ……」 頭からカットソーを引き抜くと、恥ずかしそうに千早が身じろぐ。背中が畳に擦れたような音で新の頭が一瞬だけ冷静さを取り戻した。 「ちょっとだけ、待って。背中、辛そうやし」 言うなり新は跳ね起きて押し入れから布団を出すと、千早を横抱きにして立ったまま爪先で蹴って布団を広げた上にゆっくりと千早を下ろした。 「別に、何とも……ないけど……」 「……何ともないんなら、どっちでもいいやろ」 本音を言えば、今しかそんな風に気を配れる機会もないだろうと思う。押し問答になりたくなくて、新は千早が一番鋭敏な反応を見せた耳にキスを落としていく。 「やっ、新……、それ、おかしく……なっちゃう……!」 「……なっていい。おれかって、おんなじや」 言いながらキスする場所を首筋へと変えて、千早が仰け反った時を狙って背中の下に手を差し込んでブラを外す。生まれて初めて他人の視線を許しただろう白く柔らかそうな胸元を賛美したい気分で新は唇を触れさせた。 |