201X0601 4.5
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呼吸が元に戻った千早が、ちゃんと身体を洗い直すと言ってまたスポンジを手に新の背後に移動した。 「別に、いいのに。ほんな事」 「私がしたいから、やるの」 そう言って新の両腕や首筋まで念入りにスポンジを動かしだした。 「……主役に身体洗ってもらうって、どんなんや」 立場が逆だろうと呟くが、密着している千早の胸の柔らかみに身体が反応してしまう。 「ふふ」 ボディソープの泡をつけたままの千早の手が背中から回り、とっくに昂ぶっている新を指先で撫でる。 「……っ」 息を詰めた新の耳に、どこか悪戯っぽい響きを帯びた声が飛び込んできた。 「ねえ、新? 私、聞きたいなあ。新の……声」 「え……?」 聞き返そうと思うのに、千早の指が許してくれない。ぴったりと密着したまま、また小さく笑いながら紡がれる言葉が鼓膜を刺激して、新の背中をぞくぞくした感覚が走り抜ける。 「うん。……新が、いくときの、声」 「……っ、なん、で……ほんなもん……」 千早が達する時ならともかく、男の自分がつい漏らしてしまう声の何が面白い、と頭の中では思うのに、まともに言葉にできなかった。その時密着は解かないまま指が離れた。 「いつも私ばっかりだけど……新、結構我慢してるよね?」 「……そうでも、ないけど……」 堪えていると言えば確かにその通りだが、それは少しでも長く千早の中に留まっていたいからだ。 「歯を食いしばってるの、聞こえてる」 千早がずば抜けた聴力の持ち主なのは良く分かっているだけに、その一言を否定できない。難しい顔を浮かべた時、それに、という声が耳に届いた。 「今日は私が主役。そうだよね?」 さっき自分が言った事を畳み掛けられ、逃げ道を塞がれてしまう。 「ちょっとだけ、真面目に聞きたいんやけど……何でほんなもん、聞きたいんや?」 「だってさ? 限界近い時の新は、普段と違って切なそうな声、出してる。それが、何か凄く胸に響くのに、ちゃんと聞けた事ないから。……聞いてみたいんだ」 その声が千早の枷も解き放ってしまうと耳元で言われて、ほとんど自棄で新は言葉を返した。 「……一回、だけや」 ぼそりと告げる。 「新は、優しいな。……我慢なしだよ。してたら、また聞く」 二度目などあって欲しくない。新は黙って頷いた。それを受けて千早は一旦背中から離れ、壁からシャワーノズルを外してコックを捻る。 「泡、流すね」 そう言って新の肩に優しく湯を流してきた。柔らかな掌が肩からそっと滑るだけでも、せっかく治まりかけたボルテージが上がる。泡を流し終えた千早が今度は正面から抱きついて、新の頬にそっと自分の頬を合わせた。 「……大好きだよ、新」 千早に囁かれ、新の鼓動が一気に早まる。 「っ、おれ、も……や。……っく……」 新が返そうとした言葉は、耳を啄むようなキスで喉に引っ掛かってしまった。 千早の唇が首筋を伝って徐々に下りてくると、新の息はたちまち乱れる。 「……千早……」 我慢するなと言われて気さえ逸らせず、自分でも驚くほど余裕のない、掠れた声が口をつく。キスと一緒に抱きついたままの指が背中を這い降りて、ぞくりとした感覚が再び電流のように新の身体を駆け抜けた。 「あ……っ、う……」 柔らかな唇が脇腹を滑り、今度は腿にキスを落とし、舌先がそれに続く。腰に巻き付いていた腕がするりと解かれ、そのまま新のそこに細い指が絡みついた。先端から零れる露を掬い、いつもは千早の中に迸らせる出口に優しく塗りつけながら往復されると、頭の中が沸騰したように何も考えられなくなる。 「ち、はや……っ、すご……」 声が上擦って最後まで言い切れない。指が動くたびに、もっと千早に包まれたいと跳ねる腰さえ抑える術がなかった。 「……どうして、欲しい? 新」 また腿にキスをされ、顔を上げた千早が尋ねてきた。それへの答えなど、新の中では決まり切っている。 「入れたい……千早に」 「……それは、ダメ。聞けなくなるし」 新が一番求めている事を躱されながら指先で撫でられ、胸の裡で渦を巻いている衝動が荒い息と一緒に言葉になった。 「千早の、口で……して」 さっきみたいに? と重ねて問われた。一度告げてしまうと、抵抗感はぐっと減っていると気付き、新は言葉を返す。 「うん。……さっきみたいに、されたい……」 記憶にある限り、千早の口の中で果てた経験は一度きりだ。その時はお互い不慣れなせいで、千早の顔を汚してしまうと気にしながらも堪えきれなかった。もちろん今もそれを気にする部分はあるが、果ててみたいという欲もまた、新の中にあった。 「……うん」 求めに短く応じた千早が啄むようにキスを落とし、新を這い上がってくる。 「っあ……」 新は片手を伸ばして千早の髪をくしゃりと掴むと、唇が柔らかく先端を包んでくれた。 「……んっ……」 千早のくぐもった声が鼓膜を打っただけで、自分がぐっと嵩を増す。それを感じ取ったのか、小作りな顔がゆっくり上下に動き出して、新の腰に切なくなるほど甘い電流が走る。 「……っ、う……、千早……っ」 飲み込んだまま、熱い舌先にくすぐられ、新はもう片方の指を細い肩に回す。そうでもしないと、千早の頭を掴んで大きく揺すり立てたくなりそうだった。 新のそこは硬く張り詰めているし、ぐっと息を飲んだ後に唇から零れる切なげなトーンも千早の鼓膜に届いている。けれどそれ以上に押し上がらない。 「……我慢、してないよね?」 一度顔を離して千早は訊いてみた。 「して……えんよ。……何で?」 「いくらしても、新が……いきそうに、ないから……」 どうやったら聞けるのかな、という呟きに、新はヒントを与える。 「……いつも、おれ、どんな風? ……ギリギリや、って時」 千早の目が見開かれた。 (そうだ、新っていつも、すごく激しく動いて……くるよね) 理由が分かった千早は、再び新を飲み込んだ唇のすぐ下を片手で柔らかく握る。顔を上下させるのに合わせてその手も一緒に動かしてみた。 「く、……ぅっ、ちは、や……! っあ……」 問う前より数段切なそうな新の声が頭上から降ってくる。自分の手が動くとぐっと詰まった呼吸が聞こえ、肩を掴んでいた大きな手が腕や首筋を不規則に彷徨っているのが分かる。 「新……もっと気持ち良く、なって?」 一度顔を離して告げ、その言葉通り新にもっと感じて欲しいと、千早はもっと深く新を飲み込み、添えた手ごと大きく早く動く。 「……っ! あ、あ……千早……っ、凄い、すごく……いい……」 新が感じたままを切れ切れに口にしている。荒くなった呼吸を隠そうともせず、彷徨う手が時折肩をきつく掴み、水位が上がっている事を教えてくれていた。それが嬉しくて吸い上げるように顔を動かしだす。 「う、あ……っ! ダメや、もう……! 千早、おれ、……っ、千早……っ!」 新の喉から一切の余裕が失せた声が紡ぎ出され、その声の通りに嵩がまた増し、新が限界まで張り詰める。 「……っふ、あ……」 少し息を継ごうとして千早がくぐもった声を漏らした時、新の手が一際強い力で肩を掴んできた。 「いって、まう……っ! ち、はや……! い、……くっ……、───っ!」 新の全身に力が入った次の瞬間、熱が千早の口に迸った。腰が跳ねるように震えるたび、その熱もまた吹き上がる。ようやくそれが収まってから、千早は口を離して新が放った熱をそのまま飲み下した。 しばらくすると新の呼吸は静かになる。普段自分はそう早くは息が戻らないのに、と千早は不思議に感じて聞いてみた。 「……男は、ほんなもんや。……て言うか千早、まさかさっき……飲んでもた?」 「うん」 短く言って頷くと、新は酷く複雑な顔付きになる。 「……どうかした?」 「いや……。あんなもん不味いやろに。……ほやのに、なんか嬉しい気もしてまうし。けど口、ゆすいどきね」 新は混合栓を捻り、シャワーの湯を出して千早に手渡してきた。逆らわず新に背中を向けて少しだけ口を漱いでからまた新と向かい合う。 まっすぐ向き直った千早の小さな笑みを見た途端、達する時の声を聞かせた気恥ずかしさや、自分の放ったものを飲み込ませた申し訳なさ、そのくせ千早の口の中で果てたいという望みが叶って嬉しいというような、ない交ぜになっていた感情が全て同じに変わる。 「ちょっとだけ、抱き締めさせて」 両腕を伸ばすと千早の身体は逆らわずに新の胸に添う。一つに纏まった愛おしさだけが新の中に在った。抱きたい、ではなくその気持ちだけを伝えるように抱き締めたいと、千早の息が苦しくならないように優しく、それでいて力強く背中を抱き寄せた。 「……新、ありがとう。変なお願いきいてくれて」 腕の中からソフトな声が届く。 「うん。……まあ、一緒にしてる時やったら聞いて構わんけど」 「……一人の時は?」 その妙な問い掛けに新は笑ってしまった。 「悪趣味や」 |