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千早とのセックスはもう何度も体験しているが、一晩に何度もというのはそうそうある事ではなくて、お互いかるたで鍛えているにもかかわらず全身がずっしり重かった。 「はぁ……いっぺん、ちゃんと身体洗って温まろっさ。……その、変な気起こすのナシの方向で」 「そうだね。髪、先に洗ってもいいかな」 いいよと答えて新は浴槽に身体を沈める。千早は壁のフックにシャワーを掛け直し、前屈みになって髪を濡らし始めた。 「……そんだけ長いと、洗うの大変そうやなあ……」 新は凄いな、と浴槽の縁に顎を乗せ、髪を洗っている千早を眺めながら思ったままを口にする。 「んー? でも慣れちゃったしね」 「ほうやって見てると女の子って、何か色々大変っちゅうか……んー。やっぱ、凄いってしか言えんけど」 我ながらボキャブラリーに乏しい、と新は苦笑を押し上げた。 「はい、交代」 髪を洗い終えた千早はアメニティに付いていたヘアゴムで濡れた髪をトップでお団子にして湯船に入ってきた。 「ん。……ええと、こっちのがシャンプーで、こっちのがトリートメントやな。慣れん容器やと紛らわしいな……」 新は二つのポンプボトルを、まるでかるた札を並べるように左右に大きく離して置いた。 「……何でその配置?」 「離して置いた理由か? ……これや、これ。……悪いけど千早、持っててくれるか?」 新は愛用の眼鏡を外してつるを畳み、千早の方に差し出した。千早が受け取ったのを手の上の重みで判断し、髪を洗い出す。 「あれ、案外軽いんだね。眼鏡って」 これまで眼鏡と無縁だった千早は、もう少し重いのかと思っていたと口にする。 「おれはほら、寝る時以外は掛けたまんまやで、重い眼鏡やと辛いしの。最近は軽いレンズも多いで助かるわ」 「へえ……」 好奇心がくすぐられ、千早は新の眼鏡を掛けてみた。視力のいい千早にその度数は当然合う筈もなく、却って目眩を起こしてしまう。 「うわ、わ……クラクラする」 慌てて眼鏡を顔から外し、畳んで片手に持ち直した。 「クラクラ、って……おれの眼鏡掛けたんか? ……アホやなあ、度なんか合う訳ないがの」 髪を洗い終えた新がほら、と手のひらを上にして差し出してきた。千早はその手の上に眼鏡をそっと返す。新は礼を言って眼鏡を掛け、湯船に浸かった。 「クラクラしたの、治まったか?」 「あ、うん。……もう平気」 ならいいけど、と新はほっと息を一つ吐く。 「新はさ、コンタクトにしようとか思った事ってないの?」 眼鏡を掛ける習慣がない千早は、顔の前に何かあるという状態はかるたも取りづらいのではないかという気がして聞いてみた。 「ん、ないなあ。……かるた取りづらいとかって、途中から眼鏡掛けるようになった人は思うかも知れんけど、おれ物心ついてからずっとこうやしさ」 (……あんなモン目の中に入れるの怖いとか、流石に言われんな……) 「そっかぁ……」 何故か千早は溜め息混じりに呟いている。 「何やし、溜め息吐いて。……気になる事でもある?」 「え、あ……。実はね、プールの入場券貰ったから、新を誘おうって思ってたんだけど……おっきなスライダーがある所」 そうした施設では眼鏡を予め外して係員に預けるなどしなければならないだろうから、と千早は膝を曲げ、その上に顎を乗せて話す。一緒に行けそうにない落胆がありありと顔に浮かんでいた。 「あー……そういう事か。……うん、いいざ?」 「え? でも新、眼鏡……」 「……中に居る時だけ、使い捨てのコンタクトでも試せば、まあ何とかなるやろし」 そういう機会でもなければ、多分試す気にもならないだろうが。 「い、いいの? ……ほんとに?」 千早はおずおずと聞いてくる。 「うん。まあ、何べんか練習せんとあかんけど……わっ」 「ありがとう! ありがとう、新!」 身体ごとぶつかってくる勢いで千早が飛び付いてきた。 「お礼言われるような事で、ないやろ? ……おれも、楽しみにしとく」 「うん!」 プールとコンタクトレンズの話が一段落ついたところで、新は流石に喉の渇きを覚える。そう言えばここへ入ってから何も水分を摂っていなかった。 「……風呂上がったら、何か飲もっか? ちょっと喉渇いた、おれ」 「あ、私もー。って言うか少し、喉痛い、かも」 千早は指先で軽く喉を撫でている。 「え、千早、風邪か?!」 「違うってば。……新のせい、なんだけど。どっちかって言えば」 「……おれのせい?」 意味が掴めず新は首を傾げる。その鈍感っぷりに千早は少し頬を膨らませて新の顔を見上げた。 「私に、おっきな声……出させたの、新でしょ」 「……っ、ごめん……」 ようやく千早の言いたい事が分かった新は耳まで赤くして詫びた。それを見た千早は小さく声を立てて笑う。 「ふふっ。でも、いいよ。……新のせいだけど、新にしか……聞かせないし」 「……ほやな。おれのせいで、いいわ。その代わり誰にも聞かせんし」 浴室から出た二人はバスローブに袖を通して冷蔵庫から飲み物を取り出した。 「はぁ、美味しい……」 ソファに腰掛けてよく冷えたアイソトニック飲料を飲んでいる千早は、元々のスタイルの良さと相まってとても様になっている。新はドリンクを飲む手を止めてつい見惚れてしまった。 「……? 新、どうしたの?」 「え? ……いや」 照れ隠しに冷えたドリンクを一気に呷ったせいで新の胸がぐっと詰まる。手のひらで胸元を擦って落ち着かせた後、ようやく長々と息を吐き出した。 「そういう格好も似合ってるって思ったんや」 「……そう? 新もなんか、見慣れた感じするよ? ……んーっと……。あ、そっか。試合!」 千早の中では答えに行き当たったのだろう。ぱっと顔を輝かせて言ってくるが、新にはよく飲み込めない。 「……試合?」 「うん。試合の時の着物と感じが似てるって思ったの」 (襟が左前って以外共通点ない気するけど……まあ、いいか……) 千早がそう思うなら、ムキになって突っ込む事もないだろうと新はふっと笑う。 「もう結構、いい時間かの。……明かり、落としとくか?」 「うん。……あ、ニュース見ていい?」 千早は新に断ってテレビのスイッチを入れる。 『あぁ……あっ、あんっ、いい、んっ、あぁんっ!』 何の前置きもなく大画面一杯にアダルトビデオが流れ出して、千早は手からリモコンを取り落としてしまった。 「……消すざ?」 部屋の照明を暗くした新が床からリモコンを拾い上げ、テレビの電源をオフにした。 「びっ……くり、したあ……」 ようやく我に返った千早がふうっと長い息を吐く。 「まあ、そうやろの」 「新、何でそんな平気なの? ……えと、見た事、あるの……?」 (何ちゅう事聞いてくるんや、もう……) 「おれかって男やし。見た事ぐらいはあるけどさ」 ただ、今はすぐ隣に千早が居る。どんなビデオよりも容易く新に火を点けてしまう相手に比べたら、画面の中の行為にそこまで欲情はしないだけだ。 「……平気かって言われると、断言は出来んけど。って言うか……どうしても、千早やったらどういう反応するんかなー、とか思ってまうし。今はほら、見たの一瞬やったで考える余地も何もないけど」 どうにも言い訳くさく聞こえてしまいそうだった。 「あの、さ。……新、続き見たいんなら、いいよ? 見ても……」 唐突に千早が言い出して、新は呆気に取られてしまった。 「見る必要ないやろ? ……あのな、千早。おれにとっては、千早のちょっとした反応とかの方が、嬉しいし、そそられてまうんや。ほやで、要らんし……見るぐらいなら、こう、したい」 千早の顎をそっと持ち上げて、新は上体を屈め唇を重ねた。千早の腕が首に巻き付いてきたのをそのままにさせ、新は千早の腰を支えて立たせ、そのまま長い長いキスを交わす。 「……っ、ん……っ」 ようやくキスが解かれると、上気した千早の身体がふわりと新の胸に倒れ込む。新は片手で千早を支え、空いた手でベッドの掛け布団をめくり上げた。 横たわりながら、ゆったりと優しい愛撫を新は繰り返す。千早は自分の身体が隅々まで柔らかく溶けていくような感じがして、艶めいた吐息を何度も零した。 流石に今日三度目の行為とあって、新に焦る気持ちは全くない。心の赴くままキスをして、細い身体を抱き締める。千早の準備が出来たと分かっても、いつものように慌てて挿入する事はせず、繋がりを実感できるようゆっくりと千早の中を押し開き、波のように優しく動かしていった。 「は……ぁ、っ……新、すごく、気持ちいい……」 「……うん、おれも。……こんな事言うと、似合わんかな」 新は千早の手に指を絡めて繋ぎ、優しい眼差しを千早の顔に向けたまま口を開いた。 「千早、───愛してる」 大きな目が見開かれ、そこからじわりと涙が溢れ出す。 「新……。一番素敵な誕生日プレゼント、貰っちゃったね、私。……すごく、幸せ」 心が震えてどうしようもない。それは千早の身体にもじわりと広がり、新の言葉を噛みしめながら千早は頂点へと駆け上り、少し遅れて新も全てを吐き出した。 |