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「……どしたんや? 千早」 洗面台の上にあったアメニティの一つを手にしている千早に新は呼び掛ける。もっとも目の前が全面大きな鏡になっている化粧台は、鏡越しでも千早と視線が合い、どちらに顔を向けていいのか少し迷ってしまった。 「新、ほら、これ見てこれ。……バスバブルって書いてあるよ」 「……これ、アレか? 洋画とかである、泡だらけの風呂のやつ」 千早は袋を裏返して使い方を読んでみる。どうやら新の言った事で正解だったようだ。ただし新の表現は情緒も何もあったものではなかったが。 「これ、試してみたいなあ。ダメ?」 「いいざ? 蛇口の下目がけて置けばいいんやな?」 新は笑ってその袋を風呂場の浴槽に持って行く。興味があるのか千早も一緒に付いてきた。空の浴槽に栓をして、蛇口の湯が当たりそうな位置に袋の中身を撒くと、とろりとした洗剤のような液体が浴槽の底に丸く輪を作る。その輪を目がけて勢いよく湯を出すと、説明書にある通りもの凄い量の泡がぶくぶくとわき始めた。 「おお、凄い! ホントに映画のお風呂みたいだね!」 千早は子供のようにはしゃいでいる。それを見られただけでも今日、あれだけ恥ずかしいのを我慢して千早を誘った価値がある、と新の顔が綻んだ。 「ね、ね、新。せっかくだし一緒に入ろうよ」 「……え?」 確かにここの浴槽は二人で入っても十分な広さがある。アパートの風呂が狭いからという理由でしかないが、今まで一度も千早と一緒に入浴した事がない新は一瞬躊躇する。 「だって何か楽しそうだし」 「今日は主役の言う事聞く日やもんな。そうしよっか」 洗面台の下にあったカゴの中にも何か色々と入っている。新はカゴごと引っ張り出して中を見てみた。 「んーと、これバスタオルやろ、これ普通ので、これは……あ、マットか。……ほんで、これは何やろ?」 同じパイル地のようだがと引っ張り出してみると、それには袖がついている。 「わあ、バスローブ! なんかホントに映画みたいだね」 千早が服を脱ぎだしたのが見えて新は慌てて背中を向けるが、洗面台の大鏡に姿が映って結局どっちを向いても千早が見えてしまう。諦めて新も自分の服を脱ぎ始めた。 (……何でこうも節操ないんや、おれのは……) すでに変化を来し始めている分身を恨めしく思い、腰にタオルをしっかりと巻く。 「新、早くおいでよー」 千早は早々に湯船の中に居た。後から後から沸き上がる泡で浴槽の中が見えないのは幸いだと新も浴室へ足を踏み入れる。 「ほんとに泡すごいな、これ」 どこに千早の脚があるか分からないから慎重に浴槽の中に身体を沈めていく。湯の嵩が増して口元まで泡に覆われそうだった。 「ぶ、口ん中入ってまいそうや……」 まだ出したままだった蛇口の湯で手を流して顔を拭く。見た目は優雅そうだが、新個人の感想としてはやはり日本人らしく普通の風呂の方が落ち着けるようだった。 (まあ、千早には似合ってるけど……ああやって、泡すくって遊んでるのなんか、どっかの女優さんみたいやもんな……) 「……どうかしたの?」 新の視線に気付いた千早が首を傾げて問う。 「いや、そうやってるの似合うんやなあって思っただけや」 その言葉に照れたのか千早は浴槽の中で身体の向きを変えようと動く。湯の中が見えていないせいで爪先が新の脛を軽く蹴飛ばしてしまった。 「あっ、ゴメン! 痛かった?」 「いや、平気や。下見えんで仕方ないし」 新がそう言うと、千早は浴槽の底を手で探りながらゆっくり後ろを向き、そのまま背中を新の胸に預けるようにもたれ掛かってきた。 「これなら蹴らないよね」 「まあ……そうやけど……」 こうも密着してしまうと、それはそれで新は落ち着かなくなる。千早の長い髪は半分ほどまでが泡に覆われて背中にへばりついていた。 「髪、くっ付いつんてるな」 言いながら肩口の髪をまとめて片方の首筋を露わにさせる。 「くすぐったい……」 千早が小さく身をよじる。くすぐったいだけの反応とも少し違う気がして、新は片手を湯の中に潜らせて背中から千早の身体に腕を回し、残る片手でそっと背中を泡ごと撫で上げた。 「……やぁ……」 「千早、身体……洗うか?」 耳元で言うと恥ずかしそうに頷いてくる。新は一つ笑って慎重に浴槽から身体を引き上げてシャワーコックを捻り、浴室全体に暖かい湯を流す。床が十分暖かくなったところで浴室用の椅子を引いてきた。 「千早、ここ座りね。今日の主役やし」 椅子を示しながら新はスポンジにボディソープを付けて泡立てる。 「……なんか変な感じ。すごく小さい頃とかはお母さんとかに背中洗ってもらったけど」 それは新にも覚えのある事だ。二人してクスクス笑うと、スポンジを持った手が背中を優しく往復しはじめた。 「強すぎとか弱すぎやったら、言うてな?」 「ちょうどいいよ? 気持ちいい」 「ほやったら良かったわ」 とは言うものの、新にはやはり目の前に起伏に富んだしなやかな身体があるという状況は刺激的だ。スポンジ越しとはいえ無駄のない背中の感触や、くびれたウエスト、そこから魅力的なカーブを描く腰と長い脚。背中越しに時折見える柔らかそうな胸。ついその起伏を自分の指で確かめたくなってしまう。 「わあ、泡ですべすべ」 不意に千早が自分の腕を撫でてそんな事を言い出した。それに釣られて新はスポンジを持っていない方の手で千早の二の腕を同じように撫でてみる。 「……ほんとやな」 そのまま指先を肩から首筋に動かすと、千早の唇から悩ましげな吐息が漏れて新の頭をくらりと揺らす。堪らずにスポンジを床に落として両腕で背後から千早を抱き締め、手の平を少しずつ上に押し上げていく。 「……っ、んっ……」 浴室に谺する声に力を得て、新の手は泡がついたままの千早の胸をすくい上げ、指先で先端を探り当てた。 「っあ、あ……あっ……」 「……千早、なんか……いつもより、感じやすくなってえん?」 元から感じやすい質ではあるが、今日の千早の反応はいつもよりさらに敏感な気がして新は聞いた。 「だって……こんな風に、するのって……初めてだし……」 泡の滑りのせいで普段と違った感じ方になっているらしい。 「確かにの。おれも、触ってて……なんか気持ちいい」 答えながら今度は片手を下げ、泡で濡れた茂みを越えてその奥にそっと指を滑らせた。 「あっ、やぁ……あぁ、んっ……」 仰け反った千早の手が新の腿の上で滑る。 「……っ」 新の腰にもぞくりとした感覚が走って今の千早がどう感じているのか分かり、小さな粒を探り当てた指先を優しく動かした。 「あっ……あぁ……それ、ダメぇ……」 指先が捉えたぬめりは石鹸のものではない。が、泡の滑りがあるだけで千早の反応がこうまで違うのかと思うと、石鹸にまで嫉妬したくなる自分に気付き、新は苦笑を頬に押し上げた。 「……新ぁ……」 椅子の上では身体を支えきれなくなった千早が新の胸に倒れ込んでくる。新は床に直接座り込んで千早を受け止め、邪魔になった椅子を足で浴槽の隅に押しやった。 「おれに凭れてれば、いいざ」 耳元で言うと千早の身体はいつもの通りびくりと跳ねて、言われた通りに新の胸にもたれ掛かる。気を良くして新は再び指を一番感じやすい蕾にそっと触れさせて、あくまでも優しく撫で上げていった。 「んっ、……あ、あ……っ、あ、新ぁ……っ、もう、ダメ……っ!」 千早の漏らす声からだんだん余裕が失せていくのが分かる。新はすぐ目の前にある千早の耳にいくつもキスを落とし、同時に指先の動きを早めてやった。 「やっ、だ、ダメぇっ、いっ、ちゃう……! あ、あ、───ッ!」 感極まった声を上げながら千早は小刻みに身体を震わせて達し、くたりと新の肩に頭を凭れさせて荒い息を吐く。 「……千早、ベッド行こ?」 シャワーホースを手繰り寄せて身体についた泡を優しく洗い流しながら新が尋ねると、千早はまだ少しぼんやりしたような目のまま、それでもこくりと頷き返してきた。 (さっきの見てたら、正直おれも……我慢できる気せんな、やっぱ……) 「……立てるか?」 「ん……ごめん、もう、ちょっと……待って」 やはりまだ力が入らないらしい。新はシャワーを止めると脱衣場からバスタオルを持って戻り、手早く自分と千早の身体を拭いてそのまま横抱きにして慎重に浴室を出た。 「待ってたげたいけど、……おれが無理や」 歩きながら言うと、千早の腕がするりと新の首に巻き付いてきて小さな声で告げてきた。 「……私も……」 |